令和6年度診療報酬改定~基本方針について~

長 幸美

医療介護あれこれ

令和5年12月11日社会保障審議会(医療部会、医療保険部会)において、令和6年度診療報酬改定の基本方針が決定され、公開されました。今回はトリプル改定(医療・介護・障害のそれぞれが改定される)の年になります。また、2025年に向けた地域医療構想を目前に控えた年でもあり、注目が高まっているところです。今日は基本方針についてみていきましょう。

出典:厚生労働省/令和6年度診療報酬報酬改定の基本方針(R5.12.11掲載)

基本認識

今回の特徴は、この改定に当たっての基本認識の中に「物価高騰、賃金上昇」という言葉が入ったことではないでしょうか?

コロナ禍において、人の動きも経済の動きも変わってきているように思います。
最近では、物価高騰は収まる気配もなく水道光熱費も食材も上昇を続けています。また、働き手不足により苦戦されている医療機関も増えているように思います。今後、2040年に向けて、さらに働き手が不足することも予測され、さらに高まる医療・介護の需要に対しどのように対応していくのか、少ない人員で、これまで以上のパフォーマンスを上げていくために、どのように考えていくのか、ということが、この短い文章の中に、含まれていると思います。

また、これまでの改定同様に、基本的視点は4つ。視点1の「人材確保と働き方改革」が重点課題とされました。具体的内容を見ていくとともに、皆様の医療機関にあてはめ、読み込んでいただけたらと思います。

重点課題は「人材確保と働き方改革」

コロナ禍以来、人材の確保は皆様の医療機関でもご苦労されているのではないでしょうか?人が集まらない、このままだと医療機関を閉めないといけない・・・とお悩みの声もちらほらお聞きします。

介護業界では一足先に「ヒトが集まらない問題」があり、「介護職員の処遇改善」を加算として支援して介護職員の給料を上げようという動きがありました。診療報酬でも前回の改定から看護師の処遇改善・・・という観点での加算が付いたことは記憶に新しいと思います。

さらに、令和6年4月からは医師の時間外労働の規制が本格的に始まります。これまでも「勤務環境改善」に向けた取り組みとして、病棟薬剤師の配置や医師事務作業補助者の配置、等をはじめとする「タスクシフト/タスクシェアリング」について議論があり、それぞれの医療機関も取り組みを進めてこられたところだと思います。次の改定では、これに「賃上げ」という言葉が入っています。勤務時間を短縮し、お給料を上げるのか?とかなり矛盾を感じる方もおられるかと思いますが、実現するためには、役割分担や医療DXの活用が不可欠になるのではないか・・・と考えられているようでして、審議会の内容を見ていてもあちらこちらで、ICTの活用や医療DXを活用した情報共有や遠隔診療が出てきます。「苦手」と逃げてばかりはいられない・・・と感じています。

視点2「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの進化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」

2025年は団塊の世代がすべて後期高齢者になる年として、地域医療構想などの目標とされてきました。しかし、実際に医療や介護の需要がぐんと高まってくるのは80歳を超えたころからだといわれています。つまり団塊の世代ジュニアが高齢者の仲間入りをする2040年の方が大変なのではないか?ということが話題になってきているのです。

どういうことかというと・・・
地域包括ケアシステムの在り方です。高齢者の救急が増すことが予測され、それに伴って高齢者の一次救急・二次救急の受入れは地域包括ケア病床や慢性期病床・そして有床診療所がもっと積極的に受け入れてほしいと思われいているようです。そのために必要な機能分化と在宅医療の提供について、積極的な受け入れと情報共有・・・つまり連携でのDXを用い推進していくことが必要だと考え、具体的なモデル事業としての報告がされています。このあたりは変更点に上がってくるのではないかと予測できます。

また、リハビリテーションの在り方や、かかりつけ医機能について、議論されていることも多く、無床診療所においても、影響が大きいのではないかと考えられます。

一つは、在宅やリハビリテーションをはじめ、「提供する医療の質」の評価についてかなり議論の遡上に上がってきています。その取りかかりとして外来や在宅の医療機能について報告制度が本格的に走り出します。また、外来紹介重点医療機関の公表も行われ、医療機能として「紹介重点医療機関」に該当しない中小規模の病院(200床未満)及び診療所については、「かかりつけ医機能」を提供するものと「専門医療機関」の医療機能を明確に分けていくことを念頭においているように見えます。このあたりの判断はクリニックにとっては非常に影響が大きいのではないかと懸念しております。

