接遇レッスン~新人スタッフが辞めていく~

長 幸美

医療介護あれこれ

桜咲く4月、職場にも新たなスタッフさんを迎え、職場の中も新しい風が吹き込み、迎え入れる先輩方にとっても緊張する時期ですよね。そして、2~3週間たち、少しずつお互いに慣れてきて日常のペースになりつつある頃です。ところが、最近は入職し研修終了するかしないかという時期に新人さんが「来なくなる」「辞めたいという」・・・という事態が増えているようなのです。

さて、どうしてなのでしょうか?

新しい社会人として、新たな職場で、希望に胸を膨らませ、せっかく望んで就職してきたのに、
「1週間程度で辞めたくなる」「ついていけない」「大変なところに来てしまった・・・」
以前は、ゴールデンウィーク明けにこのようなブルーな気持ちになり、「五月病」などといわれたものですが・・・最近では少し早まっているようです。

「辞めたい」と思った理由を知る~理由は一つではない~

このようなご相談の場合、新人さんに面談するとともに、既存のスタッフさん・・・つまり「教える側の職員さん」にも、話を聴きます。そうすると、「しっかり教えてね」「新人さんに優しくしてね」と院長や事務長から声をかけられても、どうしたらいいのかわからない・・・という声もお聞きします。「私の何がダメで、どうしたらいいんですか?」と詰め寄られることもあります。

そのように言われる方は、ほとんどの方が「丁寧に対応してもらっていない」「先輩がやっていることを見様見真似で、これまで何とかやってきた」という頑張り屋さんが多く、どんな手順を踏んで教えていったらいいかわからない、という方が案外多いのです。
医療機関に明確な手順書がなく、個人が習得する中で、書き込んでいた注意書きや先輩から聞き書きしたものを「マニュアル」と称して、そこから「伝承」されていることがほとんどなのです。

課題1:業務基準(マニュアル)がない

クリニックの場合ですと、分厚いマニュアルは必要ないと思います。
新患さんが来られたら、①保険証を確認し、②問診票の記入を促し、③患者登録し、④チェックイン(紙カルテの場合はカルテを診察室へ回す)という、シンプルな作業になります。
つまり、ひとつの業務に対し、どうしても「やらなければならない項目」をピックアップして、書き出しておくのです。すると、それぞれの業務は片手で数えられる程度・・・つまり3~5つ程度に集約することができます。

新人さんの指導を横で聞いていると、「何のためにこの作業が必要なのか」「どのように診療に繋がるか」という説明よりも、「例えばこういう時はね・・・」と、イレギュラーな事柄を山ほど話している先輩が多いという特徴があります。「例えばなし」が多くなると、何が本質なのかがよくわからなくなり、不安感が強くなり、自信がもてなくなり、注意されることも増え「もうムリ!」という悪循環になってきてしまいます。

「やらなければならない項目」を可視化することで、何処がわからないか、できていないところも見えてきます。また、「ここに載っていないことに関しては、確認してね」と伝えておくと、何を聞かないといけないかも明確になってきます。そうすると、1項目ずつ、「例えばこういう時はね・・・」という事柄に対する経験値が増えてきて、自然とスキルアップができてきます。

課題2:忙しそうで声がかけられない・・・

私も経験がありますが、医療現場では、看護師さんにせよ、受付スタッフにせよ忙しそうにされていて、声がかけづらい雰囲気があります。これは患者の立場でも、躊躇することがあるくらいです。
さらに、勇気を振り絞って「すみません」と声をかけても、作業の手を止めずに、ちらりと横目で見て「なに?」・・・なんて返事が来たら、「ごめんなさい」と謝ることしかできないかもしれません。

仕事を始めたばかりだと、他の医療機関で経験があるベテランでも、当院の仕組みやルールはわかりませんし、ましてや経験がない新卒の方だとしたら、一つ一つがわからないのは仕方がないことです。
そして、仕事の内容やポイントを明確にしないまま、OJT(On-the-Job Training)と称して自分の横に立たせている先輩を見かけることがあります。この状態で「こうして、ああして」と一気に伝達されて、「ハイ、次やってみよう!」と前に押し出されても、なかなかうまくできることはありません。
しかも、指導者の指導スキルにより指導内容に差が生じてしまい、十分にスキルアップを図れない・・・ということもあります。

