接遇レッスン「医療機関のお悩み~コミュニケーション編~」

長 幸美

医療介護あれこれ

医療機関の先生方から「コマッタちゃん」のご相談を受けることがあります。例えば・・・
・仲間外れにされている・・・いじめられているという訴え
・○○さんに否定された、認めてくれない・・・という訴え
・メモを取らない新人
・できないことを責める先輩
・注意するとすぐに機嫌が悪くなる(顔色を変える職員)
・寝起きが悪いのか、    etc.

さて・・・皆様の医療機関では如何でしょうか?そんなお悩みありませんか?
こんなお悩みどう対処していけばよいのでしょうか???

コミュニケーションの基本

医療機関で働く中では、職場内の円滑なコミュニケーションは非常に重要です。
何と言っても医療は「ヒト」の産業だからです。医療の安全にも大きくかかわってきます。
しかし、時には思い通りにいかないことや、ストレス・プレッシャーがかかり、感情が高ぶることもあると思います。そのような時のポイントをいくつか紹介していきたいと思います。

相手の立場を理解する

医療機関では(・・・それ以外の産業でも一緒かもしれませんが・・・)、様々な立場の人々が仕事をしています。現代は多様性の時代でもあり、様々な価値観を持った方がいらっしゃいます。相手の仕事や立場を理解し、お互いに尊重しあい、協力しあうことがとても大切になってきます。

得手・不得手も違います。生まれも育ちも・・・そして、これまでの経験も違うわけです。
自分とは違うことを認め、相手を尊重すること、そして感謝する気持ちがなければ、良好な人間関係は築くことはできません。

コミュニケーションスキルを磨く

適切なコミュニケーションスキルは、職場での円滑な関係構築に不可欠です。感謝の意を表す、適切なフィードバックを提供するなど、言葉の選び方や声のトーンに気を付けましょう。

その昔、苦労して通信機養育を終えようやく資格認定試験の合格をしたとき、それを伝えた同僚がにこりともせず「おめでとう、よかったね」といったときの違和感を思い出します。言葉では「おめでとう」と言いながら、その声のトーンや表情で、なんだか悪いことを言ったような、居心地が悪い感じを受けたのです。

感情のコントロール

医療機関ではストレスがかかりやすい環境です。それはそうですよね・・・私たちが日常的に応対しないといけない患者さんは、「負」のエネルギーでいっぱいです。風邪を引いたときや体調が悪い時のあなた自身を思い出してください。具合が悪い時は「このまま治らなかったらどうしよう」と不安になる経験はありませんか?
それだけに、医療機関の職員である私たちが、感情的になったり、イライラしたり、不満を感じた場合でも、冷静に対処することが大切です。本当に相手に言わないといけないことなのか?ということを考えてみてください。相手の立場や状況を考慮した上で、適切な対応を心掛けましょう。

そして、私たちの仕事は「第三者」・・・つまり仕事(作業)の先には「患者さん」がいらっしゃることは忘れてはいけません。

コンフリクトの解決

時折、対立やコンフリクトが発生することもあります。コンフリクトとは、対立や衝突などを意味しています。異なる意見や要求などがぶつかり、緊張状態にあることをコンフリクトと言います。
しかし、そのようなコンフリクトな状況にある場合も、感情的な対応ではなく、冷静かつ解決志向の態度を心がけることが大切です。話し合いの場を設け、問題を解決する手段を見つけましょう。

そもそも、コンフリクトの状態になった場合は、「主語」が違う場合や、立場の違いで見ている景色が違う場合があります。「主語が違う場合」とは、自分自身の利益や都合で考えているために意見の食い違いが起こる場合があるのです。本来の「ファクト」が何か、自分自身の感情に左右されない職務上の立場で話をする必要があります。

注意をすることは「あなた自身」を否定しているわけではない

先輩方は、自分と同じ失敗を後輩に経験させたくないと思っています。
誰しも、いくつかの苦い経験があります。それは、診療報酬上のミスかもしれないし、患者さんとのトラブルかもしれません。医師や上司との関係から生じた不愉快な経験かもしれません。
いずれにせよ、私自身も、過去の苦い経験を繰り返させて苦しい思いをさせたくないと思い、つまずいている状況を見てアドバイスし励ますために自分自身の失敗談を話することがあります。また、やってしまった失敗を注意し、改善を促すこともあります。

しかし、それはあなた自身を否定するものではありません。

とはいえ、状況によっては、「全否定」・・・つまり、私自身の人格も否定されたと感じる場合があるかもしれません。例えば「あなたなんかいなければいいのに」や「また?何度言ったらわかるの?できない人ねえ!」「~~と言いましたよね!」というようなことを繰り返される場合です。執拗に失敗したことを取り上げ存在を否定されるような場合、すぐに上司や人事部門に相談しましょう。自身の感情(どのように感じたのか)を適切に伝え、解決に向けてサポートを受けることが重要です。

職場でのストレスや精神的な負担を感じたら、医療機関が提供する心理的なサポートを活用しましょう。専門家の協力を得ることで、問題をクリアにする手助けになります。

事例をもとに考えてみましょう!

