【医療介護あれこれ】介護保険制度の改正について
長 幸美
アドバイザリー2016年も残すところ10日余りとなりました。
師走という名の通り、慌ただしい毎日をお過ごしのことと思います。
みなさん今年一年どのような年だったでしょうか?
医療機関さま・介護事業所さまにとっては、先が見えない状況で、非常に厳しい時代になったとお感じになっていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
今回は、介護保険制度の改正をもう一度おさらいして、今後の課題について整理をしたいと思います。
昨年2015年の介護報酬改正において、2025年問題の人口問題がクローズアップされてきました。世界の中でも例を見ない少子高齢化のため、高齢者・要介護者はどんどん増えてきて、介護職員(働き手)は増えないというところで、少ない人数でいかに高齢者を支えていくのか?というところが課題となり、生活圏域(地域)の中でいかに生活を支えていくか、ということに注目されてきました。これは、診療報酬の改正にも影響が出て、病床の機能報告や地域医療構想の中で議論されています。業務の改善や分担を見直していくことが今後必要になってくるでしょう。
業務改善については、「地域包括ケアを支える各人材の役割分担のイメージ」を以下の通り提案されています。
出典:三菱UFJリサーチコンサルティング「地域包括ケア研究会報告書」39ページ
この案を見てどのようにお感じになるでしょうか? 何かお気づきになりませんか?
現在の役割と大きく変わっていることに気付かれるでしょうか?
看護職員の役割は、病状確認や夜間を含む急変時の対処や看取りとなり、医師の役割は「在宅医療開始時の指示や急変時の対応の指示」に変わっています。
さらに、介護職員の役割から「家事援助」がなくなり、身体介護と認知症を有する高齢者等の生活障害に対処する支援や要介護者に対する基礎的な医療的ケアの実施、認知症ケアのスーパーバイズ・助言、などに大きく様変わりしてきています。
このこと自体は、医療の診療報酬の評価の中でも注目されていて、「多職種連携」が大きく評価されるようになりました。専門職がその専門性の高い業務を行うために、事務職員が作業補助をすることにより、診療報酬上の評価がつくようになってきて、非常に画期的だといわれておりました。医師事務作業補助加算や急性期の加算を取ろうとすると医師・看護師の負担軽減策を作って、取り組みを行わなければ加算の申請もできなくなり、病棟薬剤師等に対する評価がついたのも記憶に新しいことと思います。
また、介護の分野でも多職種連携や、共同指導に対する取り組みは高く評価されています。さらに、昨年の改定では、「要支援者に対する介護事業を総合事業へ移行する」という案が出てきて、平成29年以降、市区町村の事業(地域密着型事業)へ変更されることが決まり、その詳細については現在も議論されているところです。これが「新総合事業」です。
つまり、専門職でなくても、隣近所や小規模な事業所でも対処できることと考えられてきたのだと思います。
新総合事業については、以前コラムdeスタディの中でも取り上げてきましたが、まだまだ行政も手探りの状況で温度差が出てきているのが現状のようです。
その他にも、次の改正に向けて方向性を考えるうえで、介護保険制度改正の詳細をおさらいしましょう。
【小規模デイサービスの総量規制について】
小規模デイサービスの事業所には、昨年度末までに市町村から「総合事業」をやるかやらないかというような内容の問い合わせもあっているように聞いています。
小規模多機能型居宅介護等の普及のために必要がある場合には、市町村が指定をしないことができるような仕組みの導入などが検討され、事業の適正な運営を確保するために必要と認める条件を付すことなどを検討されています。
【中重度者へのサービス機能強化について】
小規模多機能型居宅介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着型サービスについてはサービス提供量を増やす観点や、機能強化・効率化を図る観点から人員や利用定員等の要件見直しを検討される方向性が出てきています。介護サービスとともに利用者の生活を支えるために必要な配食等のサービスが一体として提供するなどの状況を把握検討することとされています。
【ケアプランの利用者負担金】
現在、ケアプランの作成に関しては、利用者の負担金は発生せず、全額介護保険料として入金されていますが、利用者や家族にもコスト意識を持ってもらうことや給付費の適正化を図る意味でも「一定額の負担金」を徴収したほうがよいのではないか、という議論が行われています。いずれにせよケアプランに係るコストも利用者負担が発生してくるのではないかと思います。
【福祉用具貸与について】
福祉用具の価格設定の中に、商品価格のほか、「計画書の作成料」「保守点検等の費用」も含まれていることから、平均的な価格と比べるとかなり高額な価格請求が行われているケースがあるという問題があり、ホームページにおいて当該商品の平均貸与価格を公表する仕組みや貸与価格について一定の上限を設けること、複数の価格帯の商品を提示して利用者が選ぶ仕組みなどを作り義務付けることが必要でないかという議論が行われています。
【介護保険の利用者負担について】
医療と介護の整合性を図る意味合いでも、利用者負担を3割に上げ、医療の負担割合に合わせましょう、という議論があります。また、高額介護サービス費として、現在、区分が一般に該当する一世帯37,200円の負担上限であるものを、44,400円に引き上げるということも議論されています。
【介護職員処遇改善加算の取り扱いについて】
介護職員の処遇改善については、過去数回の改正により、月額27,000円相当の処遇改善加算により充当できるようになっていますが、医療機関や介護事業所の中で、介護職員以外についても配分をするなど不適切な取り扱いが行われていることなど、問題も明らかになってきています。このことも踏まえて、来年度からさらに10,000円アップの新たな加算を上乗せすることが決まっています。このことにより、「昇給の仕組みを作ること」と「処遇改善加算については介護職員のみに加算の入金金額全額配分をすること」という厳格な要件が加わってきます。
参考までにキャリアパス要件は以下の通りです。
キャリアパス要件Ⅰ | 職位・職責職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること |
キャリアパス要件Ⅱ | 資質向上のための計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること |
キャリアパス要件Ⅲ | 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること |
職場環境要件 | 賃金改善以外の処遇改善を実施すること ※就業規則等の明確な書面での整備・すべての介護職員への周知を含む |
これらの要件をクリアするために、今まで以上に社会保険労務士の需要が増えてくるのではないかと考えられています。
また、高齢障害者への介護保険サービスの円滑な利用についても「地域住民の参画と協働により、誰もが支えあう共生社会の実現」として高齢者のデイサービスの中で、障害者や小児の障害者についても一緒にサービスの提供が行えるように現在検討されています。
これは「地域の実情に合った総合的な福祉サービスの提供」を考えていくものとして、①人員配置の兼務、②教養可能な設備の基準、③サービス兼用が可能な活用方法などが具体的に検討されている段階です。
参考資料:平成28年7月15日第1回「我が事、丸ごと」地域共生社会実現本部
まだまだ課題は山積みの状況ではありますが、財源にも限りがあり、人的にも限りがあります。その中で、住民の暮らしや医療サービス等を守っていくためにどうしなければならないのか?本当に必要な人に適切なサービスを提供するためにどうすべきなのか?
それぞれの役割の見直しが必要になってくると思います。
医療機関さま・介護事業所さま、人員の募集をかけても人が集まりにくい状況はこれからも変わらないと思います。もっと人員は集まりにくい状況になるかもしれません。
その中で、提供できるサービスを充実させていくためには、自らの提供体制や業務分担・業務分掌をみなおし、「利用者様を中心にどのようなサービスができるのか」考えていくべき時に来ているように思います。
一緒に考えてみませんか?
私ども佐々木総研では、いち早く情報を皆様にお届けするように、ホームページの情報提供を見直しております。どうぞご利用くださいませ。
<参考資料>
経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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