注射の算定について
長 幸美
医業経営支援今回は医療行為の中で、「注射」の算定についてみていきたいと思います。クリニックのレセプトを見ていて、手技料の算定誤りなど、時々見受けられますので、ここでおさらいしておきましょう。
注射とは・・・?
注射針を用いて、直接体内に薬剤を注入する投与方法のことです。効果の発現が早く、安定しているのが特徴であるとされています。
注射の種類は、針を刺す位置により、注射の手技料が異なります。
皮内注射 (ID) | 表皮と真皮の間に針を刺す。主に検査に用いられることが多い。 ※ツベルクリン反応、アレルギー反応試験など |
皮下注射 (SC) | 皮膚と筋肉の間にある皮下組織に針を刺して、薬液を注入する。 ※インスリン注射やインフルエンザのワクチンなど |
筋肉注射 (IM) | 筋肉に針を刺して薬液を注入する。 ※新型コロナウイルスワクチン、ブスコパンなど |
静脈注射 (IV) | 静脈に針を刺し、薬液を注入する。救急時の緊急処置に使われる場合がある。 |
点滴注射 (DIV) | 静脈注射の中で、大量の薬剤を注入する場合、点滴回路を使用して緩徐に注入する 場合等に利用。1日量を合算して判断する。 |
中心静脈注射 (IVH) | 鎖骨下や鼠径部等のの太い血管から、カテーテルを挿入し、薬液を点滴する。 高濃度の栄養輸液を中心静脈から投与することを「中心静脈栄養(TPN)」 という。 |
動脈注射 (IA) | 動脈に直接針を刺し、薬液を注入する。 抗がん剤の化学療法など、特殊な治療(選択的化学療法)に使用する。 |
注射はどんな時に行うのか?
注射の実施については、療養担当規則の中で、以下のように記載されています。
療養担当規則第20条第4項
- 注射は経口投与をすることができないとき、又は経口投与によっては治療の効果を期待することができないとき等に行う。
(保険医療機関及び保険医療養担当規則より)
- 輸血又は電解質若しくは血液代用剤の補液は、必要があると認められる場合に行う。
つまり、経口投与できる場合は、経口投与を第一選択とし、注射を実施する場合は、①経口投与では治療の効果が期待できない場合、②特に迅速な治療効果を期待する場合、に行うということが投薬や注射の基本的なルールとして定められていることは理解しておきましょう。
特に、外来患者さんの場合など、レセプトにコメントが必要な場合があります。
注射の通則
注射に係る費用は、
第1節注射料 + 第2節薬剤料 + 第3節特定保険医療材料料(※)、を合算し算定します。
(※)別に厚生労働大臣が定める特定保険医療材料に関しては算定ができますので、ご確認ください。
生物学的製剤注射加算(+15点) | 生物学的製剤注射を行った場合 |
精密持続点滴注射加算(+80点) | 精密持続点滴注射を行った場合 自動輸液ポンプを用いて1時間に30mL 以下の速度で体内 (皮下を含む。)又は注射回路に薬剤を注入した場合 |
麻薬注射加算(+5点) | 麻薬を使用した場合 |
イ 外来化学療法加算1 (1) 15歳未満の患者の場合 670点 (2) 15歳以上の患者の場合 450点 ロ 外来化学療法加算2 (1) 15歳未満の患者の場合 640点 (2) 15歳以上の患者の場合 370点 | 施設基準の届出必要 区分番号G001に掲げる静脈内注射、 G002に掲げる動脈注射、 G004に掲げる点滴注射、 G005に掲げる中心静脈注射 G006に掲げる植込型カテーテルによる中心静脈注射 について治療の開始に当たり注射の必要性、危険性等について 文書により説明を行った上で化学療法を行った場合は、 当該基準に係る区分に従い、次に掲げる点数を、それぞれ 1日につき前各号により算定した点数に加算する。 |
バイオ後続品導入初期加算 (+150点)(月1回) | バイオ後続品に係る説明を行い、バイオ後続品を使用した 場合、当該バイオ後続品の初回の使用日の属する月から 起算して3月を限度とする。 |
静脈注射と点滴注射の違いは?
