【平成30年度診療報酬・介護報酬同時改定】平成30年度診療報酬改定にかかるこれまでの議論の整理(案)②-2

長 幸美

アドバイザリー

<参考>【速報】平成30年度診療報酬改定資料 告示出ました!

今回は、Ⅱ 新しいニーズにも対応でき、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実について、みていきたいと思います。

Ⅱ 新しいニーズにも対応でき、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実
(1)重点的な対応が求められる医療分野の充実
①緩和ケアを含む質の高いがん医療
がん患者については、ターミナル期の酸素療法や、看取り直前の状態の変化に応じたサービス提供、医療用麻薬の投薬期間の見直し、がん拠点病院の要件見直しなどが挙げられています。

注目すべきは、治療と仕事の両立支援の観点から、主治医と産業医の連携にかかる評価を新設するというところでしょうか。

②認知症
高齢化の副産物(?)という言い方をされていた方もおられましたが、高齢者の2人に1人が認知症の時代と言われている時代を控えて、どの医療機能においても「認知症患者への適切な対応」は必要になってきます。

私が医療業界に入ったころは、「拘束の仕方」の研修を受けた記憶があります。今は、とてもそんなことはできなくなってきました。

医療の内容によっては危険を伴い、特に急性期になると、点滴・ドレナージ管理・酸素吸入など、様々な医療器具につながれていくことになります。認知症の方にしてみれば、自由を奪われ、何をされるのかわからない!!といった状況になるのではないでしょうか?
そういった中でも治療を行うことは必要になります。

③地域移行・地域生活支援の充実・・・質の高い精神医療の評価
入院医療から在宅へと移行していくのは、精神科領域においても変わりません。しかしながら縦割り行政の中では、行政の枠を超えてしまうと、追いかけられなくなるような現状があるのも事実です。その中で相模原の事件は起こりました。
これを受け、在宅医療を担う医師をはじめ、看護師・精神科訪問看護、などかかわる方が、行政に対し、地域に対し報告を行うことが制度として出てきています。

この他では・・・

・精神保健医の要件の見直し、
・認知療法、認知行動療法について看護師の研修要件の見直し、
・精神科救急入院料等において行動制限を最小化する取組を推進するために夜間の看護職員の配置にかかる評価の新設、
・公認心理士に関する国家試験の開始に伴う評価について経過措置を設けるなど
具体的な内容の評価、見直しが行われています。

 

④難病患者・・・
指定診断に必要な遺伝学的検査について評価の拡大や難病外来指導管理料については情報通信機器を活躍した医学管理の評価を新設するなど、見直しが行われています。

 

⑤小児・周産期・救急医療の充実について
ここでも、退院支援にかかる評価については、小児の退院支援を充実の方向で見直しが行われること、これに伴い、在宅での医療提供体制(訪問診療・訪問看護)についても見直しや連携等を評価するように勧められています。
また、ハイリスク妊産婦について、自治体も含めた連携の体制について評価が新設される予定です。

夜間の救急患者における院内トリアージや病床規模の小さい病院において、夜間の救急外来対応等の病棟からの応援体制については入院基本料が一定程度算定できるように取り扱いを見直し、配慮していく方向性が出されています。いくらか緩和される方向性になるのではないでしょうか?

 

⑥感染症対策や医療安全対策の推進
感染防止対策・医療安全対策についても、チームや他院との連携により実施する場合の評価を新設される予定となっており、感染対策については多剤投与や抗生剤の多剤投与・長期投与による薬剤耐性菌対策を、医療安全については小規模の病院であっても今まで以上に求められているのではないでしょうか?

