【医療介護あれこれ】地域連携のこれからを考える
長 幸美
アドバイザリー先日、私どもが所属している「全国連携実務者ネットワーク」のセミナーが行われました。今月は、連携関連のセミナーが数多く行われ、その最後がこの会が主催する「ナイトスクール」でした。その中でも、私が日ごろ感じていることを裏付けするような話がありましたので、そのことをお伝えしたいと思います。
それは何かというと・・・「連携の形が変わってきている」ということです。
このことを、講師の先生は、「連携は新たなフェーズに入ってきた」と表現されました。
これは地域の医療機関の皆さんにもしっかりと意識してほしいと思っています。そのために、地域連携の歴史を少し紐解いてみたいと思います。
【地域連携の歴史】
もともと完結型医療が主体だったと思いますが、2000年以降、診療報酬改定に誘導される形で、地域医療連携は進んできました。
■第1フェーズ:前方連携
2000年の診療報酬改定で、「急性期病院加算」が新設されたことにより、大きく進んできました。これは、紹介律30%以上、平均在院日数20日以下を達成すれば、入院患者全員に対し、1日155点が14日間加算さんていできるというものでした。
これにより、多くの急性期の病院で「地域医療連携室」が設置されて、病院の営業活動を行うということが定着してきました。
■第2フェーズ:後方連携
2006年の診療報酬改定において、紹介率に関する加算がすべて廃止されました。いわゆる「紹介率ショック」です。代わりに出てきたのが、「地域連携診療計画管理料」です。「地域連携クリティカルパス」の考え方が初めて出てきて、「在宅に退院する」ためにどうするか、ということを医療機関として考えるきっかけになってきました。
また、在宅療養支援診療所が新設されたのもこのころです。これにより、診療所や小規模病院は地域の中で「在宅で生活をしながら療養している方を支えていく」という考え方が出てきたと理解しています。
つまり、「治す医療から支える医療」への第一歩です。
■第3フェーズ:地域医療計画に基づく医療連携
2008年以降、「地域完結型医療」へ動き始めました。地域の生活を支えていくためには、「病病連携」「病診連携」だけではなく、「医療と介護の連携」「地域の診療所と診療所」との連携も大事で、「医療・介護・在宅支援機関」同士のネットワークづくりへと医療連携部門の役割が変化していきます。
つまり、地域全体を包括的に考えていきましょう、というところにフォーカスされてきました。「地域医療計画」つまり、「4疾病5事業」の考え方で、地域ごとに生活者を支えていくために必要な医療体制を整えていくことが重要な課題となり「医療介護連携体制」が挙げられてきました。
4疾病5事業とは、4疾病「がん、脳卒中心筋梗塞、糖尿病」と5事業「救急医療、災害時医療、へき地医療、周産期医療、小児医療」です。現在は、疾病の中に「精神(2013年)」、5事業に「在宅医療」が加わり、地域医療構想の源流となっています。
■第4フェーズ:地域医療構想に向けた取り組みの時代
2016年頃から病床機能報告が開始され、現在の医療機能と6年後の姿を年に1回報告することが開始されました。ビッグデータ(NDB)とともに各病院の医療機能が分析され、都道府県や二次医療圏ごとに人口と病床数の関係や受療率から推計される必要病床数との比較などが出てくるようになりました。
■第5フェーズ:社会連携の時代
各都道府県には、「地域医療構想」と「医療計画」が策定されており、今年度からは「医療計画」に基づき新規開業や病床機能変更、高額医療機器の充足状況などを加味して、地域調整会議にかけるように変わってきています。
「共生社会」「社会連携」という言葉が出てきたのは皆さんも覚えていらっしゃることと思います。つまり「医療と介護」だけではなく、その地域に住んでいる老若男女、障害を持っている方も持たない方もすべての住民が安心して暮らせる地域を作るために、何をするのか、ということを考え、求められるようになってきました。
これは医療機関や介護事業所だけではなく、その地域に住む人全員、その地域の企業すべてを含めて「みんなで支える」ということを考えましょうということです。
【連携のこれからを考える】
さて、これまでフェーズごとに連携について歴史を見返してみると、診療報酬改定と大きく関連して進んできたことが分かります。しかしながら現時点では診療報酬とは別の枠組みで検討する方向が出てきています。
■第6フェーズ:再編統合とwithコロナの時代
令和の時代に入り、昨年9月公的病院424病院の名前が出てきました。のちに修正され、440病院になっていますが、医療提供体制が不足している時代に作られた公的病院について、昨年6月1か月間の医療提供量を分析し、急性期医療の提供体制について評価されたものです。1か月間だけのものですので、季節性や、その個別の状況は勘案されていません。例えば建て替え工事等により医療提供体制が十分でなく提供量が減っている状況の病院も名前が上がってきているとのことです。
かなりの衝撃があったと思いますが、これにより「平時における医療提供体制の必要量」を評価し、再編・最適化していくことが求められていると思います。これは公的病院だけではなく、地域の問題として皆さんが考えていかなければならない問題ではないかと思います。
そして令和2年の「コロナショック」です。ここで「病床が足りない」という言葉が飛び交うようになりましたが、これは「緊急時における医療提供体制の確保をどうしていくか」という問題だと思います。
未知の感染症に対し「ホテルでの隔離・療養」という形がとられていますが、あくまでも非常時であり、その際に「急性期の重症者を受け入れる医療体制をどう確立していくか」というところが大きな論点だと思っています。
また、働き方改革の時代でもあります。少ない人員で安心安全な医療の提供を確保するためには、そぎ落とすところ、タスクシェアリングするところ、必要になってくるのではないかと考えています。
■連携のこれから
現在、「COVID-19」対応について、長期化してきている状況となっています。
患者数が半減したとか、3割減少したとか・・・実際に減ってしまって心配されている声をたくさん耳にします。「外出自粛」や「三密を避ける」という生活がもう半年近くになってきて、いつまで続くのだろうと不安になっているのは、医療機関だけではありません。最近では「withコロナ」「新しい日常」という言葉も出てきています。
この時代に皆さんでどう対応できるのか、病床の状況を地域全体でどう把握していくのか、これから仕組みを考えていかなければならないことがとてもたくさんあると思います。
また、この間に患者さんの中には「本当に必要な診療だったのか」「セルフメディケーションで対応する方法」などに移行されている方もあるのではないかと思います。つまり、元通りに患者さんが戻ってこないかもしれないということも考えていかないといけません。
このような時だからこそ、医療機関は、対面だけではない情報交換の手法を手に入れる必要があると思います。時にはリアルに面談を行いつつ、Webや電話を駆使して情報交換や的確な情報提供を行うことが必要でしょう。「地域連携実務者」の腕の見せ所です。この難局を皆さん一緒に乗り越えていきましょう。
医業経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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