【平成30年度診療報酬・介護報酬改定】介護報酬改定の基本的な考え方
長 幸美
アドバイザリー先日10月27日、社会保障審議会介護給付分科会の中で、平成29年度介護事業経営実態調査結果をもとにして次期改定へ向けた「改定の基本的な視点」について協議がありました。
今回はその内容から、次期改定に向けて考えてみたいと思います。
前回の改定後の概況調査が行われ、以下の通りに結果が取りまとめられています。
平成27年の改定のポイントとしては、以下の三点があげられます。
- 施設系のサービスでは、介護老人福祉施設の入居者は要介護3以上の制限
- 通所介護、訪問介護について、要支援が総合事業に移行
- 基本単価は下がり、機能強化している事業所へは加算として評価
その結果、小規模な通所介護事業所、訪問介護事業所について非常に厳しい改定となり、事業所を閉鎖されるところや大規模事業所の傘下に入る事業所もあったように思います。
その結果、次の表のような調査結果が出ています。
出典:社保審介護給付分科会資料_第148回 平成29年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)
介護事業の場合はほぼ「人」に委ねられる場合が多く、「人件費」が大きくなります。
このマイナス改定により、人件費率も伸びてきています。
出典:社保審介護給付分科会資料_第148回 平成29年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)
この状況の中での次期改定となりますが、今回は、次のスライドの通り示されています。
この中で、注目するところ、次期改定に向けて抑えてほしいところをお伝えしたいと思います。
出典:社保審介護給付分科会資料_第148回 平成29年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)
まずは介護保険の目的(介護保険法 第1条)は、加齢に伴い要介護状態になった時にも「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むこと」ができるように「支援するもの」であると規定されています。
また、「国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保険医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする(介護保険法第4条)」と定められています。
また、それを支える「国及び都道府県の責務」として、「国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保険医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない」「都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない(介護保険法第5条)」と定められています。
医療機関としても、「医療保険者は、介護保険事業が健全かつ円滑に行われるよう協力しなければならない(介護保険法第6条)」と定められていますので、介護保険のことはわからない・・・では、済まされないということになります。
更に、次期改定では「診療報酬」「介護報酬」を同時に見直し、第7次医療計画、介護事業計画の見直しも行われることになっていますので、医療機関といえども、見過ごすことはできないということになります。
視点①【地域包括ケアシステムの推進】
地域包括ケアシステムは「住み慣れた場所で、暮らし続ける」「街づくりを考える」ものであるということは、過去にも申し上げてきたことでございます。
今回のこの「基本的な視点」の中でも、一番初めに語られています。
その方の状態に応じた「医療と介護」さらにその先には「看取り」が控えていることを念頭に置いていかなければなりません。そのために「医療機関」と「介護事業所」さらには「行政」や「家族や向こう三軒両隣」がどのような役割を担っていくのか、ということが、とても重要になってくるということだと思います。
出典:厚生労働省「平成25年3月地域包括ケア研究会報告書より」
また、少子高齢化が進み現在では、皆さんがお感じになっている以上に「働き手の減少」が進んできています。その少ない働き手の中でも「無理なく・無駄なく」十分な介護サービスを提供し、「住み慣れた地域で住み続ける」ことを支援するには、「ご本人の自立力」「ご家族の支援力」を客観的に評価しつつ、何を支援するのか、サービス提供側も「何でもやってあげる」というサービス提供から、脱却する必要があると考えます。
その中では、「ケアマネジメントの質」「中立性」ということがとても重要になってくることは明確だと思いますし、社会的に問題となっている「認知症高齢者への対応」「精神・障害・児童」という自立支援に対する「地域共生社会の実現」についても重点的な議論がなされている理由もお分かりになると思います。
