令和6年度診療報酬改定「在宅における栄養管理」~在宅患者訪問栄養食事指導の推進~

長 幸美

医療介護あれこれ

令和6年度の診療報酬改定においては「寝たきりにさせない」という取り組みが注目されているように思います。少子高齢化が進み、少ない人員で医療提供していくということは、その中の一つが、「訪問栄養食事指導の推進」にあるのではないでしょうか。

在宅で医療ケアを受けながら生活をされている方にとって、切っても切れないのが「食事」です。
この為、介護報酬でも「栄養」や「口から食べる」というところに対する支援について、様々に評価がついてきています。急性期をはじめとする「入院医療」でも、食べるということに関する支援は様々に評価されていますので、この「口から食べる」ことへの支援の重要性は、皆様も感じておられるところかと思います。

(出典:日本栄養士会ホームぺージ「「令和6年度診療報酬改定に伴う日本栄養士会からの情報」より)

在宅患者訪問栄養食事指導とは・・・?

読んで字のごとく、「在宅に管理栄養士が訪問して療養上必要な栄養や食事の管理及び指導を行うもの」ということになり、これは、診療報酬でも点数がついておりますし、同時に介護保険でも「管理栄養士が行う居宅療養管理指導料」として評価されています。

算定要件「C009_在宅患者訪問栄養食事指導料」

通院が困難な患者で、食事について特別な管理が必要だと判断される患者であり、医師の指示が必要です。1回の食事指導が30分以上である場合に算定が可能です。算定回数は、月2回までとされています。

指導の内容は、
 ①患者の生活条件
 ②嗜好等を勘案した食品構成に基づく食事計画案又は具体的な献立等を示した栄養食事指導箋の交付  
 ③当該指導箋に従い、食事の用意や摂取等に関する具体的な指導を 30 分以上行う
ということが求められています。

対象患者

在宅で療養を行っている患者であって、疾病・負傷のために通院による療養が困難な者であって、担当する保険医が治療の為の「特別食」を提供することが必要であると認めた患者又は、以下のいずれかに該当する患者が対象になります。
 ア がん患者
 イ 摂食機能又は嚥下機能が低下した患者
   ※ただし、医師が硬さ、付着性、凝集性等に配慮した嚥下調整食(日本摂食嚥下リハビリテー
    ション学会の分類に基づく)に相当する食事を要すると判断したもの
 ウ 低栄養状態にある患者で次のいずれかを満たすもの
   ①血中アルブミン3.0/dL以下である患者
   ②医師が栄養管理により低栄養状態の改善を要すると判断した患者

如何でしょうか? 
先生方の患者さんの中で多くの「訪問診療を必要とする患者」が該当するのではないでしょうか?
訪問診療を必要としないまでも、高齢者の多くは食事を作るのがおっくうになったり、食が細くなったりして低栄養状態にあると判断される患者さんが多いのではないかと思います。

治療の為に必要な「特別食」については、点数表の別表第3「外来栄養食事指導料、入院栄養食事指導料、集団栄養食事指導料及び在宅患者訪問栄養食事指導料に規定する特別食」をご覧ください。

何故、「食べること」への評価が高まっているのか?

先日、母が被殻出血のために入院し手術を受けました。その入院の際に「低栄養状態」であることを指摘されました。母は我が家の中でも、大食漢で「食べる」ということには執着しています。
この為「何故?」という思いの方が先に立ったのですが、管理栄養士さんと話をしていて、「好き嫌い」があり偏食がちであること、義歯が外れやすく柔らかいものばかり食べていること、そして炭水化物と甘いものが極端に多くなっていたことがわかってきたのです。

入院後、左半身に麻痺があり、咀嚼・嚥下機能も低下していることから、さらに栄養のバランスや必要栄養をどう摂取していくか・・・食事を作る側としても、管理栄養士さんの話は参考になることばかりです。

また、バランスの良い食事は、筋肉量の維持や感染症の予防にもなります。
食事が軟飯になってきて、リハビリへの意欲や効果も徐々に出てきているように思います。何よりも「食べたい」という意欲は「生きる」という野性的な本能に近いものではないでしょうか?
今思えば、他界した父も誤嚥性肺炎を繰り返し「食べられない」という状態になってから、急激に弱っていったように思います。だからこそ「食べる」ということが大事なのではないかと思います。

外部の管理栄養士との連携

先生方とお話しをする中で、必ず出てくるのが「うちには管理栄養士がいないからできません」という声です。外来栄養食事指導料も在宅患者訪問栄養食事指導料も、外部の管理栄養士・・・つまり連携している医療機関や栄養ケアステーションに所属している管理栄養士との連携により、診療報酬が算定できることになっています。自院で雇用しないために、若干点数が下がってきますが、地域の中で連携している病院との連携により栄養指導が行えます。また、外来患者についてはオンラインでの栄養指導も可能ですので、活用して見られては如何でしょうか?

