Q&Aより/教えて!集団的個別指導って何ですか?
長 幸美
医療介護あれこれある医療機関(クリニック)の院長から、「集団指導の案内が来たんだけど、これなに?」と聞かれました。コロナ禍になり、eラーニングでの集団指導が一般的になってきましたが、「指導」と聞いただけで先生方はどっきり!
今日は、この集団指導と個別指導のお話をしたいと思います。
目次
なぜ指導を受けなけれなならないか?
保険医療機関は、健康保険法等に基づく、保険者と保険医療機関との間の公法上の契約です。
保険医療機関、保険医は健康保険法等で規定されている保険診療のルール(契約の内容)に従って、療養の給付及び費用の請求を行う必要があります。保険医療機関の指定、保険医の登録は、医療保険各法等で規定されている保険診療のルールを熟知していることが前提になっており、これらの関係法令等を知らないことは許されず、行政処分を受けることになりかねません。
保険診療として診療報酬を請求するためには、次の6つを遵守していかなければなりません。
これを「保険診療の基本的ルール」といいます。
①保険医が
厚生労働省/保険請求の理解のために(令和5年度版)より
②保険医療機関において
③保険各法、医師法、医療法、医薬品医療機器等法等の各種関係法令の規定を遵守し
④『保険医療機関及び保険医療養担当規則』の規定に基づき
⑤医学的に妥当適切な診療を行い
⑥診療報酬点数表に定められた請求を行っていること。
このため、健康保険法等に基づき、保険診療の質的向上と適正化を目的として、指導・監査が行われることになります。
指導・監査の対象は?
全ての保険医療機関、及び保険医が対象となります。
「指導」の形態について
指導には、集団指導、集団的個別指導、及び個別指導があります。
集団指導、集団的個別指導は、文字通り、複数の医療機関が一定の場所に集められ、講義形式で保険診療の注意事項などを学ぶ場です。
個別指導は、診療についての保険請求が適切かどうかを確認し、保険診療のルールを周知徹底するために行われる医療機関や保険医への指導です。
このほか、新規に保険医療機関の指定を受けた場合、1年以内に適切に取り扱われているかどうか、を確認され、もし適切な医療提供や管理が行われていない場合、早期に是正するためのもの(新規個別指導)があります。
健康保険法第73条、国民健康法第41条などにおいて、医療機関や保険医はこの指導を受ける義務があることが定められています。詳細については指導大綱、指導大綱実施要領等に定められています。
集団的個別指導
今回質問があった集団的個別指導ですが、これは保険医療機関の機能や診療科等を考慮したえで、特に1件当たりの平均点数が高い保険医療機関に対し、正しく保険診療を理解するための指導が行われるもので、講義形式で行われます。
診療科や医療機能により、標準的な診療報酬がある程度わかりますので、その点数よりも1人のレセプト点数の平均がかなり高いとなると、過剰請求や適切な保険診療が行えていないのではないか・・・つまり「保険診療の基本的ルール」が守られていないのではないかと考えられるわけです。
集団的個別指導は、呼び出しのための「通知」が郵送されます。その封筒をもっていき参加証明となるわけですが、コロナ禍以降、eラーニングを活用し、Webで行われることが多いようです。
受講しなかった場合は、個別指導に切り替えられることもありますので、必ず受講するようにしましょう。
保険診療の理解のために
集団的個別指導の内容は、「保険診療の理解のために」というものが、毎年厚労省からだされていて、この内容を地方厚生局の方が説明する形で行われます。
保険医療機関や保険医の責務、主な法令について、そして「医療保険制度」について理解を深めるとともに、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の中の禁止事項や遵守すべき事項、留意事項について具体的な説明が行われます。
保険請求に関して、事務職員だけではなく、保険医である先生方も、熟知している必要があり、「知らなかった」というようなことがないようにしなければなりません。
集団的個別指導の対象は?
