【令和2年度診療報酬改定】調剤について
長 幸美
アドバイザリー調剤報酬は医療費全体に占める割合は、17.6%程度となっており、約7.5兆円です。
その内訳は、薬剤料が約5.5兆円、技術料が約1.9兆円となって意味明日。調剤報酬のみを見ると、ここ数年は横ばい状態です。
平成27年から医薬分業の在り方について、議論が繰り返されていましたが、その目的は、薬品の重複投薬・相互作用や残薬の確認をすることにより、患者の安全を確保していくことにあります。(もちろん財源の問題もありますが・・・)
そして、患者のための薬局ビジョンの策定とともに、「かかりつけ薬剤師・薬局」を推進され、文言としては、「対物業務から対人業務へ」という方向性の議論が進められ、前回の改定もその大きな流れの中で進められてきているのは、記憶に新しいと思います。
患者等のニーズに応じて強化・充実する機能として、「健康サポート機能」「高度薬学管理機能」が提示されてきましたが、昨年(令和元年)12月に改正・交付された「薬機法」の中で、現在の医薬分業について「政策誘導をした結果の形式的な分業であり、多くの薬剤師・薬局において、本来の機能を果たせていない」という指摘がなされ、さらに、現状の調剤薬局を「単純に薬剤の調製などの対物中心の業務を行うだけで業が成り立っており、多くの薬剤師・薬局が、患者や他の職種から意義を理解されていないという危機感がない」という指摘があり、「この際、院内調剤の評価を見直し、院内処方への回帰を考えるべきである」という非常に厳しい指摘があったことが、冒頭で述べられています。
私はこれまで、このような厳しい文言から始まる文章が改定説明会の冒頭にかかれていることはあまり記憶がなく、非常にびっくりいたしました。
こういった厳しい状況の中での、今回の改定であることを念頭に置きつつ、調剤薬局・保険薬剤師の皆さんは、業務の見直しを含め、何を求められているのか、ポジショニングを検討すべきではないかと思います。
このためだと思われますが、今回の改定はとても厳しいものになっていると思います。
いかに、かかりつけ機能等の地域のニーズに合わせ、サービスの提供を検討していくか・・・つまり、加算の算定ができる体制を作り、サービスの質を向上させることが必要となってきています。
それでは、内容を見ていきましょう。
【改定のポイント】
今回、かかりつけ機能の評価としては、重複投薬解消に対する取り組みは、かかりつけ薬剤師の役割、地域で暮らすことを支援する体制について見直しが行われています。
また、対物業務から対人業務への構造的な転換として、医療機関との情報共有や指導内容の報告、副作用の状況等を主治医に報告することなど、具体的に対人業務の評価を示されています。対物業務については評価の見直しとして、引き下げ等が行われています。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
【かかりつけ機能】
この「かかりつけ機能」について、調剤薬局や保険薬剤師に求められているところは、おひとりお一人の患者の、
① 処方内容をすべて把握し、
② 重複していないか、
③ きちんと服薬できているか、
④ 副作用等の困った事象は起きていないか
・・・ということを把握し、それぞれの医療機関と情報共有して適切な在宅での治療管理が行えるようにしてほしい・・・ということだと思います。
◆保険者は、現在、レセプトの情報により、患者(加入者)の服薬状況等を把握できますので、保険者ごと対応は違いますが、その情報を活用して「多剤・重複投与」等を抽出し、
①対象加入者に服薬情報を郵送し、医療機関や調剤薬局に持参するように指導する
②保険者の保健師が、対象加入者宅を訪問し指導する
といった取り組みを行っている保険者が徐々にではありますが、あらわれてきています。
次のスライドは、広島市の例です。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆服用薬剤調整支援料2 100点(3月に1回まで)
上記のような情報提供を受け、重複投薬等を解消する観点から、服薬情報を一元的に把握し、重複投薬の有無の確認を行ったうえで、処方委に重複投薬等の解消にかかる提案を行う取り組みについて、評価が新設されました。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆かかりつけ薬剤師指導料等の評価
会話のやり取りが他の患者に聞こえないようパーテーション等で区切られた独立したカウンターを有する等プライバシーに配慮していることを求められています。
◆薬剤服用歴管理指導料の評価
かかりつけ薬剤師は、担当患者に対して薬剤服用歴管理指導料にかかる業務を実施したうえで、患者の理解に応じた適切な服薬指導等を行うこととされています。
一定程度の残薬があるということが判断された場合、患者の残薬の状況等をお薬手帳に記載し、処方医に情報提供することを求めています。
◆同一の薬局の利用による重複投薬等の解消、かかりつけ薬剤師・薬局の推進患者が同一の薬局を繰り返し利用することについては、一元的な薬剤処方の把握を取ることができるため、「重複投薬」や「残薬」の解消が期待できるものと考えられています。
