【医療・介護あれこれ】西日本国際福祉機器展② 『認知症になっても安心して住み続けることができるまちづくり』
長 幸美
アドバイザリーさて、前回は『繋活シンポジウム』のことをお話ししました。
今回は、『認知症になっても安心して住み続けることができるまちづくり』についてお話しします。これは、福岡県保険医協会主催のパネルディスカッションでした。
はじめに福岡県大牟田市の取組を大谷るみ子氏から説明がありました。
厚生労働省のモデル事業にも認定されている地域です。福岡県の中でも高齢化が早くから進んでいる地域です。そもそも、認知症になったら、どのようになるのでしょうか?
超高齢化社会といわれていますが、大牟田市もご多分に漏れず高齢化が進んでいる状況です。その中でどのようなことをされてきたのでしょうか?
大牟田市は、『安心して徘徊できるまちづくり』を進めてこられました。『徘徊』については後程詳しく述べていきますが・・・
要するに『高齢者が安心して歩けるまち』を作るためにどうすればよいのか?
また、『高齢者が外に出て行ける居場所』を作るためにどうすればよいのか?ということを考えられたそうです。
大牟田市は21小学校区あります。それぞれの校区に小規模多機能又はグループホームなどの施設を2か所、加えて地域交流センターを作ることを目標にして、現在は小規模多機能ホームが25か所、地域交流センターが45か所設置されているそうです。
そもそもは『認知症の高齢者同士が交流できる場所がほしい』『コミュニケーションの場がない』という声が当事者から上がってきたことがあったためだということです。
その中には、グループホームに長く入居されている方が、『職安に行ってくる』と出かけようとされ、『仕事がしたい』という欲求があったとのこと。その施設では月に1回カレー屋さんを開くことにして、その入居者さんがしっかりと調理して『仕事をする』という生きがいを持たれていたとのこと。『認知症であってもできることはたくさんあるし、私たちよりも優れていることがあるのです。』とおっしゃっていました。
取組の中で中学校や高校での認知症を知ってもらうための取組の紹介がありました。中学生や高校生に対しグループワークを行い、自分達でどんな事ができるのかを話し合っているそうです。その子供達が、「サポーターの役割」を担っているとのこと。そのサポーターは『井戸端会議の場の提供』や『若年性認知症の登山会』『家族会(つどい)』などにも参加するなど、さまざまなボランティアの活動が継続して行われているということにも驚きました。これらが功を奏して、通学時に高齢者の異変を見つけ、助けを呼んだために大事に至らなかったということも何度もあり、しっかりと地域に根付いた取組だということが感じられました。
活動の中の一つに『模擬訓練』があります。
『徘徊』する高齢者に対し、その対応の『模擬訓練』を行う自治体が多くなってきていますが、皆さんの町の『模擬訓練』はどのようなことをされているでしょうか?
継続して取組が進められているでしょうか?
何かの取組を継続していくということは、どのようなものでも大変な労力がかかってきます。「本当に役に立っているのだろうか」、「こんなことをしてもなあ」等という様々な声が聞こえてきたりするとなおさら継続するモティベーションが下がってきてしまいます。
この大牟田市では、21小学校区がそれぞれ自主的にプログラムを組んで実施しているとのこと。『訓練は年に1回だけれど、本番は年に25回程度あるんですよ』と笑顔で話をされる大谷さんからは、地域の中の声を聴きながら一つひとつ対応することが、全て『まちづくり』に繋がっていくという自信を感じることができました。
大牟田市では、今年から『徘徊』という言葉を使わないようにしようと採択されたとのことです。理由は、『徘徊』という言葉の意味は『あてもなく歩き回ること』であり、認知症の方の行動にはそぐわないことが大きな理由だったそうです。
また、大牟田市ではより専門的な知識と多角的な眼を持った『認知症コーディネーター』を育成されています。2年間400時間にも及ぶ研修を経て、パーソンセンタードケア(その人中心のケア)やライフサポートワーク(地域生活支援)について学んでいくそうです。現在までに95名の方が受講され、その中の2名が大牟田市に所属し『コーディネーター』として働いているそうです。
パネルディスカッションでは、北九州市における『新オレンジプラン』の取組を行政の担当者から説明があり、学術面からの話、現場の立場では認知症デイサービスをされている方の『認知症カフェ』の話、守恒、長崎地区など数か所で行われている模擬訓練の報告などがありました。
その中では、幼稚園児・小学校低学年児と認知症や統合失調症の方との触れ合いにより、『介護事業に興味を持ってもらうこと』や『怖くないよ』ということを子供達に教えていくことも必要なのではないかということや、行政に任せきりにせず、住民が考えていくことが大事であること、過疎が進んでいるから何もできないのではない、ということを教えられたように思います。
皆さんのお住いの地域ではどうでしょうか?
前回の『在宅ホスピス』、今回の『まちづくり』どちらも根底には『地域包括ケアシステムの構築』に通じるものがあると感じました。
医療の視点から、行政の視点から、独自に取り組まれていることをご紹介しました。
私たちが生活をしている身近な地域の中で取り組まれている事例です。
皆様の取組へのヒントとなりましたら幸いに思います。
資 料 2−1 – 北九州市 「オレンジプラン」
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000163950.pdf
「第四次北九州市高齢者支援計画」の修正箇所について
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000690187.pdf
経営コンサルティング部
経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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