定年後再雇用により、賃金75%減は違法
株式会社佐々木総研
人事労務今回、紹介する判例の特徴です。
定年後再雇用に際し、定年前と比較して低額な賃金(賃金の75%カット)を提示したことが、会社の裁量権を逸脱し、不法行為を構成するとされた高裁判決です。
■K社地位確認等請求事件 平成29年9月7日判決 福岡高裁
【事件の概要】
惣菜製造加工販売業を営むK社において無期雇用契約労働者として勤務した後定年退職した元社員Xは、会社本社総務部において給与計算や決算業務等の業務に従事していたが、平成27年3月60歳に達し、同月末に定年退職した。Xの定年退職前の賃金(交通費を除く)は月額33万5500円であった。会社は、継続雇用制度を導入しており、就業規則等によれば、従業員が定年後も引き続き勤務を希望した場合は、定年後の再雇用は原則として1年の期間の定めのある労働契約とし、会社の提示する労働条件は、正社員時の労働条件と異なる場合がある等とされていたが、フルタイムで再雇用される社員もいた。Xは、会社に対し定年後再雇用の希望を申し入れ、会社はこれを受けて、①契約期間1年、②業務内容オペレーション(店舗決算業務40店舗)、その他作業、③週3日実働6時間、④賃金900円、⑤更新あり、との提示をした。しかし、Xはフルタイムでの勤務を希望していたため、妥結には至らなかった
本件は、①主位的に、会社との間で再雇用契約と同様の法律関係が成立しているとして労働契約上の地位確認等を求め、②予備的に、会社がXへの再雇用契約に向けた労働条件提示に際し、著しく低廉で不合理な労働条件しか提示しなかったことが不法行為に当たるとして損害賠償金等の支払いを請求した。
【判断】
① 主位的請求について:
Xは、会社が提示した再雇用の労働条件を応諾していないこと、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」)9条1項2号の継続雇用制度は、再雇用後の労働条件が定年前と同一であることを要求しているとは解されないこと、Xと会社との間において、賃金額のような労働条件の根幹に関わる点について合意がなく、当事者の具体的な合意以外の規範、基準等によりこれを確定し難い場合に、これらを捨象した抽象的な労働契約関係の成立を認めることはできないこと、などからXの主位的請求は理由がないとした。
② 予備的請求について:
ア 労働契約法20条
K社はXと労働契約を締結したわけではない以上、労働契約法20条が直接適用されないとしつつ、仮に本件のような労働契約の申し込みに同条が適用されるとしても、K社の就業規則上、パートタイム従業員もそれ以外の従業員との間で契約期間の定めの有無が原因となって構造的に賃金に相違が生ずる賃金体系とはなっていないことから、賃金格差が期間の定めの有無により生じたとはいえないとして、労働契約法20条に違反しないと判示した。
イ 公序良俗違反
まず、再雇用に際し、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れがたいような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであるとして、不法行為となり得ると判示した。
以上の基準に基づき、具体的な事案について、K社が提案する月収ベースの賃金は、定年前の約25%にすぎず、定年前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえないため、この提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要であると判示した。そして、Xの賃金が大幅に減少したのは、事実上K社がXをパートタイマーとして再雇用するとしたことが影響したところ、K社の提案における労働時間の減少が真にやむを得ないとは認められないことから、K社の提案の給与が他のパートタイマーよりは高額であること、賃金減少に伴い高年齢雇用継続基本給付金が月額1万4610円程度給付される見込みであったことを考慮しても、K社の提案を正当化する合理的理由が無いとして、100万円の慰謝料を認めた。
【ポイント】
今回の判決の根拠となっているのは、高年法第9条であり、事業主に高年齢者雇用確保措置をとるように義務付けています。これに基づいて企業は継続雇用制度を導入し、希望する労働者を継続雇用しなければなりません。
定年後再雇用に際し、定年前と比較して賃金が減額されることの適法性については、以前紹介した長澤運輸事件があります。
しかし、定年後再雇用に際し、定年前より大幅に月収ベースの賃金が低下するような提案をする場合は、単に定年前と比べて勤務時間や業務内容が軽減されるというだけでなく、なぜこのような労働条件を提示するに至ったのかといった点についても、説明および証明ができるように注意する必要があるでしょう。
人事労務課
著者紹介
- 人事コンサルティング部 人事コンサル課
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