万が一のとき、診療を止めないために準備していますか?~紙カルテでの診療~

長 幸美

医療介護あれこれ

医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第6.0版)について、これまでも弊社 ICT活用推進課の綾部マネジャーに話をお聞きしていましたが、今回は「非常時の準備について」いろいろとお話を伺いたいと思います。

非常時の種類

非常時と言えば、台風や地震などが浮かんできますが・・・どのような種類があるでしょうか?

そうですね。大きく分けると、台風や地震などの自然災害といわれるもの、そして新型コロナウイルス感染症でも注目された感染症によるもの、そして今回のガイドライン見直しの元になったといわれている人為的なものがあります。

自然災害と感染症

自然災害と感染症については、介護事業所や病院など「事業継続計画(BCP)」の策定でも項目を盛り込んでおくようになっていますね。

自然災害の場合、台風のように「進路の予測」がある程度できる場合もあれば、地震のように予測が不可能な場合もあります。洪水や土砂災害など過去の経験や気象状況などもありますが、あくまでも過去の経験値であり、近年の災害の状況から予測ができないことも多々あると思います。

感染症に関しても、院内でいくら対策をしていても日常生活の中で感染が起きることもあるでしょう。

いずれの場合も「働くヒトが確保できない」という状況も十分ありうると思います。その中で、何を大事にして・・・つまり優先して実施していく事業はなにか、どのように実施し、継続していくかを事前にシミュレーションしておくことが大事になります。それが「事業継続計画(BCP)」の策定の目的となります。

人為的な被害について

三番目の人為的なものについて教えてください。

人為的なものについては、これまでは「データの抜き取り」「パソコンやUSBメモリの紛失・盗難」などが指摘されていました。いわゆる電車の置き忘れや車上荒らしのような事件が多かったわけです。

しかしながら近年「サイバー攻撃」による被害が相次いでいます。
一昨年前のランサムウエアによる事件の後、同様の事件が繰り返し起きています。昨年は、セキュリティ対策を何重にも実施している医療機関でも攻撃を受けるという事件も起きました。それと同時に、クリニック等の小規模事業所での被害も報告されています。規模には関係なく被害を受けているわけです。人為的な被害についても変化が起こってきています。

そして、オンラインの資格確認を始めることにより、常時インターネットに接続することになり、サイバー攻撃を受けるリスクは高まってきているということになります。

うちの医療機関では、紙カルテだし問題はないでしょ?といわれる院長もおられます。

紙カルテで紙レセプトを活用して保険請求を行っていたら、特に問題はないように思えますが、院内をよく見てみてください。検査会社の方とメール等で検査結果のやり取りをしていませんか?
いざというときに、メール等のインターネットを利用せずに発注等のやり取りはできるでしょうか?

レセコンのメンテナンスや更新作業など、インターネットでリモートメンテナンスを受けていませんか?医療機器についても同様ですね。
案外いろいろなところでインターネットを活用しておられるのではないでしょうか?

もしもの時の準備できていますか?

なるほど・・・そう考えると、ほとんどの医療機関が該当することになりますね?

おそらくほとんどの医療機関が何らかのインターネットを活用されていると思います。例えば、院内の独自のネットワークを構築している場合も、元をただせば、インターネットの回線を利用して構築されていることが多いですし、何も使用していないということはないのではないかと思います。

そうですね・・・最近では電カルを導入されるケースも多いと思いますが、どのようなことを準備していたらいいでしょうか? 特に注意することなどありますか?

自然災害の場合、停電になることが想定されますが、皆様の医療機関では、その対策はどのようにされているでしょうか? おそらく、紙カルテ、紙の処方せん等で対応され、あとから電子カルテに入力する・・・ということを想定されているのではないかと思います。
診療を止めないためには、手作業で診療を行う準備が必要だと思います。

紙カルテで対応する!

具体的に言うとどのようなことでしょうか?

紙対応ができるように、問診、紙のカルテの一号用紙・二号用紙・三号用紙などを準備しておくということです。必要な事項を記載できるようにあらかじめ準備しておかれること、そして、紙カルテを使用して模擬診療をされてみることが良いのではないかと思います。

なるほど・・・電子カルテになれていると、紙のカルテといっても戸惑うかもしれませんね。

紙カルテの仮番号をとり、手作業で診療をしてもらいます。その後は、正規の患者番号で患者登録、診療内容の入力を行うことになりますので、あとから見てわかるようにしておく必要があります。
検査の依頼や医薬品・医療材料等のサプライに関することと問題なく発注できるかどうかその方法を把握しておく必要もあります。

レセプト請求のために少なくとも診療報酬の入力は行い、診療費の精算はしないといけません。カルテの中身については、スキャン保存をされていれば、その間は紙カルテの保管でも良いと思いますが、その紙カルテの管理も必要になります。

職員が慌てていると、患者さんも不安になるでしょうし・・・。なかなか難しい問題ですね。

そうですね。すべてが手作業になる前提で、準備されておくこと、考えて実際にやってみることがいいのかなと思います。紙カルテでの診療手順も大事なので・・・一度シミュレーションされておくといいかもしれませんね。停電になり、いつもと違う状況があると、ただでさえ患者さんは不安になっていると思います。その中で、職員が慌てていると、さらに不安をあおりパニックになる可能性も考えられます。職員が慌てずに対応している様子を見せることにより、患者さんも「心配ないな、この先生なら大丈夫だな」と安心してもらえると思います。

ありがとうございました。

まとめ

今日はいざというときのためにどんなことを準備していたらいいかということをお聞きしました。
シンプルに「紙カルテで診療する」ということでしたが、現在、電子カルテしか触ったことがないというクリニックの事務員さんや看護師さんも増えていると思います。

クリニックの事業継続計画(BCP)を考えていく中で、実際の動きを体験(シミュレーション)しておくことはとても有効で、大事なことと思います。
この機会に、紙対応について検討され、一度練習しておかれるのは如何でしょうか?

                         話し手:ICT活用推進課マネジャー 綾部一雄
                         聴き手:医業コンサル課 長 幸美(文責)

2023年11月28日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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