レセプト1件当たりの平均点数が次の都道府県の平均点数の一定割合を超えるものとされています。
・ 医科病院の場合は1.1倍
・ 医科診療所、歯科病院及び歯科診療所、薬局の場合は1.2倍
・・・かつ、
・ 前年度及び前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた保険医療機関等を除き、類型区分ごとの保険医療機関等の総数の上位より概ね8%の範囲のものが対象となる。
よくわかりませんよね。毎年地方厚生局から診療科別平均点数の一覧表が出されます。参考までに九州厚生局の令和5年度の診療科別平均点数一覧表を添付します。県ごとにありますので、該当する箇所をご確認ください。
※九州厚生局管内の令和5年度診療科別平均点数一覧表はこちらからご確認ください。
類型区分とは、病院であれば、①一般病院、②精神病院、③臨床研修指定病院・大学附属病院・特定機能病院の3つに区分されています。歯科や薬局の場合はそれぞれが1区分とされています。
診療所の場合は下記の通り、12区分に分けられています。
① 内科(下記②、③の区分に該当するものを除き、呼吸器科、消化器科(胃腸科を含む。)、
厚生労働省/集団的個別指導及び個別指導の選定の概要についてより
循環器科、アレルギー科、リウマチ科を含む。)
② 内科(下記③の区分に該当するものを除き、在宅療養支援診療所に係る届出を行ってい
るもの。)
③ 内科(主として人工透析を行うもの(内科以外で、主として人工透析を行うものを含む。))
④ 精神・神経科(神経内科、心療内科を含む。)
⑤ 小児科
⑥ 外科(呼吸器外科、心臓血管外科、脳神経外科、小児外科、こう門科、麻酔科を含む。)
⑦ 整形外科(理学療法科、リハビリテーション科、放射線科を含む。)
⑧ 皮膚科(形成外科、美容外科を含む。)
⑨ 泌尿器科(性病科を含む。)
⑩ 産婦人科(産科、婦人科を含む。)
⑪ 眼科
⑫ 耳鼻いんこう科(気管食道科を含む。)
参考までに~個別指導とは?
今回「集団的個別指導」についての質問だったのですが、最後に個別指導との違いをご理解いただくために個別指導についても少しふれておきたいと思います。
個別指導とは、診療報酬請求等に関する情報提供があった場合、個別指導を実施したが改善が見られない場合、集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関等に該当(※)する場合等に、保険医療機関等を一定の場所に集める等して個別面談方式により行う指導である。
厚生労働省/集団的個別指導及び個別指導の選定の概要についてより
また、個別指導の実施件数については、医科、歯科及び薬局ごとの類型区分ごとに全保険医療機関等の4%程度を実施することとしている。
※ 高点数保険医療機関等に該当する保険医療機関等とは、翌年度の実績において、集団的個別指導を
受けたグループ内の保険医療機関等の数の上位より概ね半数以上である保険医療機関等を指す。
つまり、審査側からの情報提供・・・査定や返戻等により何も対応せず、引き続き算定し続けている場合、若しくは、審査側からの情報提供~つまり「こんな算定をしている医療機関です」という情報提供により、個別指導を行われます。つまり一定の情報を持ち、その情報が正当かどうかを調べる形で行われることがあるわけです。
現在、電子カルテの医療機関が増えていると思います。電子カルテの場合、あとから追加で書き込みや修正を行うことも、ログとして残していくことが求められていますので・・・つまり記録の不備をあとから追記・修正することになり、その情報が電子カルテ上残ることになりますので、不正を疑われることになります。「~~しているつもりだった」「そんなつもりはない」ということでは、不実記載や不正請求を疑われることになり、返還や指導対象にもなりますから要注意です。
個別指導の結果
個別指導では結果が文書により通知されます。
①概ね妥当
②経過観察
診療報酬の請求に適性を欠く部分があったものの、軽微であり、担当者等の理解も得られており改善が期待できるものとされています。改善が見られない場合は、「再指導」となります。
③再指導
診療内容や診療報酬の請求に対し、適正を欠く部分が認められ、再指導を行わなければ改善状況が判断できないと考えられるものとされています。また、患者から受領状況等の聴取が必要と考えられた場合は、患者調査が実施され、その結果をもとに不当や不正が確認された場合は「監査要綱」をもとに監査されることになります。
④要監査
指導の結果「監査要件」に該当すると判断した場合は、監査に移行する場合があります。
まとめ
新型コロナウイルス感染症が5類になったことにより、社会活動にも様々に動きが出てきています。
指導監査についても、集合研修の形式での集団的個別指導が、eラーニングのカタチに変化し実施されてきました。
これを機会に、「集団的個別指導」については、保険診療の基礎を学ぶ良い機会だととらえていただき、事務職員さんも一緒に受講していただけたらと思います。よい学びになりますよ!
<参考資料>(確認日/令和5年9月21日)
■厚生労働省/保険診療における指導・監査
〇集団指導用資料_保険診療の理解のために:医科(令和5年度版)、スライド資料
〇関係法令等_指導監査の根拠規定、指導大綱・監査要綱、指導監査の流れ、
集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について
2023年9月21日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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