【平成30年度診療報酬・介護報酬改定】介護老人福祉施設(特養)のこれから

長 幸美

アドバイザリー

今年は診療報酬・介護報酬の同時改定ということもあり、どたばたとしつつあっという間にもう蛍が儚い命を輝かせる頃となってきました。

 

さて、今回は介護保険の3施設の一つである「介護老人福祉施設」について見ていきましょう。前回の改定で、社会福祉法人の内部留保の問題が明らかになり、かなり厳しい改定で、財務状況が一気に悪化した特養さんも多かったともお聞きしています。

 

そもそも、「介護老人福祉施設」とはどのような役割があるのでしょうか?

 

介護老人福祉施設」は老人福祉法では、「特別養護老人ホーム」と呼ばれています。また、定員29人以下の小規模で運営される地域密着型介護老人福祉施設もあり、少人数の入所者に対して介護老人福祉施設と同様のサービスを提供します。

介護老人福祉施設では、「生活の場」と「手厚い介護サービス」を提供する施設です。つまり、寝たきりや認知症などで、常に介護が必要で自宅での生活が難しい方のための施設であり、入所によって、入浴・排せつ・食事などの介護、機能訓練、健康管理、療養上の世話などが受けられる、介護保険を利用した施設です。

対象者は「常時介護が必要で在宅生活が困難な方で、要介護3以上の認定を受けた方」とされています。(要介護1.2の方でも特例的に入所が認められている場合があります)

 

サービスの内容としては、

 ・食事・入浴・排せつなど日常生活上の介護

 ・リハビリテーションなどの機能訓練

 ・バイタルチェックなど日常の健康管理

 ・相談援助、レクレーション・・などがあります。

 

今回の改定、この「介護老人福祉施設」についても、このそもそもがいたるところに散りばめられています。そのことを頭に入れたところで、本題・・・今回の改定の内容を見ていきましょう。

 

改定の内容は以下のスライドの通り、18項目あります。

社会福祉法が昨年改定され、地域の生活に貢献すること求められています。

さらに、今回の改定では、「重度化予防」「多職種連携」「マネジメント」がキーワードの一つになっています。この三つの言葉については、とても重要です。

この重度化予防、多職種連携について多くの加算がついています。算定は簡単ではありません。それぞれにちょっと努力をしなければならないようなハードルが準備されています。けれど、その一つ一つは、この特養を運営していくうえではとても重要なものとなっています。

 

図1

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

今回、基本点数が若干のプラス改定になっています。

 

そのほか、大きな改定としては、「看取り」を行う施設として、また重症者を入所させる施設として、配置医師の負担軽減や実施していることへの配慮が見え隠れしています。

 

 一つは、配置医師緊急時対応加算です。

 

これは、配置医師が施設の求めに応じ、早朝・夜間又は深夜に施設を訪問して入所者の診療を行うことを評価したものです。これまでは夜間帯には配置医師への連絡を躊躇し、救急医療機関に搬送されることが多かったものです。

他の医療機関との連携により、24時間対応をすることや、看護体制加算(Ⅱ)を算定していることが条件となっています。

 

「夜勤職員配置加算」について、現行の要件に加えて、夜勤の時間帯を通して、看護職員を配置していること又は喀痰吸引等の実施ができる介護職員を配置していることが評価されることとなりました。この場合、喀痰吸引等事業者として都道府県の登録が必要となっています。

 

また、今回の改定で、特養は「看取りの施設」であることが明確化されたように思います。しかしながら、特養では看護職員の配置はあるものの、夜間は特に常時配置している特養は少ないと思います。介護職は不安がいっぱいです。そのような場合は訪問看護ステーションとの提携により対応が可能となりました。そうして看取りが可能な、重症者の対応が可能な特養になってほしいというメッセージを強く感じます。

 

図2

 

自立支援・重度化防止に資する介護を推進するために、外部のリハビリ専門職等との連携をする場合の評価を、生活機能向上連携加算という形で評価されました。

今回この「連携」という形が大きく評価されています。

 

図3

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

家に帰るためには、排せつの自立もとても重要です。仮に施設で生活するとしても、この「排泄」の問題はとても大きくなります。なぜならばおむつの交換はとても大変な介護作業だからです。介護を受ける本人も、「おむつの中で排泄する」ということがどれだけ心の重荷になるでしょうか?

 

できるだけ「おむつを外す努力をして下さるところ」そのようなリハビリを行う施設に対してついた評価が排せつ支援加算だと思います。月に100単位だとしても、この評価は大きな一歩だと感じています。

どうでしょうか? そうお思いになりませんか?

