医療接遇の意義~誰のための接遇ですか?~
長 幸美
医療介護あれこれある医療機関さまから接遇研修の依頼がありました。コロナ禍以降、マスク下での接遇や、本当に患者さまのために動くことができているか?という院長先生からのご相談が増えてきました。今回、ご相談をいただいた先生も、患者さま本位の医療提供ができているか、悩まれてのご相談だったようです。
今、目の前の患者さまのために何ができるか、医療人として考えながら、一手先を読んで行動してほしい・・・と思われていたようです。
そこで、「接遇の5原則」のお話しとともに、患者の立場や「思い」について、皆さんと一緒に考える時間をとり、「話をきく」時の態度で、話をする本人だけでなく、周りからどんな印象を持たれるのか、コミュニケ―ションをとるときのポイントなどをお話しさせていただきました。
目次
医療機関を選ぶ
まず、読者の皆さんは、医療機関を選ぶとき、何を基準に選んでおられるでしょうJか?
日本は幸いにも、「国民皆保険制度」「フリーアクセス」により、保険証を持参することにより、日本国中どの医療機関でも、一定の自己負担金を支払えば、標準的な医療を受けることができます。
しかも、どの医療機関を選ぶかは、患者さまやご家族さまが自由に選ぶことができます。
患者動向調査の結果
30年前・・・「神の手」といわれるスーパードクターに診療してほしい・・・という思いが強く、大病院の有名な先生に患者さまが殺到し、予約が取れない、なかなか見てもらえない、という現象が起き、「3時間待ちの3分診療」という言葉が流行していました。素晴らしい技術を持つお医者様に患者さんが殺到し、有名どころの先生や、その先生が所属する大病院で診療してもらうことがステータスにもなっていた時代です。何よりも重視されるのは、「○○総合病院・大学病院」や「○○教授」などの有名な先生に診療してもらうことが自慢でもありました。
10~15年前頃・・・お医者さんよりも、日常的に会話する看護師や医療専門職、受付の対応の良さが注目され始め、さらには、24時間365日診療をしてもらえる・・・つまり急な時にいつでも診療してもらえる医療機関、というものが注目され始めました。
コンビニエンスストアのように、いつでも診療してもらえる医療機関が選ばれるようになってきたのです。その結果、緊急以外の患者も、夜間帯に受診し、夜の方が待ち時間が少なくて済む・・・という患者で二次救急の医療機関は疲弊していく・・・ということが社会問題になったこともあります。
では、最近の動向調査はどうでしょうか?
令和6年度診療報酬改定の協議の中で、「かかりつけ医に何を求めるか?」「外来の医療機能分化」などを議論するための動向調査が行われ、その結果が審議会の中で出てきていました。
結果は、「(子供の)発作が起こった時の対処法などを教えてほしい」「お金のことやこれからのこと、身体のことを相談したい」「家族のことなども相談したい」「話を聴いてほしい」など、まさしく、厚労省や日本医師会が提唱している「かかりつけ医機能」を求められている結果となっているようです。
医療機関が実施した患者アンケート調査
最近では、様々な医療機関がアンケート調査の結果をホームページ等で公表されています。その内容を見ていても、医療機関に求められているものはかなり変わってきているように思います。
「待ち時間」については、以前のように3時間待ってでもこの先生に診察してほしい・・・という患者さまは減ってしまい、6割以上の方が、「待ち時間がつらい」と考えられています。予約診療を望む声も高まってきています。
また、職員に対する要望も多く寄せられており、コロナ禍でマスク生活による「聞こえづらさ」や「高齢者対応」についても厳しいご意見が寄せられています。なかには、「待合室で大きな声で病名を言わないでほしい」「名前を呼ばないでほしい」「早口で何を言っているかわからない」「手術・処置や検査中の笑い声や私語が気になった」というご意見もあります。
コロナ禍以降の受診者数
皆様の医療機関では、コロナ禍前を100%としたときに、現在の来院患者数はどのように推移されているでしょうJか?
「若干少ないなあ・・・95%くらいにはなってきたけれど・・・」
「9割程度にしか戻ってないなあ・・・」
というお声が多く寄せられています。私が住んでいる周辺の方も、「これまでは病院の先生から「薬を飲みなさい、リハビリしなさい」といわれていたから、行った方がいいと思っていたけれど、行かなくても、あまり変わらなかった・・・」「1か月分お薬をもらえたから楽だった」と、受診回数が減っている方が多くおられます。お子さんや高齢者がおられるお宅では、「予約診療ができる医療機関にかかりつけを変えた・・・」という方も・・・。皆さんの医療機関ではどうでしょうか?