 

⑦口腔疾患の重症化防止や口腔機能低下への対応
歯科の外来診療においても「院内感染防止対策」を実施する観点から、施設基準を新設し、対策をとっていない場合は初診料・再診料が減算されるような仕組みを作るようです。

また、今まで、フレイル運動や8020運動など、高齢者に対する対策等を評価される場合が多かったと思いますが、今回は「ライフステージに応じた口腔機能管理を推進」する観点から、小児の機能不全にも着目され、加算の新設などが行われるようです。小児から高齢者についても「自分の口で食事摂取する」ということが評価されていく表れだと思います。

 

⑧薬剤師・薬局による対人業務の評価
調剤薬局やかかりつけ薬剤師については、いわゆる「対人業務」について評価を充実させる方向で進んでいるようです。この中には継続的な服薬指導、手帳の活用を通した重複・相互作用・多剤投与防止や残薬確認による過剰投与などを含め、見直しが行われるようです。

また、これらを医療機関への情報提供・共有についても見直しが図られるようです。

以下の骨子をご覧ください。

薬価制度の抜本改革について 骨子 別紙(案)

保険医療材料制度改革の骨子(案)

調剤薬局にとっては、薬価の見直しなど、非常に厳しい状況が予測されますが、地域医療構想・地域包括ケアの中での役割など、軸足をどこに置いていくのか、そのために必要なサービスは何か、・・・という検討を行っている必要があります。

(2)医薬品、医療機器、検査等におけるイノベーションやICT等の新たな技術を含む先進的な医療技術の適正な評価と着実な導入
①医薬品、医療機器について
薬価専門部会の議論を踏まえて「薬価制度の抜本改革について 骨子」及び保険医療材料専門部会が取りまとめた「平成30年度保険医療材料制度改革の骨子」に基づき対応することが決められています。

指定難病や遺伝学的検査の評価については見直しが行われることが決められており、麻酔科の診療にかかる評価については、常勤の麻酔科医による総合的な医学管理を重要視する動きがあります。

地域医療構想を踏まえ、がんの高度な放射線治療を入院中の患者が円滑に受けられるように他科受診の減算の緩和もされるようです。

手術については、移植医療について評価の見直しを行うこと、外保連の試案の評価等を参考にして診療報酬における相対的な評価を見直すこととされています。

また、ICTを活用とした診療については対面診療を基本としつつ、在宅時医学管理や難病、ICTを用いた死亡診断等について、診療報酬上の取り扱いを明確化していくことが明確化されています。

また、データの収集については、療養病棟入院基本料にもデータ提出加算や褥瘡のアウトカムに着目した要件に見直すことなど、データとして評価できること、さらにアウトカム(結果をだす)ということに重点を置かれ、より一層「患者の状態」に対し「提供した医療行為」により「どのような結果になったのか」という評価の見直しが行われるのではないかと思っています。

また、レセプトの様式の見直しが平成32年度に予定されていますが、明細書の果たす役割、つまり「どの医療行為にどのくらいの料金がかかっているのか」というところの説明義務が課されてきていると考えられます。

レセプトの審査業務の電子化も踏まえ、適正なレセプト作成を心がけていただきたいなと思います。

 

医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進
働き方や勤務環境の改善については、「医療従事者の勤務環境の改善や負担軽減への取り組み」について評価されてきました。放射線の画像診断など一定の要件のもとにICTを活用した柔軟な働き方を可能とする基準の見直しが行われています。

また、認知症等で身体拘束を行わない取り組みをするためには人的配置を充実させなければ対応ができません。このため療養環境を良くする取り組みについては、新たな評価として、加算等が新設されています。

リハビリテーションについては、役割が明確化されてきています。介護事業においても一部影響があるかもしれません。

入院のリハビリは「退院して自宅に帰る」ためのリハビリで、生活を維持する、機能を維持するためのリハビリとは区別をしていく必要があると思います。単に「リハビリテーションをしたほうがいいだろう」「リハビリをしてほしい」というリハビリではアウトカム(結果)が出ません。前回の改定で回復期リハビリテーション病棟にアウトカムが導入され、その結果入院日数が短縮するということが起こりました。

今回の改定では、「回復期リハビリテーション病棟専従のリハビリテーション専門職の方が、一定の要件のもと外来や訪問でのリハビリテーションの提供を可能にする」ということが盛り込まれています。