「ヒト」は感情の動物といわれているように、感情が絡んだ問題はこじれてしまってからでは遅いものです。その方のパーソナリティにもよりますし、ポジティブ思考の方かネガティブ思考の方かにも影響されます。体調面や睡眠不足等の身体的な面も大きく影響します。その中で考えられるいくつかのポイントを事例により、対応方法を少し考えてみましょう!

事例1:チームメンバーからの全否定感を持ち、孤立している事例

あるスタッフが、「仕事の協力を得られない」ことや「自分自身への評価の低さ」「仕事のミス」から、仕事の手助けをしてもらえないのは、自分自身の存在を否定されている・・・と思い込み、手伝ってもらえない部門への不満を周りや院長に言い立て、「何もしれくれない」「あの人と仕事をするのは嫌」・・・とエスカレートしていくような事例です。

あの人をとるか私をとるか・・・という状況にまでこじれてしまうと、どちらかが退職せざるを得なくなり、どうしようもなくなります。こうなる前に、慎重に対応する必要があります。

対応方法としては、双方のスタッフと個別に会い、状況を確認します。
例えば、相手が「看護師」と「事務」や「検査等の担当者」では仕事の性質が違います。患者さんへの対応の密度も責任も変わります。その違いを理解せずに、「私の利益」が主になってきているために起こっているトラブルが多いのです。このため「適当にうまくやってよ」ということが伝わりません。

このような場合は、「医療機関の理念」に則り、正しい考えで対応方法を検討することが必要になってきます。いわゆる「クレド」です。

クレド(Credo)とは、ラテン語で「志」「約束」「信条」を意味する言葉で、「医療機関全体の従業員が心掛けるべき信条や行動指針を明文化したもの」を指します。 クレドは、従業員の個人的な目標とは異なり、医療機関全体に共有されるものです。医療機関でこのような場合はこうしましょう。というものを作り、「ベクトルを合わせていく」ことが必要になってくるのです。その中では、お互いの時間の流れや業務量を理解することも必要になります。

事例2:部下の失敗に対し、上司が感情的に失敗を責めるような事例

これは、何らかのトラブル(失敗、ミス)があった場合に、上司が感情的になり、適切でないフィードバックが行われた場合です。例えば、失敗を感情的に怒鳴るような場合を指しています。
それだけではなく、失敗を起こさないために、想定以上のルールを決め、がんじがらめにしてしまうこともあるようです。つまり、マニュアルの中に、「もしこういう場合は・・・」というイレギュラー対応まで盛り込んでいき、「ここに書いてあるのに何故やらないの?」「失格だわ」「何度も言っているのに!」「役に立たないわね!」というような事例です。

あなた自身、そういう言われ方をすると、息がつまってしまう・・・と思いませんか?

マニュアルには、「最低限実施しなければならないこと」を記載し、それ以外の場合はイレギュラー対応だから確認して頂戴ね・・・と説明すると、案外うまくいくことも多いのではないでしょうか。
ほとんどの作業に関しては、片手で数える程度に整理できます。そのくらいシンプルな工程に整理しておくと、仕事を覚える場合も教える場合も簡単ですよね。そのくらいシンプルなマニュアルだと、マニュアルの活用も増えるかもしれません。

また、教えてもらう側も、謙虚にならなければなりません。
いくら他の医療機関で10数年の経験があったとしても、医療機関が変われば、先生の考え方も変わりますし、使用している電カルやレセコン等のシステムも違います。あとから入ってきたものとしては、教えていただく、という気持ちが大事になります。まして、未経験の方であれば尚更です。

事例3:研修の活用

事例1、事例2ともに、進めていく過程で、「研修」を活用するのも一つの手です。

例えば、事例1の場合、クリニックの方針や理念を掲げるのは「院長」など経営幹部だと思いますが、その「理念」に基づいて、どのような行動を起こしていくか(行動指針)・・・ということはスタッフが意見交換しながら考えていくのが良いと思います。
自分たちの医療機関ですから、自分たちで決めたことであれば、行動に起こしやすいですよね。

また、事例2であれば、作成したマニュアルをもとに、業務の評価や必要な基礎知識等を研修というカタチで伝えていくと効果的です。ある医療機関では習得度合いを測るためのチェックリストとして活用されています。1on1ミーティングなどで活用されているようです。

まとめ

医療機関でのコミュニケーションは、患者の安全と職員の幸福に直結しています。
また、職員のやる気スイッチにも、モチベーションにも影響してきます。つまり、医療機関のパフォーマンスを左右されることでもあり、ひいては患者さんの満足度にも影響が出てくると思います。

医療はサービス業であるといわれています。そこで働く人が健全で安心できる環境で、コミュニケーションが取れていないと、患者さんへ安心・安全の医療提供はできません。これを機会に皆さんの対応をちょっとだけ見直してみては如何でしょうか?

2023年12月11日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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