検査及び画像診断の査定対策~2回目の画像診断は算定できない?~
長 幸美
医業経営支援検査や画像診断の査定が増えているようで、「2回目の画像診断はできないんですか?」というような質問をいただくことがあります。そもそも検査や画像診断はどのような時に実施するのでしょうか?
目次
検査や画像診断の目的は・・・?
先ずは、保険診療の基本的なルールである「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の中では検査や画像診断についてどのような位置づけになっているのか、見ていきましょう。
保険医療機関及び保険医療養担当規則
(診療の一般的方針)
第十二条 保険医の診療は、一般に医師又は歯科医師として診療の必要があると認められる疾病又は負傷に対して、適確な診断をもととし、患者の健康の保持増進上妥当適切に行われなければならない。(診療の具体的方針)
第二十条 医師である保険医の診療の具体的方針は、前十二条の規定によるほか、次に掲げるところによるものとする。
一 診察
イ 診察は、特に患者の職業上及び環境上の特性等を顧慮して行う。
ロ 診察を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならない。
ただし、緊急やむを得ない場合については、この限りではない。
ハ 健康診断は、療養の給付の対象として行つてはならない
ニ 往診は、診療上必要があると認められる場合に行う。
ホ 各種の検査は、診療上必要があると認められる場合に行う。
ヘ ホによるほか、各種の検査は、研究の目的をもつて行つてはならない。
ただし、治験に係る検査については、この限りでない。(以下省略)
厚生労働省令第15
このように、療養担当規則によると、診療にあたっては、的確な診断を行う必要があり、検査や画像診断はその診療において必要があると認められる場合に行うこと・・・とされています。
つまり、保険診療上、検査や画像診断は、「診断」や「治療選択」のために行うものと解されます。
実際の診療では?
ここで医師の診療の手順を見ておきましょう。
一般的に診療前に患者さんには「問診表」を書いてもらい、今日の受診目的や、その症状がいつから起こったのか、など記載してもらうと思います。いわゆる症状の自己申告です。今ではWeb問診などを活用したり、看護師さんが事前に話をきいたりされている医療機関も多くみられます。
その後、医師の「診察」になるわけですが、ここでは、「問診票」を参考にしつつ、視診・触診・打診・聴診等医師の五感を活用して患者さんの状態を確認し、確定診断のための「検査や画像診断」を行うわけです。そして、その検査や画像診断の結果の説明とともに、「確定診断」を伝えて、どのような治療があるのか説明し、患者さんの同意を得て、治療が開始されます。
2回目の検査・画像診断って何のため?
2回目の検査や画像診断を行うにあたっては、様々な理由が考えられます。
例えば、骨折の場合だと、手術や徒手整復、そしてギプス装着などによる安静などにより損傷している部位の骨接合等を促します。その際は患部は絶対安静、負荷をかけるのは禁止です。そして、その後損傷部位の接合状況を画像診断で確認して、負荷をかけたリハビリや次の治療を進めていくのですね。
内科の例でいうと、健康診断などで糖尿病が疑われた場合、確定診断のための検査や病期や合併症の有無を診断するために、負荷試験や腎機能の検査、眼底カメラなどで眼症状がないか精査します。そして食事療養や運動療養等の生活習慣指導をしつつ、投薬療法を開始されると思います。その後は治療効果の判定や副作用(薬剤を使用するため)、合併症の進行度合いを検査しながら、その検査結果により、治療内容を変えていくわけです。徐々に悪化することが予測される疾患については、定期的な検査等により、重度化を防止することも大事ですね。
いずれの場合も、1回目は診断のため、2回目は治療方針の変更(選択)のためですね。
薬剤の使用に制限がある場合もある
薬剤自体に使用する際に検査数値等を見て慎重に投与する必要があるものがあります。これは経過観察や別の問題がないかどうかの精査になります。
これは薬剤選択の際に添付文書等で確認するようにされるとよいと思います。
査定されないようにするためにどうしたらいい?
これをすれば絶対査定されない!というような特効薬はないというのが悩ましいところですが、いくつか査定対策のポイントを整理しておきましょう。
病名を精査・整理する
「病名を見直して整理しましょう!」というと、やたらとお薬や検査・画像診断のために病名をつけたがる事務職員がいらっしゃいます。単に病名をつけておけばよいというものでもありません。
例えば、糖尿病や高血圧症の患者さんで、年1回心電図や胸写、ヘモグロビンA1cをとるときに、毎回「慢性心不全疑い」「糖尿病疑い」という病名をつけているという医療機関もあります。こういった場合、レセプト病名を疑われると査定されることがあります。病名があるからいいというわけでもないのです。レセプトを見ると「狭心症」や「心肥大」、「肥満」の方など、別の関連する理由があり、レセプトの病名で診療内容が説明できない場合は、コメント等で補うようにされたほうが良いでしょう。
医療機関のご相談を受けていると、初診時にありとあらゆるスクリーニング検査を実施し、片っ端から疑い病名をつけていたところ、「保険診療として不適切ではないか」「健康診断は保険診療では認められません」とコメント付きで返戻された事例が複数確認されています。
別の医療機関では1回の採血で、ありとあらゆる関連する精密検査を実施したところ「手順を追って必要最小限の検査をお願いします」と付記されて査定されていた事例もあります。ご注意ください。
レセプト記載要領を確認する
点数表の中に、項目ごとに検査の実施日や検査数値など、算定するためのルールが記載されています。これらの記載項目については、記載がなければ、返戻対象になりますので、レセコンの機能やレセプトチェッカーを活用してレセプト提出前に記載漏れがないかどうか確認されることをお勧めします。
電子カルテでワーニングが出る仕組みもあるようですが、先生方の診療中のストレスを考えると、月末にひと手間かけるほうが確実で、スムーズではないかと思います。
病名及びコメントはコード入力で!
