【医療介護あれこれ】医療事務基礎講座「カルテの記載」
長 幸美
アドバイザリー今日は診療に欠かせない「記録」について考えてみたいと思います。
このカルテの中には、診療の記録としてだけではなく、「診療報酬の根拠」「医療機関の管理運営のための重要な資料」の基になるデータがあり、医療機関にとってとても大事なものです。また、受診者の個人情報が満載で、特定個人情報として扱われるものです。
「カルテ?そんなことわかっているよ」と思っているあなた・・・ちょっと立ち止まって一緒に見直し、考えてみましょう!
【カルテとは】
カルテとは診療録のことで、医療に関してその診療経過等を記録したもの、とされています。狭義には、医師の診療記録を指しますが、一般的には、手術記録・検査記録・看護記録等を含め、診療に関する記録の総称とされています。
【カルテの記載の三つの目的】
カルテ記載には、様々な目的があります。
■診療経過の記録
現在に至るまでの患者の状態と提供された医療行為及びその根拠となる検査結果や医師の判断等を経時的に記録します。
患者の主訴、客観的な所見や検査結果、診察所見、それらを基にした診断(医師の判断)、治療内容(処置や手術、処方等)を記録していきます。
■保険請求の根拠としての役割
カルテの記録を基に保険請求が行われます。つまり、医療行為をお金に変えていく根拠となるものになります。
診療行為がすべて診療報酬としていただけるわけではありません。
このための妥当性を判断していく根拠資料として重要になります。従って、記載されていないことは「やっていない」と判断されます。不完全なことがあれば、診療報酬の返還等につながっていく可能性があります。
■法律上の根拠
医師法第24条に、「医師は診療をしたときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」とされています。
医療事故や訴訟が起こった場合には、この診療録が証拠として採用されるなど、大変重要な公的な記録となります。
以上の三点以外にも、教育的観点、学術的観点、経営判断等を行うための重要な統計資料の基になるものでもあります。このようなことから、単なる先生の備忘録になってはならない重要な記録なのです。
【カルテに必要な記載事項】
医師法の中で、以下の4点については必須事項として書かれています。
① 診療者の氏名・性別・年齢・住所
② 病名や主な症状
③ 治療方法(処方や処置)
④ 診療の年月日
このほかにも、以下の項目が診療上必要であるとされています。
・患者さんの基本情報
・主な症状・現病歴(現症)
・既往歴・家族歴・社会歴・嗜好・アレルギー
・現症や身体所見
・検査
・入院後経過
・治療方針
【カルテの書式】
カルテは、療養担当規則の中で書式が決められています。
■様式第一号(一)の1
いわゆる「カルテの表紙」です。ここに記載されている内容は、組み替えることはできますが、一部分をなくすことなどはできません。このため、書式を独自に作る場合は、地方厚生局に相談する必要があります。
■様式第一号(一)の2
いわゆる「二号用紙」といわれているもので、日々の診療の記録を記録するものです。
一般的には「SOAP」といわれる方法で記載されていると思います。
S(Subject) =主観的なデータ・・・患者の主訴や病歴などです。
O(Object) =客観的なデータ・・・診察や検査の所見などです。
A(Assesment)=主観的データ、及び客観的データに対する評価です。
P(Plan) =診療方針・治療計画です。
最近ではこの記録法にフォーカスチャーティングや多職種連携の気付きや介入を入れた「F-SOAIP」という記録方法も出てきています。
■様式第一号(一)の3
いわゆる「裏書」といわれるもので、その日の診療内容を計算するページです。
一部負担金の徴収義務がありますので、ここで、きちんと徴収されているか、正しく計算されているかを見るためのものですが、レセプトコンピュータが入ってきてから、レセコンに移行されている医療機関も多いのではないかと思います。
厚生局によっては、適時調査の指摘項目に上がってきているところもあるようですが、「レセコンから日々の点数が随時出せる状態であれば不要」という回答をもらっている医療機関もあります。業務の見直しの際に、厚生局に確認してみてもいいかもしれません。
【カルテの保存期間】
カルテは5年間、その他の書類は3年間の保存義務があります。
■療養担当規則第9条
保険医療機関は,療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から3年間保存しなければならない。ただし患者の診療録にあってはその完結の日から5年間とする。
この場合の、「完結の日」とは、診療の転帰が「治癒」・「死亡」・「中止」とされ診療が終了した日、となります。
また、「その他」の記録、とは、検査記録やエックス線画像等になります。
■自由診療の診療録
保険診療と同様に5年間保存、その他の記録は2年間保存することとなっています。(医療法第21条第1項第9号,医療法施行規則第20条第10号)。
これは、皆さんの医療機関で、保険のカルテと、自費カルテ(自賠責等)を分けておられると思いますが、この法律が根拠となっています。
なお、医療事故による時効は,20年であることにも注意が必要です。
【電子カルテについて】
近年では電子カルテに移行されている先生方も多いと思います。
基本的には電子カルテでもこれらのルールは同じですが、電子媒体の保存に関して、「診療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第5版)」を遵守したものであることが大事になってきます。電子カルテを選定する場合には、十分に注意が必要です。
■カルテの三原則
① 真正性:修正履歴の履歴追跡可能、記録者が明確
② 見読性:データのモニタ表示、文書出力の機能
③ 保存性:データ保存の堅牢性、二重化
つまり、「何時」「誰が」「どのように記録したか」というログを追うことができるということです。
医療従事者であっても、医師資格がないとできないこと、に関して、他の職種が電カルの操作をしてできてしまう・・・具体的に言うと、事務職員や看護師が処方できる、というシステムは認められません。
従って、職員ごとにIDマスタの管理が必要ですし、職種ごとに出来る作業範囲が決められている必要もあります。
これは「医師に成りすまし」、診療行為を行うことを防御するシステムが必要であるということで、とても重要になります。
例えば、事務職員が自身のIDでカルテの処方等の記載ができ、医師の承認行為が行われないうちに、処方箋が発行される、等は論外です。
記録の権限、閲覧の権限、職種によっては閲覧できないということも必要です。
医師事務作業補助者が記録をする場合は医師の承認が重要になってきます。
さて、今回、「カルテの記載」のについて、ルールを中心に述べてきました。
とても重要であることを理解していただけましたでしょうか?
カルテについては、様々に記載ルールが決められています。電子カルテを導入される医療機関も増えてきていますが、「カルテの記録として認められない」と指摘される医療機関も出てきているのは事実です。これを重く受け止め、カルテは公的な文書であるということを認識していただきたいなと思っております。
<参考資料>
■厚労省: 保険診療の理解のために(令和2年度版)
■関連法規:医師法、療養担当規則
医業経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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