令和6年度診療報酬改定~外来感染対策向上加算~
長 幸美
医療介護あれこれポストコロナ時代の外来感染対策・・・これも令和6年度診療報酬改定では議論の的になっていました。
前回(令和4年度)の改定で、病院だけではなく診療所でも感染対策について評価されたわけですが、これが令和6年度の改定で、さらに深化しています。
今回はこの「外来感染対策向上加算」についてみていきたいと思います。
(3月5日時点の告示の内容をもとにしています)
目次
感染対策向上加算の背景~おさらい~
新型コロナウイルス感染症が流行し、急性期の病院は患者さんが殺到し大パニック、慢性期の病院は院内感染が怖くて、急性期の病院に転院させたい!という現象が起き、救急病院では感染症ではない患者の受入れもままならず、救急車が何時間も受け入れ先が決まらずに搬送できない事態になったことは皆様も記憶されているのではないかと思います。
少しずつ、軽症者はホテル療養や在宅でオンライン診療を行ったり、慢性期の医療機関でも治療後の患者さんの受入れを行うなど、仕組みができてきましたが、クラスターが起きてしまうと医療機関の機能がストップしてしまい、大変な思いをされた病院がたくさんあります。
それは地域のクリニックや介護施設、在宅で療養されている方々への影響も大きかったのです。
クラスターが一度起こると患者さんの入退院ができなくなり、一つの医療機関では対応が厳しいことや、周辺の医療機関へ感染が波及していくことなど、その時のことが教訓となり、平時から地域の医療機関同士や行政との連携・・・顔が見える連携を構築することがとても大事で、その連携が緊急時に迅速に相談できることや対応の支援を行えることにもつながることがわかってきました。
これが感染対策向上加算の背景です。
地域のリーダー格となる「感染対策向上加算1」を届け出ている急性期の医療機関が基幹病院となり、病院や診療所と「カンファレンス」等を通して顔が見える関係を構築し、いざというときに地域を一緒に支えてほしい・・・という考え方のもとになっています。
今回(令和6年度)の改定は、医療・介護・障害のトリプル改定であるとともに、第8次医療計画の策定時期でもあることから、都道府県との「協定指定医療機関」であることがそれぞれの規模・役割に応じて課せられてきています。
当初は、新型コロナウイルス感染症の検査ができる医療機関か?というところからはじまり、現在は発熱外来(感染症の患者さん)を実施すること、そして、今後は、都道府県との協定を結んで、感染拡大時の外来受入れ医療機関、入院受入れ医療機関の体制確保(担保)し、インターネットでの公表・検索ができる仕組みを作る準備が進められています。
ポストコロナにおける感染症対策
「感染症対策向上加算1」の医療機関に連携要請の連絡を入れたときに「クリニックからの個別相談は受けていません」といわれびっくりした経験があります。よく話を聴いてみると、電話交換を担う受付職員がよくわかっていなかっただけだった、ということが判明しましたが・・・事務職員とはいえ自院の立ち位置は知っていてほしいですね。同時に、クリニックの先生方も、基幹病院の役割は知ってほしいと思います。いざというときに慌てないように、そして相談できる関係を気付いてほしいのです!