 

図4

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

寝たきりの利用者さまの褥瘡の発生を予防するため、褥瘡の発生と関連が強い項目について、定期的な評価に基づき計画的に管理することに対し新たな評価を設けられています。つまり、リスク管理をすることで「褥瘡を予防するための評価と計画、そしてその計画を実施すること」がとても大事になります。

 

また、入所者に対して、居宅・・・つまり、「在宅サービスを利用が必要」ではありますが、自宅での外泊を認め、そのサービスを利用した時に「560単位/日 6日間」算定を認めていこうということです。

 

図5

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

入所者の中で、重度の障害者をより多く受け入れている小規模な施設を評価するため障害者生活支援体制加算(Ⅱ)が新たに評価されました。今までの加算Ⅰに加え、障害者数の占める割合が50%以上、且つ、専ら障害者支援専門員 常勤2名以上の配置がある場合に、さらに高い加算がつけられています。

 

重度の知的障害者や精神障害者が高齢化してきたことに対する措置だと考えられます。

 

口から食事をすることに対しても、栄養指導や嚥下訓練等の評価が診療報酬でもついてきていますが、さらに、口腔衛生管理加算については、対象者を拡大する観点から、月2回以上で算定が可能になるように配慮されました。若干単位数は減っていますが、実施回数が減りましたので、算定できる方は増加するのではないかと思います。

地域の歯科クリニック様との連携が重要視されています。

 

栄養マネジメント加算については単位数に変更はありませんが、常勤の管理栄養士の配置が必要でしたが、同一敷地内の介護保険施設との兼務でも算定可能となりました。この栄養マネジメント加算は、低栄養リスク改善加算」「再入所時栄養連携加算の算定要件にもなっています。

 

低栄養リスク改善加算は、低栄養リスクが高いと判断された方に対し、多職種で協働し、入所者の栄養管理会議を開き、栄養ケア計画を策定します。それを入所者とその家族に説明・同意を得て、管理栄養士等が対象となる入所者の食事の状況を観察し、食べてもらうための食事・栄養調整等を行うことに対して評価が新たについたものです。

図6

 

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

再入所時栄養連携加算については、医療機関に入院治療後の再入所に際し、食事の状態が変更になっている可能性が高く、栄養管理が必要な方について、施設の栄養士が医療機関を訪問し、栄養ケア計画の原案を作成し、再入所した場合の評価が新設されたものです。

 

図7

 

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

働き方改革・介護職の負担軽減のための評価もついてきました。今回、見守りセンサー等の導入により、夜間職員配置加算の場合、夜勤の職員数を0.1名緩和しようというものです。今回の改定ではほんの少しの緩和になりましたが、今後この傾向は強くなってくる可能性はあるのかな、と考えています。

 

身体拘束についても適正化を図るとされ、以下の措置を講じなければならないとされました。これはかなり厳しいものだと思います。

 

図8

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

運営基準を見直し、委員会の開催をするとともに、身体拘束等の適正化のための研修会を実施すること、またその指針の整備、拘束を行った場合の解除するための状況をしっかりと記録しておくことが必要です。1日当たりの減算が5単位から10%/日減算とされましたので、これはしっかりと対応されることをおススメします。

 

運営会議の開催方法については、緩和されています。複数の事業所との合同開催も認められるようになりました。もちろん個人情報やプライバシーの保護に関しては、匿名化するなど、充分に配慮することが必要です。

 

もう一つ、療養食加算については、診療報酬と同様に「1食単位」での評価となりました。これも注意が必要ですね。

 

介護職員処遇改善加算の見直しについては、他の事業所と同様ですので、割愛しますが、キャリアアップへの取り組みを、医療介護ともに進めてほしいということでしょう。それぞれに必要なスキルアップを図り、キャリアアップに向けてやりがいをもってほしい。レベルアップをして、少ない人数でも工夫ができるようになってほしいという表れではないかと思います。これはぜひ上位加算を算定できるように努力していただきたいと思います。

 

図9

 

出典:社保審-介護給付費分科会 各サービス毎の改定事項についてより

 

介護職員の確保にとてもたくさんの労力を割き、それでもなかなか確保できない状況があると思います。しかし、この介護職員のキャリアアップなどを考えていかなければ、なかなか確保できない状況にもなってきています。そういった意味でも、「加算」がついているということの意味合いが分かってくるのではないでしょうか?

 

如何でしょうか?今回の改定で終わったわけではありません。

今回の改定は「序盤戦」だといわれています。生き残りをかけ、よりよいサービス提供ができるように、ぜひ次の改定に向けて「重度化予防」「多職種連携」「マネジメント」については、しっかりと見直し、今できていなくても取り組みを行うための方法を考えていくようにしましょう。

 

 

 

<参考資料>

〇平成30年度介護報酬改定における 各サービス毎の改定事項について

20.介護老人福祉施設・地域密着型 介護老人福祉施設入所者生活介護

http://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/life/310204_53255202_misc.pdf

 

 

 

 経営支援課

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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