ひとことで言うと、薬剤の量の違いです。
静脈注射の場合は、注射器に接続した針で直接腕などの静脈に注入します。このため、単品で、比較的量が少ない場合(50ml程度まで)が多いです。「ワンショット」と表現される場合もあります。
点滴注射の場合は、点滴回路を使用し静脈内に注射針を留置し、比較的大量の薬液をゆっくりと落としていきます。翼状針や留置針を利用する場合もあります。場所は腕などの末梢の静脈を利用することが多く、薬液の1日総量が500ml以上の場合と、それ未満の場合で算定点数が変わります。
点滴注射の場合、「重症」であること、「緊急に対処が必要」であること、「栄養や水分の補給が必要」であることなどで、食事がとれない状況があり全身の状態が芳しくない状況が考えられます。点滴注射が長期化し、末梢静脈からの点滴が難しくなった場合など、中心静脈注射を導入する場合があります。
中心静脈注射の適応は?
中心静脈注射とは、鎖骨や首、鼠径部(太ももの付け根)にある太い血管に、カテーテルを挿入・留置し、薬液を点滴する方法です。中心静脈という太い血管では、血液量が多く、血液の流れも速い為、高濃度・高カロリーの輸液を投与することが出来ます。高濃度の栄養輸液を中心静脈から投与することを、中心静脈栄養(TPN)といいます。
中心静脈(鎖骨下、鼠径部など)に挿入する場合は、カテーテルの挿入手技料(1400点)が算定できます。日々の薬液注入の点数(140点)もありますので、注意が必要です。
中心静脈注射の場合は、血管のトラブル(痛みや炎症)などが少ないといわれています。
ここで紹介したもののほか、末梢留置型中心静脈注射もあります。末梢静脈から中心静脈でカテーテルを挿入する場合もありますので、どこから挿入しているか確認する必要があります。
中心静脈注射の適応としては、①長期間(1週間以上)食事ができない場合、②末梢静脈からの点滴が難しくなった場合、③長期間の抗がん剤治療を行う場合、等が考えられます。
長期栄養目的管理の場合は説明と同意が必要です。また、カテーテル挿入時の局所麻酔の手技料は算定できませんが、使用した局所麻酔剤は算定できます。カテーテルのつまり等によりカテーテル交換する場合は、挿入の手技料やカテーテルの材料料は算定できますので、算定漏れがないようにしましょう。
「注射」算定のポイント
注射の算定については、カルテを見て手技を把握する必要があります。ほとんどの場合、略語で書かれているので、見落とさないようにしましょう。
また、静脈注射(IV)と書いてある場合は、薬剤の量(1日分合算する)や点滴回路の使用を確認し、手技料の誤請求をしないようにしましょう。
6歳未満の乳幼児の場合、「乳幼児加算」の算定や点滴注射の算定できる量が100ml以上になるなど、成人の場合と算定ルールも違いますので、注意が必要です。
その他、特殊な注射(※)についてもそれぞれに算定できるものがありますので、診療報酬点数表で確認をしましょう。
(※)動脈注射(内蔵の場合155点、その他の場合45点)や肝動脈塞栓を伴う悪性腫瘍剤冠動脈内注入(165点)、腱鞘内注射、関節空内注射、骨髄内注射、気管内注入、眼科領域では片目ごとの注射など、があります。算定に当たってはそれぞれの留意事項がありますので、診療報酬点数表で確認するようにしてください。適切に請求するようにしていきましょう!
<参考資料>
〇診療点数早見表_「第6部注射」 (医学通信社、社会保険研究所)
〇厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和4年厚生労働省告示第54号別表第1)」 (185p~)
〇厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)( 令和4年3月4日)保医発0304第1号」(405p~)
2023年5月15日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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