感染対策向上にかかる全体像①平時における連携体制
前回改定で示された「外来感染対策向上加算」の施設基準では、医師会や地域の「感染対策向上加算1」を算定する医療機関と連携し、年2回以上のカンファレンスへの参加や指針・感染経路別の感染マニュアルを作成・新興感染症を想定した訓練への参加などが盛り込まれていました。
つまり、このカンファレンスへの参加や訓練への参加を通して、顔の見える関係性を築くこと、自院のできる範囲で、発熱した患者さんを診察すること(発熱外来の実施)が求められていたわけです。
今回、これまでの「外来感染対策向上加算」の基準に加えて、感染対策を講じたうえで発熱患者等を受け入れること、必要に応じて精密検査可能な体制又は専門医への紹介(連携)が可能であることが基準の中に入ってきました。説明会資料の中では、「発熱外来の協定締結」という文言がかかれています。(施設基準/都道府県知事の指定を受けている第二種協定指定医療機関(発熱外来にかかる措置を講ずるものに限る)であること)
この「協定締結」はそれぞれの医療機関のステージによって変わってきますが、簡単に言うと、無床診療所は「発熱外来」の実施、小規模な病床がある医療機関は「発熱外来」と「病床確保(入院受入)」について、「やるよ!」という意思表示をするということになります。
さらに、発熱患者等を受け入れた場合は、「発熱患者等対応加算(20点)」が新設されています。
受診歴の有無にかかわらず、発熱患者等を受け入れる体制を有したうえで、実際に発熱患者等に対応した場合の加算です。
算定要件としては、「外来感染対策向上加算を算定する場合において、発熱その他感染症を疑わせる症状を呈する患者に対して適切な感染防止対策を講じた上で診療を行った場合は、月1回に限り更に所定点数に加算する」とあります。
さらに「連携強化加算(3点)」「サーベイランス強化加算(1点)」の評価について、これまで同様ですが、「抗菌薬適正使用体制加算(5点)」が新設されました。これは、説明会資料の中で、「我が国における Access 抗菌薬の使用比率が低い現状を踏まえ、適正使用を更に促進する観点から、外来感染対策向上加算及び感染対策向上加算に抗菌薬適正使用加算を新設する。」と説明されています。
施設基準には、「抗菌薬の使用状況のモニタリングが可能なサーベイランスに参加していること」、「直近6カ月において使用する抗菌薬のうち、Access抗菌薬に分類されるものの使用比率が60%以上又はサーベイランスに参加する医療機関全体の上位30%以内であること。」が盛り込まれています。
感染対策向上にかかる全体像②非常時の対応体制の確保(入院)
病床を持つ医療機関では、「感染対策向上加算1.2.3」がありますが、「感染対策向上加算1.2」については、「都道府県知事の指定を受けている第一種協定指定医療機関であること」が施設基準に追加されています。これは、「新興感染症が発生した場合に、これだけの病床が確保できます」という内容のもので、対象は第三類感染症~第五類感染症の入院受入れになります。
「感染対策向上加算3」の施設基準では、この「第一種協定指定医療機関」又は「第二種協定指定医療機関」のどちらかの指定でよいとされています。
感染症の入院受入れに対しては、「特定感染症入院医療管理加算_治療室の場合( 200点)、それ以外の場合( 100点)」が新設されています。これは、感染症法上の第三類感染症~第五類感染症の患者及び指定感染症の患者並びにそれらの疑似症患者のうち感染対策が特に必要なものに対して、適切な感染防止対策を実施した場合に、1入院に限り7日(当該感染症を他の患者に感染させるおそれが高いことが明らかであり、感染対策の必要性が特に認められる患者に対する場合を除く。)を限度として、算定できるものです。ただし、疑似症患者については、初日に限り所定点数に加算する、とされていますので注意が必要です。
参考までに、「対象となる感染症」「対象の入院料」は以下の通りです。
対象疾患としては「ノロウイルス(感染性腸炎)」や「インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、麻しん、水痘、風疹、流行性耳下腺炎」等の比較的よくある感染症も含まれています。
対象入院料には特殊な病棟だけでなく「一般病棟」や「有床診療所」も含まれますので、ぜひ確認をしておきましょう!