このために具体的にいうと、「事業所」としての評価(基本単位数)は下げられ、サービスの質・・・つまり、次の「自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービス」について評価していきましょう!という議論につながっていくのです。
視点②【自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現】
平成29年の制度改正では「高齢者の自立支援と要介護状態の重度化防止に向けた取組みの推進」を図るための見直しが行われました。
また、未来投資戦略 2017(平成 29 年6月9日閣議決定)においても、今回の介護報酬改定において、効果のある自立支援について評価を行うこととされたところです。
この評価として、一つは初めに申し上げた「介護保険法の基本目的」に戻って考えることがとても大事になってくるということです。つまり、「高齢者の自立支援と要介護状態等の軽減又は悪化の防止」を目的とし、そのためには多様な人材の確保とサービスの安全・安心の確保、サービスの質に配慮をしつつ様々な人材の有効活用やロボット・ICT・AIの技術を活用していくことが求められてきます。これは、次の視点③につながっていきます。
この部分では、設備基準・人的配置の基準の見直し等が議論されています。
事例として挙げると、
- ICTの活用により、人的な配置基準の緩和を行う
- ロボットの導入により人的な配置基準の緩和を行う
- 訪問看護STとの連携により、人的配置基準の緩和を行うこと
等が議論されています。
視点③【多様な人材の確保と生産性の向上】
今後の人口の動向では「少子高齢化」に対して対策を講じる一方で、介護を必要とする方々が増大することが予測されています。
介護人材の確保については、「一億総活躍社会」を旗印に、「介護離職ゼロ」などの目標を掲げ様々な取り組みが推進されています。働き手を確保するために、「保育の確保」「待機児童ゼロ」も目標に、人的な基準を緩和し、事業の継続と介護サービスの充実を図ろうとしています。
平成29年の制度改正では、処遇改善加算Ⅰをつくり、月額1万円相当の処遇改善が行われました。
出典:介護保険最新情報Vol.582(20170309)より
この4月に実施されましたが、現在の届出の状況を見ると6割を超える事業所が加算Ⅰの届出をされているという調査結果が出ています。
反面、加算Ⅳ・Ⅴの職場環境要件のみでも届出ができる加算については、届出をしている事業所は全体の数パーセントにすぎず、次期改定では加算がなくなるということも議論されています。職場環境は必須、合わせてキャリアパスを整えていくことが求められてくることになると思われます。
視点④【介護サービスの適正化・重点化を通じた制度の安定性・持続可能性の確保】
介護サービスの適正化としては、やはり「集合住宅」へのサービス提供になると思います。
昨年の診療報酬改定において、「有料老人ホーム」を含む「集合住宅」への適正化という観点から、「訪問診療」について厳しい評価が行われています。
このもとになるものは、「本当に必要がある訪問か?」ということでした。
つまり、訪問診療をしなくても「通院できる」状況がある患者さんに訪問診療を行ったことに対するペナルティだったということがいえます。
次回の同時改定においても、この「本当に必要があるかどうか」ということが、介護保険の基本方針・目的に照らし合わせて協議されるということがいえると思います。
また、前回の改定では、訪問介護・通所介護の同一敷地内事業所に対し、介護報酬の引き下げが行われました。この結果何が起こったかというと、「単価が下がったのだから、その分回数を多く実施して、収入を確保しよう」ということが行われました。その結果、本当に必要なサービスが提供されているかどうか、評価ができない状況がおこってしまった、ということが議論されています。
同一事業所への誘導など、本来の居宅介護事業所のケアマネージャが「中立公正」であることが求められているにも関わらず、本来の「利用者目線でのケアプラン」が「事業所目線になってしまっていること」に対するペナルティの対象となったともいえると思います。
次期改定では、このようなことが出来ないように、更に厳しく規制されるように検討されています。今考えられていることは、同一事業所減算で下がる前の単位数で上限計算を行い、回数の増加ができないような提案があることなどが考えられています。
原点に戻りどのような目的で介護報酬が決められ、何を求められているのか、しっかりと考えていることが必要になると思われます。この改定前の今だからこそ、しっかりと事業所の役割、目的、体制など、見直しましょう!
◆参考資料◆
経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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