【令和4年度診療報酬改定】診療録管理体制加算の改正~その背景について~
長 幸美
アドバイザリー今回改定で、情報管理やデータ管理、データ提出について診療情報管理士の役割は大きくなってきていると思います。さらに、セキュリティに関する問題やデータ管理については、その重要性からシステムバックアップ体制の確保が望ましいことを求められる改定となりました。その背景について、少し見ていきましょう。
昨年の10月、徳島県のつるぎ町立半田病院のサーバーが外部からのサイバー攻撃を受けたことにより、ランサムウェアに感染し、約8万5千人分の患者情報が暗号化されたほか、犯人から身代金を要求された事件はご存知でしょうか。
この事件を踏まえ、今回の改定では、電子カルテの危険性やその対応策についても盛り込まれることになりました。
国内では、この他、11病院がコンピュータウイルスの被害にあっていたとの情報もあります。半田病院は120床、13の診療科がある病院で、コロナウイルス感染症患者も受け入れている地域の基幹医療機関です。暗号化された患者データは復旧の目途が立たず、患者から治療内容を聞きとり、近隣の調剤薬局から処方箋を取り寄せ、カルテを手書きで作り直したそうです。診療現場は混乱をきたし、どれだけ大変だったことでしょうか。
過去の治療歴の正確な把握はとても難しかったと思います。
新規患者や救急搬送については受入れ制限を余儀なくされたことでしょう。
こうした事件を重く見た厚労省は、許可病床数が400床以上の保険医療機関において、診療情報管理体制加算1の施設基準の中に下記の2点を盛り込み、対応することとされました。
① 専任の医療情報システム安全管理者を配置すること、
② 当該責任者は、職員を対象として、 少なくとも年1回程度、定期的に必要な情報セキュリティ研修を実施していること
さらに、医療情報システムのバックアップ体制の確保が望ましいことを要件に加え、定例報告において、当該体制の確保状況について、報告を求めることとされました。
オンライン資格確認、オンライン診療の解禁など、診療そのものもオンラインを活用することなどが求められている改定ではありますが、このシステムの安全性については、しっかりと考えていく必要があると思います。
■標準規格の導入
医療機関間等の情報共有及び連携が効率的・効果的に行われるように標準規格の導入を求められてきました。今回の改定では、毎年7月の定例報告において、標準規格の導入にかかる取り組み状況等について、報告を求められています。
この標準規格とはどういったものでしょうか?
医療情報交換の次世代標準フレームワークである 「HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)」の導入状況を指しているようです。
今回の改定は、このような新しい横文字が増えていること、学会ガイドライン等の参照要件が増えていることも特徴の一つですね。
■HL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)とは?
医療情報交換のための実装しやすい新しい標準規格として海外で注目されているもので、現在、日本の医療情報分野において、医療情報交換のために厚生労働省標準規格として制定されている規格ということのようです。
これら規格を活用し、医療機関内の診療、処方・検査・会計等のオーダリング、また医療機関間での地域医療連携等、様々な形で医療情報の交換が行われていて、この導入を検討されています。
■診療情報管理体制加算1の施設基準
今回の改定で、中央病歴管理室が設置されており、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に準拠した体制であること」を求められており、この内容が、今回話題にしている「HL7 FHIR」の実装の報告をさせるという内容ではありますが、次期改定に向けて、この内容を検討していく必要はあると思います。
クリニックや中小の病院においても、このガイドラインに準拠しているシステムか?ということは確認する必要が出てくるかもしれません。
■ICT活用した情報提供について
今後ICTを活用した情報提供については、ますます広がってくると思いますし、求められてくる状況があると思います。インターネットを使うことにより、今回の半田病院のようなリスクはどの医療機関も抱えていることです。今後この脅威に備えつつ、どのような対応・取り組みを進めていくべきか・・・悩ましいところです。
少なくとも、「HL7 FHIR」について、知識を入れて、電カルのシステム会社と検討していくことが必要かもしれません。診療情報管理士もシステムのことをしっかりと勉強する必要がありそうです。
<参考資料>
■標準規格準拠の電子カルテ導入の推進策(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000877227.pdf
医業コンサル課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
最新の投稿
- 2024年11月5日医療介護あれこれQ&Aより~医師国保がいい?それとも協会けんぽ?~
- 2024年10月21日クリニックのための接遇接遇レッスン~ユマニチュード導入のSTEP~
- 2024年10月18日介護保険施設介護保険3施設~特養・老健・介護医療院どう違うの?
- 2024年10月14日医療介護あれこれ接遇レッスン~ユマニチュードと接遇を考える~