課題3:同じようにしたはずなのに、何故か違うといわれる・・・

先輩方からは、「あの子、何度も説明しているのに、できないんです!」ということをよく聞きます。また、「わからないことは聞いてって言っているのに、聞かないんです!」「確認してくれたらいいのに、勝手なことをして!!!」という言葉をよく聞きます。
当事者に話を聴くと、「この前はこうしてって教えてもらったから、同じようにしたら違うといわれた・・・」「聞きたいんです。でも、聞いても、この前教えましたよね、といわれると、聞けない」「言われた通りにしているのに・・・」と不安そうな言葉が返ってくることが多いんですね。

このような時に、「どの作業をしてもらうのか」「手順の説明は」と確認していくと、十分に説明されていないことが多いのです。加えて先輩は経験上の知恵で、前提条件の違いを察知して対応を変えていますが、新人はこの「前提条件」がわからないのです・・・。このことからも、コアな作業(原則、目的を含む)をしっかりと伝えていくということは大事なのですね。

教える側の問題

こういったことから、既存職員・・・つまり新人を受け入れる側に「教えるスキル」や「業務内容の理解」が少ないのが現状ではないかと思います。

業務洗い出し

まずは皆さんがいつもしている作業をピックアップしてみましょう!
実は、すべてはここからなのです!!

私自身、病院時代には毎年自部署・・・つまり医事課の作業内容を洗出しして、無駄なことは無いか、しっかりと役割を果たしているか、ということを見直ししていました。
最初は大変です、全医事スタッフに5分ごとに作業内容を記載させるところからですから、当然スタッフのブーイングがあります。しかし実行することにより、自分たちが実施していることが視覚化でき、他者との作業内容の比較もできるようになり、自分たちで本当に必要なことなのかどうかということが客観視できるようになります。書き出すだけですよ!何も難しいことはありません。

全員の作業内容をまとめる

全員の作業内容をまとめるというと、なんだかものすごい作業のように思いますが、スタッフの皆さんから書き出してもらったものを、Excel表に「1セル1作業」で入力して、「何の作業か」見出しをつけてソートをかけるだけです。すると、「絶対やらなければならないこと」は集中して項目が集まるので、その中から「コアな作業をまとめていく」ということを行います。
「コアな作業」とは、どんな条件下でも実施する基本作業です。つまり「必ずやらなければならない作業」ということになります。

ここまでやれれば、実際の作業内容の可視化はある程度できると思います。
こうして、「必ずやらなければならない作業」をコンパクトにまとめていくのです。

使えるマニュアルを作る

ある医療機関からの相談を受け、状況把握と分析に入った時のことです。
10cmほどもある窓口の作業マニュアルがありました。病院機能評価を受けている病院なので、当たり前といえば当たり前なのですが・・・紙ベースでド~ンとおかれたそのマニュアル。
内容を確認しようとすると、最初のページから「あ、それはもうやっていません」「こっちはやり方を変えています」といわれるわけです。つまり、その作業内容を把握し、その通りに実行しているか?というと、病院機能評価受審時に作成したっきり、一度も開いたことがないし、マニュアルの更新も検討していない、というのです!

当然のことながら、イレギュラー対応も細かく記載されているので、わかる人が読めばわかるのですが・・・初任者が見ても、何のことやら・・・「だからどうしたらいいの?」という問いが出てくるようなものでした。どういうことかというと、あまりに膨大な情報が盛り込まれていて、実際に実行することが何か、整理ができていないのです。

業務改善コンサルティングの依頼を受け、その医療機関では、課題の分析とともに、「簡易版マニュアル」と称した「チェックリスト」を作成しました。
一つの作業項目・・・例えば、「患者受付」の中で、どうしてもしなければならない事項は何か・・・というような観点から、洗い出した項目を組み替えるのです。すると・・・①診療依頼書を書いてもらう、②保険証を預かる、③患者登録をする、④問診票の記載、⑤カルテを回す(チェックイン)、という5項目になるのです。しかし、業務マニュアルには、「例えば・・・」という言葉とともに、5ページ以上もの文言が並びます。本当に必要なことでしょうか?
コアな5項目を実施するうえで、疑問に思ったことは、「イレギュラー事項」としてその都度確認するということを行えば、前項にあったように、「確認しない」や「何回言ってもわからない」ということにならないのではないかと思います。
さらに、これまで、受付の習得に3か月以上かかっていたのが、1週間で習得できるほど時間短縮することができましたし、プリセプター以外の職員も、出来ることと出来ないこと、確認しないといけない事項が明確になり、フォローすることができるようになります。ぜひ試してもらいたいことです。