要するに、自宅の生活の状況を見て、それに応じたリハビリを入院中は行い、自宅復帰へ促すこと、自宅へ帰った後の不安も、入院中にかかわったリハビリ専門職がかかわれば、より不安なく自宅への退院を促していくことができる・・・ということで、そのような取り組みを評価していこうという動きです。

今回の改定は「地域医療構想」の推進、「地域包括ケアシステム構築」のための改定であるということは幾度となく申し上げていますが、住民の生活を支える支え手が、「医療側の視点」か「介護側の視点」か、という違いだけで、そこに暮らす方が変わるわけではありません。たまたま疾患があり、医療行為が必要だったということだと思います。

今回の改定で、医科にはアウトカム・・・つまり結果が出ないものについては診療報酬を認めないという傾向がさらに強まっています。介護報酬の方針の時にもお話をしましたが、介護は介護予防と重度化予防、生活支援です。

連携をするには、「それぞれの役割をしっかりと把握(理解)すること」「相手の都合を考慮すること」が必要でこれには、「共通ルール」が必要になると思います。

「働き方」についても、正職員としての雇用だけではなく、様々な働き方を考慮してもいいのではないかということが盛り込まれています。

例えば・・・介護(生活)支援や指導のため医療機関の管理栄養士、リハビリ専門職、薬剤師、看護師等が、地域に出向いていくことなどが想定されています。

また、遠隔診断だけでなく、医学管理や指導についても評価していく方向性です。

 

効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の強化
前項までの入院や在宅における評価、外来の機能分化や薬剤に関するものはほとんどが前項までの内容と重複しています。ここでは、医療技術について実態を踏まえ評価の適正化についてみておきたいと思います。

①腎代替療法・・・これは血液透析導入を遅らせるというところがあると思います。
血液透析を導入すると途中でやめることはできなくなります。特に糖尿病から血液透析に移行せざるを得ない状況などがあり、それを予防するための評価がついています。

この中でも、腹膜透析や腎移植の推進について評価を行うということです。

腎移植は簡単ではないでしょうし、腹膜透析は、夜間に行うことで日中の行動制限を解除することができますが、衛生面での課題などがあります。また、透析ろ過を実施した場合の時間区分がないことから、時間区分を検討することなどが挙げられています。

② 安定冠動脈疾患に対して待機的に行う経皮的冠動脈インターベンションについて、術前の検査等による機能的虚血の確認を要件とする。

③ 漏性性角化症や軟性線維腫に対する凍結療法について、要件の明確化を行う。

④ 血行促進・皮膚保湿剤(ヘパリンナトリウム、ヘパリン類似物質)の使用実態等を踏まえ、保険給付の適正化の観点から、必要な対応を行う。
(5) 流動食のみを経管栄養法で提供する場合の入院時食事療養費(Ⅱ)について、自己負担額が費用の額を超えないように見直す。

以上が大まかな、「これまでの議論の整理」の中で私が気になるところを掲載しました。この内容を具体的に「短冊」の状況におこし、来週くらいに出てくるのではないかと思っています。

何度も言うようですが、小手先だけで診療報酬改定を乗り切ることはできなくなってきています。目先の「点数をどうとるか」ということも算定漏れをなくすという観点では重要になりますが、今後「地域の中で、どのような医療を提供していきたいのか」「そのために地域からどのような医療提供を望まれているのか」「そのために必要な人員配置等はどうなのか」ということをしっかりと見極め、対策を立てていってほしいと思います。

また、「結果が出ないものについては、報酬を支払わない」ということも明らかになっています。審査の自動化や記載事項の整理が行われる一方では、データの抽出、積み上げ、提出、精度の確保、などができない医療機関は容赦なく置いて行かれることになると思います。

さあ、事務職員の腕の見せ所です!!地域を支えるのは、皆さんの医療機関であり、介護事業所です。頑張っていきましょう!!

 

【参考資料】

中央社会保険医療協議会総会資料「これまでの議論の整理」

薬価制度の抜本改革について 骨子(案)

薬価制度の抜本改革について 骨子 別紙(案)

保険医療材料制度改革の骨子(案)

 

経営支援課

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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