【医療介護あれこれ】在宅医療カレッジに参加して
長 幸美
アドバイザリー「0歳から100歳の在宅医療」を実践されている福井県のオレンジホームクリニックの紅谷先生の講演を聴かせていただき、感じたことが多かったので、皆さんにも共有したいと思います。
これは「地域包括ケアシステム」や「地域医療構想」がなぜ必要なのか、また、どう考えていったらいいのか。そして、コロナ禍において、地域医療の最前線で医療提供をされている先生方にも、ヒントになるのではないかと思いました。
また、前日は医療福祉連携フォーラムに参加し、その中で話されていたこと、「医療者として何ができるのか」「地域の中で支えていくには、福祉の視点が必要」ということでも共通して言えることだと思いますが、少し角度が違う視点からのお話は、気付きがたくさんありました。これからの地域を考えるうえでもキーワードがたくさんありました。
【変化する社会】
医療法や診療報酬改定の流れをひも解きつつ、現在の医療・介護・福祉が置かれている場面等を考えていきますと、数回の大きな転換期があったように思います。
今現在もCOVID-19の流行により、大きな転機を迎えているように思います。
■戦後の医療提供について
質というよりも、「医療提供の量的な確保」に重点が置かれ「生き延びる」ことがとても大事な時期。お産(生命の誕生)も死(病気や老いていく過程)も日常の生活の中で隣近所の方々の力を借りながら、いろいろな意味で生活の中にあったのだと思います。
私も、子供のころ、祖父母の家によく遊びに行っていましたが、具合が悪いといえば近所の方が来てくれたり、遠方から誰か来たといえば、卵の差し入れをもらったり、お花をあげたり・・・していたことを思い出します。
■医療の質を問われた時期
ある程度経済成長が進む中で、医療機関として的確な医療を提供し一定の効果を上げるためには、救急医療や外科的な処置を行い、病気と闘うこと、延命していくこと、平均寿命を延ばしていくことが重要だと思われていました。この時期には「長生きをすること」に焦点を当てられていた時期だと思います。医学の発展には欠かせない時期だったのではないかと思います。
また、病院でのお産や看取りも増えていきました。ある種のステータスだったのかもしれません。
■「地域包括ケア」は自分らしく生ききることの第一歩
団塊の世代が日本の発展を牽引し、貢献してこれだけの経済成長を遂げてきていると思います。それに伴い、国民のLIFEスタイルは大きく変わってきました。その方々が第一線を退いた後、自分らしく生ききること・・・幸せや生きがいを感じながら生きていくことを求められる時代になってきていると思います。
ではその中で、我々医療や介護・福祉の役割・・・何ができるのか、本質はどのようなものでしょうか? 医療や介護へのニーズは確実に変わってきています。
【ポジティブヘルスのコンセプト】
先ごろオリンピックに引き続き、パラリンピックが開催されました。
皆様、この大会をどのようにご覧になったでしょうか?
障害がある方を「かわいそう」とみる人もあったと思いますが、障害がある自分自身を受入れ、自分にできることを楽しんで行くというところ、ひたむきさに感動された方も多かったと思います。
その今大会のコンセプトである「多様性」が非常に良く表現されている開会式・閉会式には、多くの方が感動され可能性を感じられたのではないでしょうか?
■ポジティブヘルスの定義
ポジティブヘルスとはオランダ発の考え方で、「疾患や障害があっても、周りの力などを支えにして、気落ちすることなく、人生を前向きに生きていけること、その力こそが健康である」というとらえ方です。
つまり「正常に戻す(治療する)」ことから、「適応する能力を支援していく」ことへの転換を意味しています。
皆さんの周りを少し見渡してください。
「がん」になったら、その人でなくなるのでしょうか?
「認知症」になったら、その人でなくなるのでしょうか?
決してそうではありませんよね。がんになっても、認知症になっても、状況を受入れ、前向きに生きて輝いておられる方は沢山いらっしゃいます。
■健康とは何か?
