警備員の仮眠時間及び休憩時間の労働時間性
株式会社佐々木総研
人事労務今回、紹介する判例の特徴です。
労働からの解放が保証されていない仮眠時間・休憩時間および使用者の指揮命令下における着替え・朝礼時間は、いずれも労働時間に該当するとされた地裁判決です。
■警備会社I社未払賃金等請求事件 千葉地裁 平成29年5月17日判決
【事件の概要】
Xは、3店舗のショッピングセンターでの警備業務等に従事していた。就業時間は、1ヵ月単位の変形労働時間制を取っており、I社で作成する勤務表によって決まっていた。N店およびK店の勤務割のうち、本件割増賃金請求に関連するものは次のとおりであった。
[N店]
午前8時30分からの24時間勤務。
午後10時から30分を休憩時間、午前0時から4時間30分を仮眠時間
[K店]
A勤務 午前9時30分からの24時間勤務。午前1時または午前2時からの4時間を仮眠時間
C勤務 午後6時からの12時間勤務。午前1時からの1時間を休憩時間
(その他、B勤務と変則勤務がある。)
夜間は3名体制で常に1名は勤務時間となるように勤務割が組まれていた。
また、S店では、始業時間は午前8時であるが、午前7時35分から事業場内の待機室で朝礼が行われていた。警備員は全員制服を着用して朝礼に出席することが義務付けられており、制服への更衣は事業場内で行うこととされていた。
①N店及びK店において従事した警備業務での仮眠時間及び休憩時間と、さらに②S店での着替え及び朝礼に要した時間も労働時間に当たると主張し、これらをいずれも労働時間と認定し、Xの請求額の大部分を容認した。
【判断】
① 仮眠時間及び休憩時間について
[N店] N店の警備は1名体制であり、警備員は機器類の発令時には即応が求められていたこと、そのため、仮眠場所はN店の防災センター内の警備員控室とされており、仮眠時間中も防災センターを離れることは許されておらず、寝間着に着替えて仮眠することもなかったことなどが認められる。
これらの事実に照らせば、N店における仮眠時間および休憩時間は、全体として労働からの解放が保証されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると判断できる。
したがって、労働基準法上の労働時間に該当する。
[K店] 防犯警報発報時の対応を定めた手順書には、休憩等に入っている警備員が現場監視を行うべき旨の記載があり、仮眠時間または休憩時間に入っている警備員に現場対応を求める旨を記載したものと解するのが相当である。
また、発報時は仮眠中の警備員も起きることとする旨の注意書きが付されたフローチャートに基づき対応訓練を行うなどの注意喚起を図ったりしていた。さらに、仮眠時間または休憩時間に防災センターを離れる場合、発報時に即応できるように行き先を勤務時間中の警備員に伝えるとともに、連絡が取れる状態を確保していた。
以上のことを総合すると、Xは、仮眠時間および休憩時間の間、K店またはその近辺における待機と発報等に対して直ちに相当の対応をすることが義務付けられていたというべきである。
したがって、仮眠時間または休憩時間は、労働契約上の労働時間に該当する。
② 着替え及び朝礼に要した時間
Xは、S店で朝礼への出席およびこれに先立つ制服への着替えを義務付けられ、これらを事業場内で行うこととされていたというべきであって、これらに要する時間は、I社の指揮命令下に置かれていたものと評価できる。Xは、朝礼に25分を、着替えに10分を要し、これらの時間は社会通念上必要であったと認められるから、所定労働時間の労働に加えて、さらに1日当たり合計35分が労働時間に該当する。
【ポイント】
就業規則上休憩とされている時間でも、いわゆる手待ち時間(使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない状態にある時間)は、完全に労働から離れることを保障されていないため、労働時間と判断されます。
さらに、従業員が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内ですることを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと判断されます。
これら行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働契約上の労働時間に該当するとされています。
休憩時間中に交代人員の確保が難しく、休憩中の従業員が来客対応や電話対応を行っている事業者も実際には少なくないと思われますが、使用者には、労働時間が6時間超8時間以下の場合は45分以上、労働時間が8時間超の場合は1時間以上の休憩を与える義務があります(労働基準法34条1項)。
そうである以上、事業者は、休憩時間中は従業員が完全に労働から離れることができるように、人員体制・業務体制を構築する必要があります。
人事労務課
著者紹介
- 人事コンサルティング部 人事コンサル課
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