診療に介護の視点が必要な理由

長 幸美

医業経営支援

先日、あるクリニックの方から、「医療機関なのになぜ介護保険ことをしないといけないんですか?」と聞かれました。同じころ、私がかかわっている大学の学生からも、「介護保険って病院に関係あるんですか?」と聞かれました。
そうか・・・医療と介護は別物・・・そのような理解がまだまだあるのですね。それは医療提供には必要がないと思っていらっしゃるから・・・。

クリニックの先生の中には、「介護保険には興味はないから」「介護保険はわからない」という方も少なからずいらっしゃいます。高齢者の医療を考える中では、患者という前に「生活をしている人」「高齢になってくると支援を必要としている人が増えてくる」という視点が必要なのですが、医療者の中には「治す」こと、「治療する」ことがまだ主流なのだな、と感じました。
そこで、今回は地域医療構想や地域包括ケアシステムの実現を考えていく上で大事な視点の一つである「介護」の視点をお話していきたいと思います。

■介護保険とは・・・
皆さん40歳になると、「介護保険料」を納めるようになりますね。私も初めてお給料から天引きされた時には、「あ~とうとうそんな年になったか!!」と思ったものです。

介護保険は、少子高齢化や核家族化が進む社会情勢の中で、高齢者の介護を社会全体で支えあう仕組みとして、2000年に介護保険法が施行されました。基本的な考え方としては、①自立支援、②利用者本位、③社会保険方式を採用した仕組みが作られたわけです。

① 自立支援
これは単に介護を要する高齢者の身の回りのお世話をするだけではなく、高齢者がその地域の中で自立した生活を行うための介護支援を行うということが理念とされています。自立した生活というのは、何もかも一人で暮らせるように、ということではなく、「個」の尊厳を尊重した生活ができるように支援することです。
② 利用者本位
これは利用者自らの選択により、多様な保健医療サービスや福祉サービスを総合的に受けられる制度にしよう、ということです。つまり、利用者本人や家族が自宅での生活を希望した場合は自宅で生活できるように支援し、やはり施設で生活したいという場合には施設に生活の場を移すことができることです。在宅での生活では、要介護状態により介護保険サービスが利用できる上限額が決められていますので、その中で、どのサービスが必要かを利用者や家族とともに考えていくことも必要になります。
③ 社会保険方式というのは、介護保険自体の財源確保の仕組みで、被保険者の保険料と税金などから成り立つ仕組みのことです。医療保険も同じですね。

つまり、本人があれこれと望んでも、「生活の中で生活していくために必要な支援は何か」もっと言うと、「どんな支援をしたら、本人が望み通りの場所で生活を続けていけるか」ということを見極めて計画(ケアプラン)を立てて利用していく仕組みになっているということです。

■何故、介護保険のことを医療機関が知っておかなければならないのか?
これは二つの理由があると思います。
ひとつは要介護認定を受けるときには、客観的に医学的な視点で「加齢による要介護状態であり、疾病や治療の状況で医学的な意見を求める」ということが必要になります。つまり、本人や家族の考えだけではなく、医学的に介護が必要だということを証明するような意味合いがあると思います。これが「主治医意見書」です。
介護認定審査会では、本人や家族の申し出だけではなく、主治医の意見と認定調査員が訪問調査を行い、その結果を複合して認定を行うことになっています。

ふたつめは、生活は終わりがない・・・つまり24時間365日生活は続いていくわけです。医療だからここまで、介護のことは知りませんといわれては、生活者は困ってしまうわけです。生活の中で治療的な側面があったり、介護する中でも医療者にアドバイスもらったり、継続的に支援する必要が出てきます。入院手術などをしない限り、生活と医療を切り離していくことはできないわけです。最近では、「入退院支援」と言って、入院前の生活を把握し、退院後の生活に向けて支援する必要があるという考え方が注目されるようになってきました。

さらに、要介護者への訪問看護サービスは介護保険がベースになってくるということになります。これも、生活を支えていくため、健康管理や日常的な看護及び介護者への指導と考えると、介護保険の基本的な考え方①「自立支援」の考え方が「生活を支える医療」だと考えています。つまり、「介護のことを知らない」では、生活の支援はできないということになってきますね。

■訪問看護とリハビリは主治医の指示が必要
医療機関に入院されている患者様については、先生はカルテに診察の内容を記載し、病棟の看護師に指示を出されると思います。訪問看護やリハビリの指示については、同じ医療機関の職員であれば、カルテに状況を記載し、指示を出すことができますが、外部の訪問看護ステーションに対して訪問看護をお願いする場合は、カルテを見てもらうこともできませんから、文書で指示を出すことになります。
これが「訪問看護指示書」です。

先生によっては、「勝手が違って面倒だなあ」といわれる先生もいらっしゃいますが、考えてみてください。その患者さんは、訪問看護師にとって初対面の場合が多いでしょう。どのような病気で、どんな治療をしていて、何を注意して処置してほしいか、健康管理をしてほしいか、ということはお伝えしないとわかりませんよね。

■訪問看護ステーションに訪問リハを依頼したいときは?
正確に言うと、訪問リハビリテーションは医師が所属しているPT/OT/STに対し指示し、治療計画をもとに実施していくことが必要になります。しかしながら、訪問看護ステーションでも、PT/OT/STが訪問しリハビリテーションを提供していますね。これはリハビリではないのか???と思われる方も多いと思います。

訪問看護ステーションには医師は所属していませんので、医療専門職(PT/OT/ST)が、訪問看護の一環としてリハビリを提供するということになります。
従って、訪問看護を看護職員以外が行う・・・ということに対し、訪問看護指示書の中に留意事項及び指示事項」として、1日あたりの時間や週何回実施するかということを記載する必要が出てきました。「訪問看護指示書」の赤枠の部分になります。

医業コンサル課 長幸美

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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