さらに「管理栄養士による食事指導」は近年注目度が高くなってきており、調剤薬局グループによる栄養ケアステーションの設置が増えてきていることでも、その注目度がわかると思います。
これまでは「管理栄養士は病院・クリニックで雇わなくてはならないもの」から近隣の医療機関や栄養ケアステーションとの連携により活用できる仕組みができてきていることも、在宅医療を行う先生にとっても地域で生活する患者さんにとってもうれしいことではないかと思います。

「居宅療養管理指導」も考慮しましょう!

管理栄養士による在宅患者訪問栄養食事指導を行う場合、患者さんやそのご家族への指導やアドバイスだけでなく、主治医への報告や担当するケアマネジャーさんへの報告を通して訪問介護や通所介護、機能訓練についても栄養の観点から気を付けておくことを共有することができるようになります。
患者さんは地域の中での生活者です。地域の中で生活し続ける・・・ということを考えると、ケアマネジャーさん等との連携は欠かせません。

また、今回の改定において、通常月2回の「居宅療養管理指導」が認められていますが、利用者の急性増悪等により一時的に頻回な介入が必要であると訪問診療を行う医師が判断した場合、追加で訪問し指導管理を行うこと(特別指示)ができます。居宅療養管理指導の活用により、これまで以上に患者さんの状態の変化に対し、適切な食事内容や食べてもらいやすい食事形態にも対応ができ、栄養管理もできるのではないでしょうか。この特別指示の活用の留意点としては、医師が特別な栄養介入が必要であるという判断をし特別指示を出した日を起算日として30日間である点です。

(出典:令和6年度介護報酬改定説明会資料「管理栄養士による居宅療養管理指導の算定回数の見直し」より)

まとめ

「食べる」ということは、高齢の患者さんにとって生きる上での楽しみの一つでもあります。
そして、栄養管理を行うことにより「食べる」ことへの支援をすることで栄養低下を防ぎ、感染症の予防や活動の支援をすることも可能になり、ひいてはADLの低下を予防し寝たきりを防ぐことにもつながっていくのではないかと思います。

高齢者は、社会生活から定年・退職することで、交流範囲(活動範囲)もせまくなりがちです。これを回避するためにも家庭や地域の中での立ち位置を模索していくことが必要になってきます。問題をソフトランディングできる方は良いと思うのですが、急な発病(体調の変化)や事故で入院治療が必要になったりすると、生活の環境が変わることで様々なことに対処が難しくなります。このような状況になると本人ご家族も含め、戸惑われる方が多いようです。
また、少しずつ体力の衰えを感じ、通院が難しくなり、医療機関から足が遠のく方もあるかもしれません。そういったときに、在宅医療・・・訪問診療や訪問管理栄養士さんをはじめとする医療職の方々に在宅での生活をサポートしていただくことで安心して生活の継続ができます。在宅に管理栄養士が訪問してくれて、専門的なフォローアップをしてもらえる・・・ということはとても心強いですよね。

数年前からよく聞かれるようになった「生活を支える医療」の一環として、「食べる」ことへの支援についてお話しをしてきました。クリニックの先生方や事務員さんたちにも知っておいていただきたいことです。ぜひ先生方の医療機関の近くにある栄養ケアステーションをはじめ連携できる管理栄養士さんがいらっしゃらないか、確認してみてください!

<参考資料>   令和6年7月15日確認

■厚生労働省/「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示_別表第一
  ⇒「C009_在宅患者訪問栄養食事指導料」は149pから記載があります。

■厚生労働省/「医科診療報酬点数表に関する事項」(令和6年3月5日)
  ⇒「C009_在宅患者訪問栄養食事指導料」については、263pから記載があります。
   併せて通則(224p~)もご覧ください。

■厚生労働省/「入院時食事療養費に係る食事療養及び入院時生活療養費に係る生活療養の実施上の留意事項について」保医発0305第14号(令和6年3月5日)
  ⇒「特別食加算」については、4pから記載があります。

■公益社団法人日本栄養士会/「令和6年度診療報酬改定に伴う日本栄養士会からの情報」より
  ⇒管理栄養士の視点から、今回の改定についてまとめられています。

2024年7月16日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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