正社員(無期)と契約社員(有期)の労働条件の相違の違法性(ハマキョウレックス事件)
白石 愛理
人事労務今回、紹介する判例の特徴です。
運送会社の有期契約社員と正社員との間の労働条件について、各種手当(無事故手当、作業手当、休職手当、通勤手当、皆勤手当)の相違(不支給)を労働契約法20条違反の不合理な相違と認めた最高裁の判決です。
■ハマキョウレックス事件 最高裁 平成30年6月1日判決
【事件の概要】
正社員と契約社員で就業規則が異なっており、正社員のみに支給されている手当がある、または支給される金額が違うものがあった。
①無事故手当、②作業手当、③給食手当、④住宅手当、⑤皆勤手当、⑥通勤手当、⑦家族手当、⑧賞与、⑨定期昇給、⑩退職金
これらの点が不合理な労働条件の相違に当たるとして、労働契約法20条に違反すると主張した。
【結果】
①無事故手当、②作業手当、③給食手当、⑤皆勤手当、⑥通勤手当に関わる相違は不合理といえる。
【判断の基準】
[労働契約法20条]とは、有期契約労働者の労働条件を無期契約労働者との間で不合理に相違させることを禁止するもの。
以下の3つのポイントが判断の基準とされる。
①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)
労働者が従事している業務の内容および当該業務に伴う責任の程度
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲
今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等
(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む)
③その他の事情
合理的な労使の慣行などの諸事情を想定
【判断】
①無事故手当、⑤皆勤手当……不合理
正社員と契約社員の職務の内容は異ならない。出勤する者を確保する必要性や安全運転及び事故防止の必要性は職務の内容、転勤等によって両者の間に差異が生じるものではない。
また、皆勤の事実を考慮して昇給が行われていない。
②作業手当……不合理
作業そのものを金銭的に評価して支給される性質。
職務内容、転勤等によって金銭的評価が異なることになるものではない。
③給食手当……不合理
従業員の食事に係る補助として支給されるもの。勤務時間中に食事をとることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものであり、職務内容、転勤等によって差異が生じるものではない。
⑥通勤手当……不合理
通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるもの。
④住宅手当……不合理とは言えない
正社員と契約社員で転勤の有無に違いがある(住宅手当は転勤に伴う住居の変更を補助)ため、不合理とはいえない。
⑦家族手当、⑧賞与、⑨定期昇給、⑩退職金は不合理かどうかの判断が行われなかった。
契約社員用の就業規則には⑦~⑩については記載がない。正社員用の就業規則と契約社員用の就業規則が別個独立して作成されているため契約社員に正社員の就業規則を適用するのは困難。
契約社員用の就業規則や賃金規定がない場合や、あっても規定の方法に不備がある場合は、判断が変わってくる可能性もある。
【ポイント】
・本件は、労働契約法20条を考慮した結果となっています。
・正社員と契約社員では、転勤の有無等、完全に同一労働とは言えないため、同一労働同一賃金の考え方はとりにくいという事はありますが、手当ごとでは、正社員と契約社員に差を設けることが不当だと本事件では判断しています。
・ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件では、就業規則等が正社員と契約社員で分かれていたことが判断の基準になったこともあるため、就業規則は、正社員と契約社員で別個に作成することが望ましいと思われます。
・各種手当を支給する必要がある契約社員に対して、当該手当が支給されていないことがないか、一度就業規則や給与規程を確認してみましょう。
就業規則の作成や改定等、ご不明な点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
人事労務課
著者紹介
- 人事コンサルティング部 労務コンサル課
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