医療接遇の意義
そもそも、「医療機関を利用しよう」と思うときは、どのような状態の時でしょうか?
その時、あなたは、医療機関のスタッフにどんなことを求めますか?
研修会で、医療機関の職員の皆さんに「もし自分だったら・・・」とお聴きすると・・・
「具合が悪いから、早く診察してほしい、楽にしてほしい」
「どんな検査をするのか、悪い病気ではないか不安」
「料金がいくらかかるのか、仕事が続けられるのか不安」
「入院・手術といわれたら、家族の生活はどうしよう・・・と思う」
と、以前急な病気や事故で病院に行った時の不安なことなどをお話ししてくださいます。
その時、どんなことをしてほしいでしょうか?
私だったら、「寄り添って話を聴いてほしい」と思いますし、「検査や診療の結果や見込みなどは、わかるように話をしてほしい」「どのくらい待つのか教えてほしい」と思います。
接遇の基本
接遇は、「あなたは、かけがえのないこの世で一人しかいない大事な人」であるということを態度で示し相手に伝えるスキルであると思います。接遇には「接遇の基本5原則」というものがありますが、どれか一つ欠けてもうまく伝わりません。
接遇5原則は、①表情(笑顔)、②身だしなみ ③挨拶、④言葉遣い、⑤態度、です。
また、医療事故の約8割はコミュニケーションエラーであるとも言われています。
仕事の上でも、患者さまとの関係でも、プライベートな関係でも、大事なことは、「安心・安全」であり、コミュニケーションはその根本を支える大切なものだと思います。
皆さん、親御さんや子供さん、ご主人であっても、あなたが考えていることがすべて伝わっていますか? 逆に、子供さんやご主人が今何を考えておられるか、お隣さんが何をしようとしているか、同僚が考えていることが、すべて理解できていますか?
おそらく・・・できないですよね。伝える力、理解しようとする力、居心地が良い場づくり、そして話をしてもらいやすい雰囲気を作るのも、接遇ではとても大切なことなのです。
第一印象
私の研修を受けたある先生から「あなたの接遇は、自分をよく見せようとしているだけではないか?」といわれたことがあります。
「メラビアンの法則」から、第一印象の重要性や「笑顔」が大事だ・・・ということをお話しした時にご指摘がありました。また、「敬語の使い方を学べば、接遇はよくなるのか?」といわれたこともあります。仕事をするうえでは、自分をよく見せようとするよりも、役割に応じ、ちょっと話を聴いてみようかな、と思ってもらうことの方がとても大事です。
では、頭髪がぼさぼさで、よれよれのユニフォームを着た事務員さん、にこりともしない先生、忙しそうに走り回っている看護師さんに、「この人に相談したい」「きいてみよう!」と思うでしょうか?
・・・と考えると、医療機関での接遇がとても大事なことがご理解いただけるのではないかと思います。
接遇5原則
接遇の5原則の中でも、私が大事にしているのは、「聴く」ということです。
聴く・・・つまり「十四の心の耳で聴く」ということを心がけてほしいと思います。
「ながら聞き」では話す人は、聞いてくれていない・・・とモヤモヤします。
「問い詰めるように訊く」と、人は話をしたくない・・・と心を閉ざします。
相手に興味を持ち、心を傾けて聴くことは、コミュニケーションをとるうえで、とても重要だと思うのです。
参考までに「接遇の5原則」を簡単に記載しますね。
①表情・・・柔らかい表情で
②身だしなみ・・・仕事上の役割を表すもの、清潔感を意識する
③挨拶・・・相手を認める、変化に気付く
④言葉遣い・・・相手を尊重していることを示すのが敬語、気遣いを込める(クッション言葉)
⑤態度(立ち居振る舞い)・・・聴く、話す(声)、居方、案内、など
終わりに
医療機関では、身体の調子が悪いという「負」のイメージで、しかも不安を持った方が大勢いらっしゃいます。「不安」「恐怖」を感じておられる方もあるでしょう。そして、一刻も早くこの「具合が悪い状態」から助け出してほしい!と願っておられます。しかし、医療機関では、患者さんが多いし、皆さんに公平にしたいという思いとともに、「患者さんが多いんだから仕方ないじゃない」「そんなに要望ばかり無理よ!」と思うスタッフもあるかもしれません。この「患者さまの要望」と「現実」のギャップが生じてくると、クレームが生じてきます。「医療機関の当たり前」は時として自己中心的な考えに陥ってしまうことにもなりかねません。適切な説明や情報提供ができるように「コミュニケーション力」を高めていくことは、医療機関にとってとても大事になってきますね。それは、職員同士のコミュニケーションでも同様です。
2024年2月22日
著者紹介
- 医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント
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