【対象となる感染症】
狂犬病、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く。)、エムポックス、重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)、腎症候性出血熱、ニパウイルス感染症、ハンタウイルス肺症候群、ヘンドラウイルス感染症、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)、後天性免疫不全症候群(ニューモシスチス肺炎に限る。)、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、RSウイルス感染症、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症、感染性胃腸炎(病原体がノロウイルスであるものに限る。)、急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く。病原体がエンテロウイルスによるものに限る。)、新型コロナウイルス感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、水痘、先天性風しん症候群、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、百日咳、風しん、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、無菌性髄膜炎(病原体がパルボウイルスB19 によるものに限る。)、薬剤耐性アシネトバクター感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症及び流行性耳下腺炎並びに感染症法第6条第8項に規定する指定感染症
【対象の入院料】
一般病棟入院基本料、結核病棟入院基本料、精神病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料、専門病院入院基本料、障害者施設等入院基本料、有床診療所入院基本料、救命救急入院料、特定集中治療室管理料、ハイケアユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料、小児特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室重症児対応体制強化管理料、総合周産期特定集中治療室管理料及び新生児治療回復室入院医療管理料
感染対策向上にかかる全体像③個室・陰圧室管理の評価(入院)
二類感染症患者療養環境特別加算について、名称を「特定感染症患者療養環境特別加算」に名称が変更され、それと同時に対象となる感染症及び入院料の範囲を見直されています。
こちらは、新型インフルエンザ等の指定感染症等で個室や陰圧室に入院させる必要性が特に高い患者に対し、個室又は陰圧室に入院させた場合に「個室加算」「陰圧室加算」として入院料に加算算定ができるものです。個室加算の対象感染症と陰圧室の対象感染症が異なりますので、該当する医療機関は個別に確認をしましょう。
【個室加算の対象となる感染症】
狂犬病、鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く。)、エムポックス、重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る。)、腎症候性出血熱、ニパウイルス感染症、ハンタウイルス肺症候群、ヘンドラウイルス感染症、インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)、麻しん、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、RSウイルス感染症、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症、感染性胃腸炎(病原体がノロウイルスであるものに限る。)、急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く。病原体がエンテロウイルスによるものに限る。)、新型コロナウイルス感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、水痘、先天性風しん症候群、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、百日咳、風しん、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、無菌性髄膜炎(病原体がパルボウイルスB19 によるものに限る。)、薬剤耐性アシネトバクター感染症、薬剤耐性緑膿菌感染症及び流行性耳下腺炎並びに感染症法第6条第3項に規定する二類感染症、同法同条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同法同条第8項に規定する指定感染症
【陰圧室加算の対象となる感染症】
鳥インフルエンザ(特定鳥インフルエンザを除く。)、麻しん、新型コロナウイルス感染症及び水痘並びに感染症法第6条第3項に規定する二類感染症、同法同条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同法同条第8項に規定する指定感染症
【対象の入院料】
一般病棟入院基本料、結核病棟入院基本料、精神病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料、専門病院入院基本料、障害者施設等入院基本料、有床診療所入院基本料、特殊疾患入院医療管理料、小児入院医療管理料、回復期リハビリテーション病棟入院料、地域包括ケア病棟入院料、特殊疾患病棟入院料、緩和ケア病棟入院料、精神科救急急性期医療入院料、精神科急性期治療病棟入院料、精神科救急・合併症入院料、児童・思春期精神科入院医療管理料、精神療養病棟入院料、認知症治療病棟入院料、精神科地域包括ケア病棟入院料、特定一般病棟入院料、地域移行機能強化病棟入院料及び特定機能病院リハビリテーション病棟入院料
感染対策向上にかかる全体像④介護保険施設等との連携
今回の改定の特徴でもある「連携」が感染対策向上加算についても施設基準に入ってきています。
病床を持つ医療機関は、介護事業所の後方支援についても考えていく必要が出てきました。
これは「感染対策向上加算」の施設基準の中に、「連携する介護保険施設等から求めがあった場合に現地に赴いての感染対策に関する助言を行うこと及び院内研修を合同で開催することが望ましいこと」が追加されたものです。
さらに「感染対策向上加算1」の医療機関については、介護保険施設等からの求めに応じ、当該介護保険施設等に対する助言にかかる業務を行う場合は、原則月10時間以下であれば、感染制御チームの業務に専従しているものとみなすことが明確に書かれています。
まとめ
話がだいぶ膨らんでしまいましたが、新型コロナウイルス感染症拡大を経験し、自院のみで対応することの難しさはどの医療機関の方々も感じておられるのではないでしょうか?
これまでのように、熱があるなら診療はできない!という対応はしにくい状態になるかもしれません。
自院でどのような患者さんが多いのか、また自院でできる対応はどういうことか、ということもしっかりと考えて準備しておく必要がありそうです。
<参考資料> 令和6年3月18日確認
■厚労省/令和6年度診療報酬改定説明会資料について ⇒改定説明会資料は(こちら)
〇ポストコロナにおける感染症対策の推進(令和6年3月5日版) ⇒説明会資料は(こちら)
※改定については、YouTubeでも厚労省の説明会動画が公開されています。ぜひご活用ください。
■厚労省/令和6年度診療報酬改定について
⇒告示・通知など、令和6年度診療報酬改定にかかる資料は(こちら)
2024年3月18日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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