同一の薬局の利用イメージとしては、以下のスライドの通りです。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
同一薬局の利用促進を行うにあたっては、薬剤服用歴管理指導料の点数が低くなる規程について、再度の来局の期間を6か月から、「原則3月以内」に短縮するとともに対象を調剤基本料1以外にも拡大することとなりました。告示でご確認ください。
◆地域支援体制加算の見直しについて
令和2年度の改定については、実績要件について、調剤基本料1では要件を強化し、それ以外では一部の要件を緩和される措置が取られています。そのうえで、地域支援体制加算としては、3点増点となっています。
施設基準については次のスライドに整理されています。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
【対物業務から対人業務への構造的な転換】
かかりつけ機能のほかに、対人業務として、外来がん化学療法や喘息等の吸入の指導、調剤後の薬剤管理指導など、地域の中で暮らし続けることに対し、薬剤師としてのかかわりを深めていく対応を求められているように思います。具体例が示されていますので、見ていきましょう。
◆特定薬剤管理指導料2 100点(月1回)の新設
医療機関における質の高い「外来がん化学療法」への関与について、大病院で作成した
レジメンを基に連携先の病院やクリニックで化学療法を実施する場合など多くなると
思います。
レジメンは、皆さんご存知のことと思いますが、抗がん剤を実際投与する場合の計画書のことで、投与量や方法、吐き気などの副作用対策に使用する薬剤や、抗がん剤投与後の旧役期間なども計画書内に盛り込まれ、経時的に計画書が作成されます。
この内容を調剤薬局が把握したうえで、次回の診療時までの患者の状況を確認し、その結果を医療機関に情報提供することにより算定できます。
また、連携充実加算を届け出ている保険医療機関で化学療法を実施している必要もあり、地域の医療機関がどのような内容で治療を行っているかということを知ることも必要になってきます。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆薬剤服用歴管理指導料_吸入薬指導加算 30点(3月に1回まで)の新設
喘息の患者について、医師の求めなどに応じて、吸入薬の使用方法について、説明を加え、練習用吸入器を用いた実技指導を行い、その指導内容を医療機関に情報提供した場合の評価として、新設されました。
医療機関への情報提供はお薬手帳による情報提供でも差し支えないとされています。
(イメージ図)
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆薬剤服用歴管理指導料_調剤後薬剤管理指導加算 30点(月1回まで)の新設
「地域支援体制加算を届け出ている保険薬局」が対象となりますが、地域において医療機関と薬局が連携してインスリン等の糖尿病治療薬の適正使用を推進する観点から、医師の求めなどに応じて、調剤後も副作用の有無の確認や服薬指導等を行い、その結果を医師に情報提供した場合を想定し評価されたものです。
対象患者としては、インスリン製剤又はスルフォニル尿素系製剤を使用している糖尿病患者であって、新たにインスリン製剤が処方された者又はインスリン製剤等にかかる投薬内容の変更が行われた者、となっています。
<算定要件とイメージ図>
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆薬剤服用歴管理指導料の見直し
① 薬剤服用歴管理指導料の点数が低くなる規定について、再度の来局の期間を「原則6月以内」から「原則3月以内」に短縮
② 対象を調剤基本料2、調剤基本料3にも拡大
③ お薬手帳による医療機関への情報提供を推進する規定を要件に追加
④ 患者が普段利用する薬局の名称をお薬手帳に記載するよう患者に促す規定を追加
<薬剤服用歴管理指導料の区分等の見直しの全体像>
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
【調剤基本料の見直し】
いわゆる骨太の方針の中で、令和元年には、「調剤報酬について、2018年度診療報酬改定の影響の検証やかかりつけ機能の在り方の検討等を行いつつ、地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価や、対物業務から対人業務への構造的な転換の推進やこれに伴う所要の適正化等、2020年度診療報酬改定に向け検討する。その際、医療機関及び薬局における調剤の実態や報酬体系を踏まえ、調剤料などの技術料について、2018年度診療報酬改定の影響や薬剤師の業務の実態も含めた当該技術料の意義の検証を行いつつ適正な評価に向けた検討を行う、という説明があります。
◆調剤基本料の見直しとしては、以下の通りとなっています。
