高齢者のリハビリテーション
長 幸美
医療介護あれこれ近年、「維持期・生活期のリハビリテーション」という言葉がよく聞かれるようになりました。
地域包括ケアシステム・・・つまり「住み慣れた地域で暮らし続ける」ためには、年齢による体の変化や病気とも上手に付き合いながら生活をしていく必要が出てきます。
今回はこの高齢者のリハビリテーションについて考えていきましょう!
目次
高齢者のリハビリテーションとは・・・?
整形外科に訪問すると、ご高齢の方がリハビリに通われている姿をよく見かけます。
膝が痛い、腰が痛い、肩が痛い・・・症状は人それぞれですし、何らかの理由で歩行状態が悪くなり、訓練が必要になる方も、もちろんいらっしゃいます。
高齢者の場合どうしても「老化」という問題が出てきます。
つまり、若い時のように劇的に治るということは少なくなり、現状を維持しつつ、悪化しないように生活や介護者を支援するためのリハビリが必要になってきます。
これが「維持期・生活期」のリハビリテーションです。
医療のリハビリとは少し意味合いが違ってきて、この維持期のリハビリテーションは「介護保険」でのサービスになってきます。これまでの機能をそれと同等の状態まで戻していくことは難しいこともありますが、その方に応じた生活の中の目標をもって、地域の中で生きがいのある生活ができるように支援していくわけです。
目標設定等支援・管理料
上記の図で示されている通り、何らかのイベント(例えば脳卒中や骨折など)が起きたときに、急性期医療で手術等を実施され、疾患別リハビリテーションを行うわけですが、一定程度リハビリを行う中で、「これ以上は機能は戻らないが、悪くならないようにするため」の維持期・生活期のリハビリテーションが必要になる時期が来ると思われます。
つまり「目標設定等支援・管理料」は、脳血管疾患等リハビリテーション、廃用症候群リハビリテーション、運動器リハビリテーションを実施している要介護被保険者等である患者に対し、生活を支えるために必要な維持期・生活期のリハビリテーションに移行するための目標を立て、方向付けを行い、必要な指導を行いその進捗を管理した場合に3月に1回算定できるものなのです。
通知の中には、以下のように実施する内容の記載があります。
医師は、作成した目標設定等支援・管理シートに基づき、少なくとも次に掲げる内容について、医師が患者又は患者の看護に当たる家族等(以下この区分番号において「患者等」という。)に対して説明すること。また、説明を受けた患者等の反応を踏まえ、必要に応じて適宜、リハビリテーションの内容を見直すこと。
厚生労働省/医科診療報酬点数表_H003-4目標設定等支援・管理料の通知より
ア 説明時点までの経過
イ 当該保険医療機関における治療開始時及び説明時点のADL評価(BI又はFIMによる評価の
得点及びその内訳を含む。)
ウ 説明時点における患者の機能予後の見通し
エ 当該患者の生きがい、価値観等に対する医師及びその他の従事者の理解や認識及びウの機能予後の
見通し等を踏まえ、どのような活動、社会参加の実現を目指してリハビリテーションを行っている
か又は行う予定か。
オ 現在実施している、又は今後実施する予定のリハビリテーションが、それぞれ「エ」の目標に
どのように関係するか。
つまり、患者さん又はその家族に対し、現時点でのADLを評価し、患者さんの希望に合わせて、その希望する生活に移行できるようにリハビリテーションの観点から支援していきましょう、ということです。
その他の介護保険サービスへの移行支援
少々余談になりますが、介護保険サービスへの移行支援としての評価が、診療報酬上にあと二つありますので、紹介しておきましょう。必要に応じて点数表で算定要件をご確認ください。
B005-1-2 介護支援等連携指導料
これは入院中の患者さんに対して、「医師又は医師の指示を受けた看護師、社会福祉士等が介護支援専門員又は相談支援専門員と共同して、患者の心身の状態等を踏まえて導入が望ましい介護サービス又は障害福祉サービス等や退院後に利用可能な介護サービス又は障害福祉サービス等について説明及び指導を行った場合に、当該入院中2回に限り算定する。」とされています。
具体的には、患者が退院された後に、より適切な介護や障害等のサービスを受けられるよう、入院中から居宅介護支援事業者のケアマネジャーや指定特定相談支援事業者等の相談支援専門員と連携して退院後のケアプランやサービス等利用計画若しくは障害児支援利用計画の作成につなげることを評価しているものです。
B005-1-3 介護保険リハビリテーション移行支援料
こちらは入院中の患者以外・・・つまり外来や在宅療養中の患者さんで維持期のリハビリテーションを受けている方に対して、当該患者の同意を得て、医師又は医師の指示を受けた看護師、社会福祉士等が介護支援専門員等と連携し、介護保険における介護リハビリテーションサービスに移行した場合に、患者1人につき1回に限り算定することができまるものです。
つまり、介護保険のリハビリサービスといってもどこでどのようなサービスが受けられるかわからない場合に、ケアマネジャーさんと連携してサービス提供先を一緒に探してあげるイメージでしょうか?
