訪問診療と往診②~事例検討~
長 幸美
医業経営支援訪問診療と往診のシリーズ2回目です。今回は、事例ごとに請求等を検討していきたいと思います。
事例1_入院中の患者の退院時支援のケース
入院された患者の退院支援の一環として、介護・福祉サービスが必要な方について、退院後の生活を支えるサービス提供者とともに「退院前カンファレンス」を行い退院後の生活の場をみてどのようなサポートが必要かを検討するところから始まります。
A子さん(78歳)一人暮らし、近所に住む娘が時々食事の支度や世話をするために訪問されていましたが、自立した生活を送られていました。今回室内で転倒し、起き上がれなくなったところを発見され救急搬送されました。圧迫骨折と熱中症の症状があり、療養の間に、軽度MCI(認知障害)及び歩行についてもサポートが必要な状況になりました。
このケースでは、退院支援のためにソーシャルワーカーとご家族で相談され、入院中に介護保険の申請をされました。
また、退院困難な要因がある(一人暮らし、明らかなADL(日常生活動作)の低下)と判断され、退院支援ナースがつき、退院に向けた調整や評価を行うため、看護師、リハビリ専門職・ソーシャルワーカーで「退院前訪問」を実施し、その結果に基づき家庭内の調整(手すりの設置、段差の解消、等)を行いました。また、退院前に入院中の医師・看護師・リハビリ専門職とともに、在宅医療の担当医師及びケアマネジャー、訪問看護師、デイサービス、福祉用具の担当者を交えて「退院カンファレンス」を行いました。
このケースで考えられる報酬はそれぞれに以下の通りです。
入院医療機関(医療保険) | ケアマネジャー(介護保険) | 在宅かかりつけ医(医療保険) |
〇入退院支援加算 ・入院時支援加算 ・総合機能評価加算 〇退院前訪問指導料(B007) | ※通院退所加算(3回まで) (担当ケアマネが訪問した場合) | |
〇退院時共同指導料2(B005) (多機関共同指導加算) 〇診療情報提供書 | ※ケアプラン作成 | 〇退院時共同指導料1(B004) 〇訪問看護指示書 (特別訪問看護指示) |
〇退院後訪問指導(B007-2) | 〇ケアプラン作成・モニタリング | 〇訪問診療 ・在宅時医学総合管理料 〇居宅療養管理指導(介護) |
今回の場合はもともと自立していて、入院後に介護保険を申請していますので、「通院退所加算」の算定はありません。もし、入院前に介護保険サービスを利用していた場合は、担当ケアマネさんが入院中に医療機関に赴き、入院中から退院の支援をすることにより、「通院退所加算」が算定できるケースがありますので、少し頭の片隅に入れておきましょう。
事例2_外来通院が出来なくなり、在宅訪問診療に移行されたケース
長年当院に外来通院されていたB男さん。認知症も発症され、少しずつ身の回りのことが出来なくなってきました。同居している娘さんは訪問診療を希望され、これまでの担当医は外来診療に手いっぱいで訪問診療まではできないとのことで当院を紹介され、主治医を変更することになりました。
こういった相談はケアマネジャーさんやご家族さんから通院に付き添うことが大変になってきました・・・等というカタチで相談を受けることがあるのではないでしょうか?
これまでであれば、紹介状に対し「診療情報提供料」を算定して終わりだったケースだと思いますが、令和4年の改定で外来での担当医療機関から在宅の担当医療機関への引継ぎをして在宅医療へ移行することについて、「C014_外来在宅共同指導料」が算定できることになりました。これまでの担当医とこれからの在宅医が一緒に患者さんやご家族の在宅を支援するという意味合いでは、良い仕組みだと思います。
算定できる項目や要件は以下の通りになります。
外来において診療していた担当医療機関 | 在宅療養を担う担当医療機関 |
〇外来在宅共同指導料2(600点) | 〇外来在宅共同指導料1(400点) |
オンラインでの共同指導が可能 初再診料・往診料・訪問診療料は算定できない 対象患者・・・4回以上の継続受診がある患者 | 患家等を訪問して在宅での療養上必要な説明 及び指導を行う 外来担当医療機関の医師と共同して指導を行い、 内容を文書により交付する(様式52) |
なお、他の医療機関や社会福祉施設、介護老人保健施設(老健)、介護医療院、特別養護老人ホーム(特養)、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅その他施設等に入院又は入所する患者は対象とはならないとされています。
つまり、原則、外来診療から自宅での在宅療養に移行する患者が対象となると解釈できます。
事例3_在宅療養中に脱水傾向となり点滴注射が必要となったケース
在宅訪問診療を行っていた患者さんの摂食量が減少し、傾眠傾向がみられることと、37.5℃程度の発熱を認めたため、特別訪問看護指示書を記載し、訪問看護ステーションの訪問看護師さんに、点滴を依頼しました。
この場合、すでに介護保険での訪問看護を行っている場合であれば、特別訪問看護指示書の作成でよいのですが、訪問看護を実施していない場合は、ベースになる訪問看護指示書と特別訪問看護指示書の2枚が必要になります。特別訪問看護指示に関しては、週4回以上の訪問看護による処置や点滴加療が必要な状態などを判断する必要がありますので、訪問診療や往診など、医師が診療して指示を出す必要があります。これが留意点になると思います。
こういった場合に「必要な薬剤料や材料費を患者さんから別にもらえるのか?」「訪問看護師さんが取りに来るのだけど請求は誰にすればいいの?」、という質問を時々いただきます。
指示をした医療機関が必要量を支給する必要があり、薬剤料や医療材料等の加算として算定することができます。衛生材料についてもわずかですが請求できますので、覚えておきましょう。
算定の概要は以下の通りにとなります。
在宅医療機関(かかりつけ医) | 訪問看護ステーション | 在宅医療機関から 依頼を受けた医療機関 | |
通常 | 〇訪問診療又は往診 ・診療情報提供(Ⅰ) 〇訪問看護指示料 | 〇訪問看護(介護・医療) | 〇外来診療(初再診料) 又は訪問診療(6ヵ月迄) ・診療情報提供 |
頻回 訪問 必要 時 | 〇特別訪問看護指示料 ・衛生材料等提供加算 ・薬剤料 ・必要な特定医療材料 | (訪問看護/医療) ・頻回な処置又は点滴 | ― |
例えば、内科の先生が眼科や耳鼻科の先生にそれぞれの専門領域の治療のための診療を依頼する場合もあると思いますが、依頼を受けた眼科や耳鼻科等の先生が訪問された場合も、若干安くはなりますが、訪問診療料が設定されています。該当する場合はご留意ください。
まとめ
さて、今回は事例に合わせて算定できる項目をみてきました。
1医療機関のみでみるのではなく、全体を見ることにより、自院の立ち位置などを確認していくことも大事なことだと思います。
今回、三つの事例を見てきましたが、医療専門職が動くことについては、様々に評価がついてきています。事務職員としては、医療専門職がどのような連携をしているのか、そしてその算定について整理し的確に算定できるようにしていきましょう。
2023年8月30日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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