世界保健機関(WHO)憲章(1948年発効)の前文には、
「健康とは、身体的、精神的、社会的にすべてが完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と記されています。
■五体満足=不健康=かわいそうな人・・・という誤解を解く
セミナーの中で、「障害は弱さではなく、苦手なところ」であり、できないことをちょっと手助けしてもらいながら、ちょっと工夫しながら生活できるチカラが大事なのだということを言われていました。とても印象的でした。
このことって「現実に向き合い、受け入れること」ですよね。
コミュニケーションを考えるときに、「自分自身のことを知る」ことが大事で、案外知らないことが多いものだということを認識することから始めるのですが、そこにつながっているように思います。
■幸福寿命という考え方
ポジティブヘルスの概念を考えたときに、「身体の状態」「心の状態」「生きがい」「暮らしの質」「社会とのつながり」「日常の機能」の6次元で構成される幅広い健康の概念であることがうたわれていて、幸せを感じるものに似ていると思いました。
この6つの中で、「生きがい」が入っているところが共感できます。自分自身の役割や居場所にもつながってきますよね。そして「自分自身が幸せだ」と感じられる一番強い要素なのではないかと思います。
【生活支援型の医療モデル】
前回改定でも「治す医療から、支える医療へ」というスローガン(?)が出てきて、かなり耳に馴染んできていると思います。では、その「支える医療」とは、どのような医療でしょうか? 少し考えてみたいと思います。
■地域包括ケアの縦と横
縦軸を医療・介護・福祉だととらえると、横軸は「地域の生活の場、生活し続けていくための仕掛け」ととらえることができる、とお話がありました。たしかに、医療・介護の連携をいくら進めていっても、生活は24時間ですから、医療や介護がかかわる時間はそのごく一部になります。大半を占める生活そのものを考えないとうまくは行きません。
■医療機関の外に出て見える景色は?
医療機関の中にいると、地域が見えない場合があります。
患者さんの退院支援を行う場合にぶつかる壁です。
入院中はできていたことが、退院後の家庭生活ではできない・・・ということがあります。
過去に勤務していた病院で、再入院される方の中で、
「トイレに行けない・・・ドアが開けられない、方向を変えることが難しい、スリッパがはけない」ということや、「お薬の服用を忘れる」、等がありました。食事の配食を利用している方が、おなかを壊して救急搬送されることも・・・前日の夕方の配食をそのままテーブルの上において、次の日の昼・夜と分けて食べたようでした。
入院中はトイレ誘導してもらい、できると思っていたけれど、家に帰ると、狭いし支えに出来るものもない・・・ということもあります。お薬も、入院中は配薬してもらい、飲み忘れが無いようにサポートしますよね。けれど、家族が、同じサポートができるでしょうか?老老介護や家族が働いていると、できないサポートもあります。
入院中お見舞いに来られていても、医療スタッフのサポートの様子が分からないこともあります。その調整が必要になってくるのだと思います。
こういったことは、「入退院支援」の中の「入院前の生活を知ること」や「入院中に生活の場を見に行く」ということが必要だといわれている所以ですよね。また、そうして退院したあとにフォローができるような仕組み(退院後訪問指導)が導入された理由でもあると思います。
■在宅での生活は「ご近所様」も重要
診療報酬改定の中で「時々入院、ほぼ在宅」という言葉がありました。
在宅での生活が続いていくと、何日もしゃべらない・・・というお年寄りの声も聴くことがあります。在宅生活は孤立しやすいものだなあということは、仕事をしている私でも、テレワークが始まって以来実感しています。
年を取ってくると、なおさら、何かきっかけがないと、地域の中に出ていかないものです。
「地域包括ケアはまちづくりだ」、といわれるのもこの辺りにあるのではないかと思います。
コロナ禍になり、さらにその傾向は強まっているのではないでしょうか?
昔のように「井戸端会議」をする姿があまり見られなくなっていて、ご近所様とのつながりも希薄になってきている現代では、つながりの仕掛けが必要になっているのかもしれません。
【まとめ~これからの地域医療~】
コロナ禍の中で、在宅療養の在り方が問われているような気がしています。
特に地方においては、「通院する」ということ自体が難しくなり、生活の場を移す決心をされる方も多いと思います。こういった中で、定期診療や相談等をオンライン診療に切り替える先生も出てきているようです。
オンライン診療は、高齢者相手には向かないのでは、という方もいらっしゃると思います。
私もそう思っていました。けれど、訪問リハビリの方が、「生活リハビリの一環」として支援されているケースもあるようですし、住宅型の施設では、施設職員がiPadを操作しているケースもあるようです。工夫のしようはあるのかもしれません。
また、オンラインカンファレンスはもっと取り入れたらいいのにな、と思います。
医療機関によっては、病院の職員がクリニックや介護事業所、患者宅に出向き、または実施したことがない介護事業所に出向き、セッティングの支援をしているということもお聞きします。やってみると意外にイイナ・・・と思われることもあるのではないでしょうか?
このように、医療だからここまで、という線引きは少し変わってきているのかもしれません。
皆さんが地域を考える、地域の中での立ち位置を考えるための一助になると嬉しく思います。患者さんの状況、提供できる医療、やりたい支援は何か、そのことは患者や地域のためになっているか・・・皆さんで考えてみましょう!
医業コンサル課
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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