介護保険でのリハビリテーションと維持期のリハビリテーションを併用して行うことが出来る期間(移行)は2カ月間あります。この2か月間を経て介護保険のリハビリテーションに実際に移行した後、算定できる診療報酬です。
介護保険のリハビリテーションとは・・・?
さて、前項でお話しした「介護保険によるリハビリテーション」とはどのようなものを指すのか、ここで概要を見ておきましょう。
訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション
介護保険の中で、「居宅要介護者について、その者の居宅において、その心身の機能の維持回復を図り日常生活の自立を助けるために行われる理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーション」であると定義されています。
提供できるのは、「病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院」であると限定されています。
いわゆる医療法における「医療提供施設」に該当するものとなりますね。従って専任の常勤医師が1名以上配置していることが施設基準の中に定められています。医師は医療機関の医師と兼任することができます。
最近では訪問看護ステーションから理学療法士・作業療法士等を訪問させリハビリ等を行うケースがありますが、介護保険上では、リハビリ専門職が行う訪問看護と位置付けられています。訪問リハビリとは考え方が異なるので、注意が必要ですね。
通所リハビリテーション・介護予防通所リハビリテーション
介護保険サービスで、「居宅要介護者について、介護老人保健施設、病院、診療所その他厚生労働省令で定める施設に通わせ、当該施設において、その心身の機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるために行われる理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーション」であると定義されています。
提供できるのは、訪問リハビリテーションと同様に「医療提供施設」とされています。人員の配置は専任常勤医師1名以上の他、従事者やリハビリ専門職の配置も必要です。
短時間(1~2時間)の通所リハビリテーションは、医療機関のみなし事業として届け出ることにより実施することが出来ます。
介護保険サービスの基本的考え方
介護保険サービスは、「自立支援」「利用者本位」「社会保険方式」という、三つの基本的な考え方により形作られています。サービス提供に当たってとても大事なのが、最初の「自立支援」の考え方になります。
自立支援とは、「単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする」とされており、維持期・生活期のリハビリテーションが、住み慣れた場所で暮らし続けるための支援であることから、自立支援の観点からも、医療(治療)から生活を支えるという方にシフトしてほしいという考え方の基本になってきていると思います。
まとめ
厚生労働省の調査によると、高齢期に生活したい場所として、自宅と答えている方が約7割おられます。それと同時に、心配事としては「病気になった時のこと」「介護が必要になった時のこと」が約8割の方が心配されています。つまり、動けなくなることへの不安が強いと思います。老々介護世帯や高齢者の単独世帯が増加傾向にある中、ますます、この心配を抱える方は増えてくるのではないかと思います。高齢者が現在の体の機能を維持し、自宅での生活が続けられるように、高齢者のリハビリテーションを考えてみるのもいいかもしれません。
<参考資料> (確認日/令和5年9月14日)
■厚生労働省/医科診療報酬点数表_第7部リハビリテーション
⇒第2章特掲診療料
第1部医学管理等
第7部リハビリテーション
■厚生労働省/介護報酬の解釈(社会保険研究所) (令和3年度介護報酬改定資料はこちら)
⇒訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション
通所リハビリテーション・介護予防通所リハビリテーション
2023年9月14日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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