病名もコメントコードも入力内容が指定されています。これはレセプト審査がシステム化されているためで、厚労省コードがついているものでないと審査ではじかれてしまいますので、注意しましょう。
返戻されているケースもあります。
査定内容を精査し、対策を立てる
完璧なレセプトを作ろうと思っても、なかなか難しいものです。請求期間の短い中ですべての項目を詳細に見ていくことはできないというのが現状でしょう。日常業務を見直し、「病名漏れ」のチェックができるようし、月末に集中して漏れやすい項目を見直す、というような仕組みを作ることが大事だと思います。そのような課題を解決していくために、システム・・・つまり、レセコンのチェック機能やレセプトチェッカーを活用するのも一つの手だと思います。レセプトチェッカーは病名漏れや診療報酬点数表上のルールに基づいて、チェックしてくれます。システム上、縦覧点検や回数制限がある検査等のエラーも引っ掛かってくれます。月中に薬剤や検査等の病名漏れをチェックするのは、とても有効だと思いますし、月末の業務を分散させることもできます。医療機関ごとにチェック内容をカスタマイズすることもできますので、工夫することにより、より制度の高く効率的なチェックができるようになると思います。
しかし、レセプトチェッカ―だけではできないこともあります。
レセプトチェッカー導入し、チェックに従って病名をつけるようにしたところ逆に査定が増えてきたという事例も少ないですがあります。つけた病名がレセプト病名と判断されたことと、その病名により、禁忌投与・慎重投与に該当してしまい、査定されたと考えられます。
算定項目の重複や査定傾向にあるものの抽出、入院・外来にまたがった算定、他医療機関との兼ね合い、途中で確定診断がついた場合など、1か月たってみないとわからない項目もありますので、月末のレセプト点検作業がゼロになることはないでしょう。
また、査定の内容は、皆さんの医療機関で見落としがちなところが多いと思いますので、請求スキルアップの良い題材になると思います。チェックリスト等を活用して、集中的に点検することも有効だと思います。
医療機関の基本的な診療内容を学ぶ!
医療機関の事務スタッフに「先生方や看護師さん・コメディカルの皆さんが実施されている医療行為を見たことありますか?と聞くと、ほとんどの方が、「知らない」「見たことありません」とお答えになります。私は「知らない」ではいけないのではないかと思っています。
先生方をはじめとする医療職の方々は、その資格においてプロです。それをすべてマスターしなさいということを言っているわけではありません。
そんなことできっこないのです。
でも、そんなプロの医療職の方々は、「診療報酬」のプロではありません。
プロではないということは、いくら電子カルテを入れたからと言っても、請求漏れや誤請求が起こってくるということです。正しく請求を起こすためには、診療報酬のルールを熟知したプロの目で、診療費の計算やレセプトを見る必要があります。患者さんの診療手順、かかわる人(職種)、どんな疾患が多くて、どんな治療を行うか・・・基本的なことを知っていることもとても大事です。
そして、医療も、診療報酬請求もどんどん変化しています。
変化に対応していくためには継続的な学びが必要ですね。
まとめ
さて、冒頭の質問に戻りましょう。
「2回目の画像診断はできないんですか?」という質問です。
答えは、撮影されるのには何ら問題はありません。
ただし、請求するにあたっては、撮影の目的によって査定される場合があるので、注意が必要だ、ということになります。
検査・画像診断は、原則「診断」と「治療選択」のため行う場合に保険請求すると考えると、単に何回も検査・画像診断したからと言って算定できるとは限らないかもしれません。しかし、今日みてきたように先生方が検査や画像診断をされるにはその理由があると思います。病名だけで判断できない場合は、コメント等をつけられたほうが良い例が多いものです。その判断をしていくにはどういった流れで診療を行っているか、また、保険診療のルールはもちろん、医学の基礎知識もあったほうが良い場合もあります。論点がずれたコメントをつけても意味がありませんから・・・
これからも頑張っていきましょう!
<参考資料>
■診療報酬点数表/厚生労働省(保医発0304第3号令和4年3月4日)
診療報酬の算定方法の一部を改正する件(20230517確認)
⇒第3部検査(136p~)、第4部画像診断(174p~)
■厚生労働省(厚生省令第十五号):保険医療機関及び保険医療養担当規則 (20230517確認)
2023年6月20日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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