私の時はこうだった・・・を封印しましょう!
長 幸美
医業経営支援最近、クリニックの先生方から「新しい職員を入れても、入れても定着しない。どうしたらいいんだろう・・・」というご相談を受けることがあります。
はて?どこかに何らかの問題はありそうですが、原因は何でしょうか?
新しい職員が定着しない・・・?
先生方からのご相談は「新しい職員が定着しない」という事象のみのご相談が多いのですが、その理由は様々です。職員からのヒアリングや業務の状況を観察させていただくことにより、背景にある課題が見えてきます。その課題を解決しないことには、小手先ではどうしようもありません。
古参の職員がこれまでの慣習を通そうとして、改善しようとした別の職員が疲弊してしまうパターン。
やる気のある新入職員が興味を持ったことに対し、やらせてもらえないパターン。
逆に私やります!と頑張りすぎて燃え尽きちゃったパターン。
様々にあるのですが、いずれも、作業マニュアルもなく、しっかりと作業目的や内容等を系統立て説明されていない、古参の職員の協力が得られていないように思います。
その中でよく聞く言葉が、「私の時はこうだったのよ」という言葉です。
昔のことを持ち出す理由・・・?
古参の職員が「昔はね~~」と言い出すには二通りあるように思います。
ひとつは、「昔はよかった」と懐かしむ場合。
もう一つは「昔はもっと厳しかった」と「私はこんなに優しいアピール」をしてくる場合です。
昔はよかった・・・
今と昔では、事務職員に求められることも変わってきています。
昔は、にっこり笑って受付をしてレセプトを作っていたらよかったのでしょうが、今はそうはいきません。コロナ禍になり受付といえども感染対策のために行う作業が増えています。
環境整備や発熱外来や予防接種など、もともとの事務作業のほかの作業も増えていますし、予約対応や電話対応、待合室に待っている患者数を制限している事例もありますので、相対的に作業量は増えています。
また、チーム医療・多職種連携、そして医療DXといわれている昨今、これまで通り、レセコンの入力だけでは、対応しきれない状況も出てきました。
さらに、オンライン資格確認や薬剤の供給がストップするなど、窓口業務外で在庫管理や発注管理業務も増えています。
のんきに昔話をしている時代ではなくなってきました。
昔の厳しさが必要か?
私も昭和の時代に生まれ育っているので、トップダウンや「同じことを2度も3度も言わせるな!」「何をしているか、私がやっていることを見て覚えろ!」「周りをよく見て気を配れ!」・・・といわれて厳しく指導されてきた時代です。その厳しさはもう通用しないなあ、と思う反面、だからと言って「昔はもっと厳しかった、私は何も言わないから優しいでしょ?」というのも、違和感があります。
頭ごなしに言う必要はない・・・というより、頭ごなしに行っても何も伝わらないし、解決はできない・・・と思っています。理解できる言葉で説明し、理解してもらうようにしないと、仕事にはなりません。「だめでしょ!」・・・といわれても、何がダメなのか、何故ダメなのかわからなければ、何度も同じことを繰り返してしまうだけです。
そしてよくないことに「私は優しい」アピールをする方は、責任逃れしている方が多いように思うのです。「理屈はわからないわ、だってこうしろって言われてきたんだもの。あなたも言われたことをやっておけばいいのよ・・・厳しいこと言わないだけいいでしょ!」
・・・あれれ?なんだか話の本質が変わってきているような・・・。
仕事上の責任において厳しさは変わらないですよね・・・。
教えるって難しい!
時々、業務の本質を教えず、作業レベルで「私はこうやってるけどね。やりやすい方法でいいんよ」という先輩を目にします。結果が同じになればいい・・・ということなのですが、初めての方にそんなことを言っても、どんな結果が求められているのかわからず、当然のことながら作業がうまくいくはずもありません。そして、「今どきの若い子は言われたとおりにしない、何度も教えているのに!使えない!!」と先輩に怒られているのです。
言われた方もびっくりで、「好きにやっていいって言ったじゃない、やったわよ!私のやり方で!」と反発するということをよく目にします。
しかし、何がどうなっているのか、何が問題なのかを聴き取りしていくと、ほとんどが、作業(点)を指示して、できたかどうかも確認せず、次の作業を指示し、繋がっている作業と作業を明確にしていない・・・ということが多いのです。何のために実施している作業なのか、重要性も含めて説明ができていないので、言われたことをやったと勘違いすることも往々にしてあります。
例えば、保険証の確認で、「難病の医療証は患者さんが出さなかったから、ないと思いました」とか、「保険証確認してといわれたから、持っているかどうか確認しました」とか・・・
保険証が社保から国保に変わった人のレセコンの作業で、「病名の開始日」自体を書き換えてしまい、高額な査定になったとか・・・
指示をしたことは、「指示通りにできているかどうか」確認するのは、指示をした人の責任のもとに行うようにしましょう。
おわりに・・・
過去に「簡単にやる方法を教えてください」「もっといい方法がないんですか」と聞かれたことがあります。かなり頻繁に聞かれます。
いずれも、瞬間的に業務スキルをアップさせる・・・つまり簡単に教育(スキルアップ)する方法などありません。「スキルアップ」は、地道に一つ一つ積み上げていくしかありません。やりぬいてこそ、改善策も見えてくると思っています。
電カルが入っているから事務員はどんな人でもいい・・・大間違いです。基本は教えていく必要があります。そして、病院ごとに前提条件が違います。その中で入職者の知識もスキルもバラバラです。
唯一あるとしたら、基本業務を可視化することでしょうか?
もちろん過去の経験は大事な部分もありますが、現代は「風の時代」です。
世の中も我々の業務内容もどんどん変化しています。「教える」時にいくら「昔は~~」と言っても、始まらないというのが、私の感想です。
「昔はね~~」と言いたくなる気持ちもわからなくはないですが、そこはぐっとこらえて、今の足元をしっかり見て、今何をしなければならないか、何をしたほうがクリニックのためになるか、将来どうなっていたいのか、考えてみませんか?
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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