【医療介護あれこれ】在宅医療で地域を変える!!~医療法人ゆうの森 たんぽぽ先生の取り組みから~

長 幸美

アドバイザリー

年度末のある日、ご縁があって「たんぽぽ先生」こと永井康徳先生のセミナーに参加してきました。小規模なワーキングがあり、久しぶりに医療現場の方々と意見交換ができ、その中で、医療現場の立場、地域住民の立場、現実に私自身や家族の将来のことも考える時間となりました。

今回は、セミナーの内容から、私が考えていること、印象に残ったことをお話していきたいと思います。このコラムの中では、親しみを込めて、たんぽぽ先生とお呼びしたいと思います。

 

今回の改定で「基本に返ることが必要です」ということを幾度となくお伝えしてきました。病院というところは治療をする場で、治療が済んだら家に帰す。ということがとても大事で、治療する場であり、生活をする場ではないという所が本来の姿です。

 

しかしながら現状は、長期間入院生活を余儀なくされている方も大勢いらっしゃいます。では、本当に家には帰ることができないのでしょうか?

私は以前、病院に勤めていた時代に、家族と疎遠になり、長期間入院されている方を多数見てきました。その方たちは、だんだん元気がなくなり、点滴が増え、動けなくなってきて、最終的には「早くお迎えが来ないか」とおっしゃいます。

私は医療現場の現実を「なぜ帰ることができないのだろう・・・」という不思議な思いで見ていたことをよく覚えています。

 

そんな疑問にも答えてくださるセミナーでした。

 

今回のテーマは「在宅医療」ですが、たんぽぽ先生は、どんな方も住み慣れた場所に帰ることはできるといわれます。人工呼吸を付けた方や赤ちゃんから100歳を過ぎる方まで、今までで600名程の患者さんを診ていらっしゃるそうです。はじめは、たんぽぽ先生の他、看護師1名、事務員2名、軽自動車1台から始めたそうですが、今では医師21名、看護師、リハビリの専門職、管理栄養士、介護福祉士、歯科医師に歯科衛生士・・・と各部門のスペシャリストが100名を超える規模で24時間365日を支えているそうです。また、家族のレスパイトのために診療所に病床もつくられ、閉鎖予定のへき地診療所も民間譲渡され運営されています。

 

地域のクリニックの先生方からは、

「いやいや、一人で24時間365日なんて、出来っこないよ!」

「病院にいた時には、オンコールがとても大変だったのに、開業してまでやりたくないよ。」

「在宅に往診に行くなんて大変だ!」

「来た患者さんの診察だけでいいよ、今までもそうだったから・・・」

・・・という声が聞こえてきそうですね。

病院勤務医では、とても忙しく時間的余裕がない中にオンコール対応も含め、24時間体制で診療をされていた時代を苦々しく思い出される先生も多いと思います。また「在宅で同じことをするのかよ・・・」とうんざりされている方もいらっしゃるでしょう。

 

たんぽぽ先生は、「“治療をする医療”と“生活を支える医療”とは違う。高齢者の生活の先には、「死」という終着点が、公平に与えられている。その人が“その人らしく”生ききることをとことん支えることが、我々にできることだ。」と淡々とお話になりました。

医学部や大学病院、急性期の病院では「治療して治す」ことが主体に考えられていきます。これは当然のことでしょう。しかし、ゴールが近づいている方にとって、入院を継続して「治療」を続けることが本当に必要なことなのか・・・もっと別の形で「その方のご希望に寄り添い、その方がその方らしく生ききることを支援していくことが大事なのではないか、“いい人生だった!”と思える時間の過ごし方が必要なのではないか・・・」と話されていました。

 

お話や事例の中で、私がとても興味深かったのが、「食べられないから、点滴をするのではなく、点滴をするから食べられない」という一言でした。私も医療に関しては素人です。はじめは何をおっしゃっているのだろうと思っていました。誤嚥等があり食べられなければ、何らかの形で栄養や水分を補給する必要があるのではないか、と思ったからです。

しかし、たんぽぽ先生はおふたりの方の事例を見せてくださいました。

看取りの目的で、急性期の病院から転院し、点滴を抜いた高齢者の方の事例です。誤嚥があるため、口から食べることはできないと思われていた方です。ご家族のご希望もあり、点滴をせず、自宅に近いところでの時間を大切にしたいと思われ病院を退院されたそうです。点滴を抜き、2日目には、少しずつ食事ができるようになり、1週間後にはムース食を完食されるまでになったそうです。

お一人の方は、突然「サイダーが飲みたい。サイダーを飲ませろ!」と騒がれたようです。誤嚥を繰り返し絶対に食べさせないようにとの指導だったようですが、サイダーを飲んでも、ムース食を食べても、誤嚥する様子はありませんでした。とても不思議だなと思います。寿司が食べたいとの希望があり、「たんぽぽ寿司」を回転させました。ムース食のお寿司とビールを飲まれていたこの方の幸せそうな顔が忘れられません。

また、「食べたい」という気持ちがある場合は、多くの場合で経口摂取は可能だとのこと、とてもびっくりしました。もちろんすべての方が同じようになるとは思いません。しかし、その方の人生に寄り添い、「あ~いい人生だった」と思えるような最期を迎えられることは素晴らしいことだと思いました。

 

また、第3部ではACP(アドバンス ケア プランニング)についてワークが行われました。ACPは2018年度の改定において、慢性期医療の提供、在宅医療の提供、また介護事業所にたいしても取り組みが義務付けられてきましたので、多くの事業所様は何らかの取り組みを進めておられることと思います。これはいわゆる「人生会議」と称されるものです。

「看取りについて考える」というととても重たいものに聞こえていますが、簡単に言ってしまうと、「今後、自分がどのように過ごしていきたいか、関係者と話をしましょう」というものです。そのように考えると、少し気が楽に感じるのは、私だけではないと思います。

「延命はしないでほしい」といってもその方が置かれている状況によって、さまざまに変わってくると思います。たんぽぽ先生は「それは当たり前なことで、変わってもいいんだ」とおっしゃっていました。その方の思いを聞き、ご家族との思いを考慮しつつ、どのような支援が必要かを考えていく・・・と考えていくと、難しいことではないのではないか、と感じました。

 

高齢者は何らかの疾患をもち、服薬を含む医療的な処置等が必要になっています。このため、地域の中で、生活を支えるためには、医療的な処置も必要な方があり、生活の安心を担保するためには「医療者がコーディネーター役」が必要だともいわれています。

 

2018年度の診療報酬改定で、「治す医療から支える医療へ」という言葉が明確に出されてきました。医療と介護の連携についても、診療報酬・介護報酬の両面から評価され、収入がついてきています。今後も、この傾向は変わらないと思います。しかし、この在宅の点数はとても複雑で、難しいですよね。

今後、弊社のホームページの中でも、情報を提供していきたいと思います。どうぞご覧くださいませ。

医業経営支援課

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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