◆処方箋の集中率が著しく高い薬局の調剤基本料の見直しは以下の通りとなっています。ご確認をいただければと思います。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆いわゆる同一敷地内薬局等の調剤基本料の見直し
診療所との不動産取引の有無について病院敷地内の薬局等についても拡大し、さらに点数も引き下げとなっています。処方せん集中率は70%です。忠、不動産取引の関係は平成30年4月1日以降に開局したものに限るなど、経過措置は設けられています。
また、かかりつけ機能にかかる基本業務も見直されていますので、該当の調剤薬局はご注意ください。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料について
医師の求めにより、計画的な訪問薬剤管理指導の対象とはなっていない疾患等に対応するために緊急に患家に訪問し、必要な薬学的管理及び指導を行った場合について新たな評価が付きました。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆経管投薬支援料 100点(初回のみ)の新設
簡易懸濁法が必要な胃瘻もしくは腸瘻による経管投薬を行っている患者に対し、保険医の求めにより、簡易懸濁法による薬剤の服用に関して必要な支援を行って場合に算定が可能となります。
<具体的な支援内容>
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆オンライン服薬指導
薬機法の改正により、オンライン・・・つまり情報通信機器を用いた服薬指導を実施することが可能となります。これを「オンライン服薬指導」といいます。これは大きく2つに分けられます。
実施するには、薬剤師が実施すること、服薬指導計画を策定することなどの要件が設定されています。
オンライン服薬指導の場合、診療自体がオンライン診療を行っている場合に限られ、この情報をどのように把握していくのか、が問われることになると思います。
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆後発医薬品調剤体制加算について
後発医薬品の使用促進は進んできたものの、さらにその取り組みを進めていくため
に、減算規定の範囲の拡大(20%⇒40%)が行われています。
◆分割調剤時の取扱い
分割調剤が行われる場合、2回目以降に主治医に対し、服薬情報等提供下内容や残薬の
有無、残薬が生じている場合はその量と理由、副作用の有無、副作用が生じている場合
はその原因の可能性がある薬剤の推定…などを提供し、薬剤服薬歴の記録に記載を
求められています。
◆令和2年度改定のポイント
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
【地方厚生局への届け出と報告について】
いかに届出関連の記事を貼付しています。ぜひご確認いただきますようお願い致します。
◆施設基準の届け出
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆経過措置の取扱い
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆施設基準の届出における主な実績要件の取扱い
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
◆減算要件の取扱い
(出典:令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」より
以上です。詳細は、説明会資料及び告示をご覧ください。
今回の改定は調剤薬局及び保険薬剤師の皆さんにとっては、正念場ではないでしょうか?
細かな改定について、取れるか取れないかという議論も大事かもしれませんが、冒頭にも申しましたように、何を求められているのか、ポジショニングを決め、そのために何をなすべきかを考えていきましょう!!!
<参考資料>
〇令和2年度診療報酬改定説明会資料「調剤報酬」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000607237.pdf
※説明会の資料とともに、YouTubeもご覧ください!
〇厚労省:令和2年度診療報酬改定「告示」「通知」等
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00027.html
※佐々木総研では、令和2年度診療報酬改定の特設ページを設けて、診療報酬改定にかかる検討会資料等を検索しやすくしています。
こちらもぜひ合わせてご活用ください。
https://www.sasakigp.co.jp/ssk/topics/10013069
医業経営支援課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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