また、新興感染症等の対応についても然りです。質の高い在宅医療・看護の提供とともに、今後慎重に見ていきたいと思っています。

視点3「安心・安全で質の高い医療の推進」

この項目の中で、食事療養費について議論が進められています。つまり、「食材費や水道光熱費をはじめとする物価高騰」を踏まえた対応について意見が出されているのです。食事療養費については26年間見直しが行われておらず、ほとんどの医療機関で給食部門は赤字であり、給食業者も提供困難な事態に陥っていることを踏まえ検討が進められています。また、介護の食事療養費との負担の差を踏まえ、統一する意味合いでも検討が重ねられているようです。診療報酬改定においては、1食当たり30円程度増額とすることが検討されていて、1~3月においては、補正予算において1食20円程度の助成を検討されていますが、4~5月に関しては、各県の地域医療介護総合確保基金において実施するなど、まだまだ不透明な部分が多いので、今後注目していく点だと思います。

また、「安心・安全で質の高い医療」というところも意識していただきたいと思います。
例えば、リハビリテーションの場合だと、「口腔機能」や「栄養」というところの影響が大きいと考えられています。このために、特に回復期リハビリテーション病棟では、一体的に提供できることが重要視されているようです。また、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧症)については、算定できる診療報酬の項目ごとにフォローアップの状況等が分析され、議論の遡上に挙げられています。内科系の診療所を中心にどのような内容になるかは注目すべき点だと感じています。

視点4「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」

4番目の視点は、毎回改定のたびに出てきていることです。簡単に言うと「国民皆保険制度を維持していくために、医薬品費をはじめ医療費の適正化を図っていこう」というような内容です。少子高齢化が進む中で、どのように医療保険制度を維持していくか・・・ということですね。

ここでは、後発医薬品の安定供給の話が出てきています。療養担当規則でも「後発医薬品の適正使用」について規定があり、患者の経済的な面も考慮し、選択できるように検討する・・・というやんわりとした文言が入ってきています。しかし、現在後発医薬品の供給が滞り安定的な供給ができていない・・・つまり、薬品が入ってこないことへの対策をどのようにしていくか、ということも議論の一つになってきているようです。

また、前回改定で出てきた「プログラム医療機器」についても「禁煙」に加えて「高血圧」治療について、アプリの導入(処方)が承認・拡大されていますが、各メーカ―においても、研究開発が進んできている分野です。今後も様々な在宅療養や医学管理について、導入されてくることが予測されています。

つまり、もう「パソコンは苦手だから」「知らない」ということでは済まされない事態になりつつあるということは意識しておくことが必要だと思います。これこそが「医療DX」の真骨頂ではないかと思っています。

まとめ

今回の改定は、医療・介護・障害のトリプル改定であること、そして2025年の地域医療構想に向かい最後の改定であることが、大きく影響してくるのではないかと思っています。

皆さんもご存じの通り、2024年から勤務医の時間外労働の規制が本格的にスタートし、今後勤務医の労働時間短縮に向けた取り組みは継続していく必要があります。これは勤務医の心身の健康を確保することを目指すものですが、同時に「地域医療の確保」・・・つまり、医療提供の維持・確保も検討していかなければなりません。矛盾しているように見えますが、どちらも成り立つように医療機関は管理していく必要があります。実現するためには、医師から多職種へのタスクシフト・タスクシェアリングが重要になります。と同時に、多職種への負担偏重が懸念されますので、各医療機関で業務の洗い出しと「そもそも・・・」というところに照し合せ、人員の配置や業務量を検討するべきでしょう。

他のサービス・・・つまり介護サービスや障害(福祉)サービスとの連携や支援強化については、とても重要になってくるでしょう。地域の住民の生活を考えると、介護や障害(福祉)との連携は大切です。そのために外来の機能分化として、かかりつけ医機能(かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能も同様)を明確に打ち出すことが必要ではないでしょうか?先生方の「そもそも診療所としてどのような医療提供をしたいのか(理念)」「(理念)実現のために何を実行するのか」ということを、医療機関の皆さんともう一度考えられるのが良いのではないかと思います。

そして医療DXです。「いや~苦手なんだよな~」ということは許されなくなってきているように思います。国は工程表の中で、令和6年度中に診療所向けの電子カルテをリリースすることを目標に掲げています。全国医療情報プラットフォームを実現させるためには、標準マスタを搭載したシステム開発がカギになるからだと思います。医学管理や在宅医療にもアプリが導入されてきているところを考慮すると、「知らない」では済まされないように思います。

今回の診療報酬改定に向けて、この基本方針や視点を見ていただき、自院の状況を見直してみましょう!

<参考資料> ※R5.12.13厚労省ホームページにて確認

■令和6年度診療報酬改定の基本方針(令和5年度12月11日掲載)
 基本方針(概要版)はこちら
 令和6年度診療報酬改定の基本方針(本文PDF)はこちら

2023年12月18日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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