初期段階では、1on1ミーティングを意識的に行う

プリセプターとプリセプティがミーティングを行うことはどの医療機関も行っていると思いますが、プリセプターと院長(又は事務長)、プリセプティと院長(又は事務長)が定期的に面談を実施されている医療機関は少ないように感じます。私は、せめて3か月目くらいまでは、週1回~10日に1回程度、それ以降は月1回程度半年間はフォローしてくださいとお願いしています。

これは、もともといる職員が無意識に行っていることが、プレッシャーになっていたり、「課題2」や「課題3」のようなパワハラに近い対応や問題行動に発展していないか・・・ということを早期に察知し、未然に防ぐことにより対応を改善することができるからです。

・・・というと、「何か困ってない?」「何かあったら言ってね」という声掛けをしてしまいがちなのですが、こうなってしまうと、言われたスタッフは言いたい放題・・・になってしまいかねません。
クリニックの理念や方針を伝えつつ、コミュニケーションの問題などを早期に察知することが一番の目的になります。また、慣れない環境の変化に無理をしていないか、体調面の配慮が必要な場合もあるでしょう。

処遇改善はお給料だけではない!~魅力的な職場とは?~

もちろんお給料が高い・・・ということは働き手としてはとてもうれしいことです。
しかしながら、お給料が高い職場の職員が辞めないか・・・というと決してそうではありません。
地域の中で「そんなにお給料は高くないのに退職者が少ない医療機関(職場)」もあります。

では何が違うのでしょうか?

一つ目は、「お休み」の取りやすさです。
小規模なクリニックや病院は、事務職員が「事務作業」だけをしているかというと、そうではありません。「医師事務作業補助」的な作業も兼務していますし、看護師さんの補助的な作業も兼務している場合が多いのです。逆に、看護師さんであっても、事務作業の補助に入ることもあります。
つまり急なお休みをしても、スタッフ間でサポート体制が取れる場では働きやすい環境があります。

二つ目は、「院長の診療方針が明確で、スタッフにもしっかりと浸透している」ことです。
院長の想いを理解し、共感することができれば、「自分ができることは何か」と考え、行動することができるようになります。つまり、院長先生へのリスペクト・・・といえるでしょう。
これは、スタッフ間でも同じかもしれません。
自分ができることとできないこと、そして、これまで生きてきた経験も含め、お互いに「自分にはないものを持っている」「自分とは違う経験をしている」ということを意識できると、相手に敬意を払うことができるようになります。

三つ目に、コミュニケーションです。
居心地が良い職場は、自分自身を「一人の人」として受け入れてくれる懐の深さがあると思います。
だからといって、何もかも「よしよし・・・」「いいよ、いいよ・・・」ということではありません。人は誰しも間違いはありますし、理解に時間がかかる方もあります。完璧なヒトなんていませんよね。
それらすべてを受入れ、間違いは正し、理解を促していくことも必要だということです。
「天上天下唯我独尊」
つまりこの世の中で、あなたはただ一人、誰も変わることができない・・・ということが理解できれば、相手を尊重することもできるでしょうし、コミュニケーションの取り方も変わってくるのではないでしょうか?お互いに認め合い、足りないところはカバーしあう、相手を尊重できると居心地が良い場ができるのではないでしょうか。

さらに、このコミュニケーションは、「自己中心」ではうまくいきません。
他者がいることを理解し認めていくことが必要になってきます。

終わりに

どなただったか、「仕事ができない、覚えられないというのは、教える側に問題がある」といっている方がありました。確かに本質をついていると思います。受け手本人の能力以上に、伝える側が「仕事を習得するためにどう伝えるのか」ということがとても重要になると思っています。
「何度も教えているのに・・・」という前に、どんな教え方をしているか、理解できないのはなぜだろう?と考えてみてほしいと思います。

自院で解決できない場合は、一度外部に相談してみるのもよいのではないでしょうか?
「やめたい」と思う理由にしっかりと向き合っていく必要がありそうです。

2024年4月30日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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