大規模言語モデルによる財務諸表分析の将来性 ~Financial Statement Analysis with Large Language Models~ 

佐々木 大

DX推進

「大規模言語モデルによる財務諸表分析(原題:Financial Statement Analysis with Large Language Models)」という論文が、シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの研究グループから発表されました。 

 わたしは英語の読解力が乏しいため、こちらの日本語の記事も参照しています。ゆえに、原文の論点からずれている可能性があることについてご了承ください。 

GPT-4は財務諸表から将来の収益の伸びを予測する点で人間のアナリストよりも優れていることが研究により明らかに (Gigazine)  
https://gigazine.net/news/20240527-future-financial-analysis-gpt-4

論文の概要 

 まず、ChatGPT 4oの助けを借りて、原文の概要を下記のように翻訳してみました。 

大規模言語モデルによる財務諸表分析

概要: 
この研究は、大規模言語モデル(LLM)がプロのアナリストと同じように財務諸表を分析し、将来の収益を予測できるかを調べます。匿名化された財務諸表をGPT-4に提供し、収益の方向を予測させたところ、業界情報や詳しい説明がなくても、GPT-4はアナリストよりも高い精度で予測できることが分かりました。特にアナリストが苦手とする状況でGPT-4は強みを発揮し、最先端の機械学習モデルと同じくらいの精度を持っています。GPT-4の予測は過去のデータに基づくものではなく、企業の将来のパフォーマンスに関する有用な解説を提供しています。さらに、GPT-4の予測に基づくトレーディング戦略は他のモデルよりも高いリターンとリスク調整後の利益を示しました。これらの結果は、LLMが意思決定において重要な役割を果たす可能性を示しています。 

研究方法: 
研究では、企業の財務諸表を匿名化し、標準化された形式でGPT-4に提供しました。具体的には、貸借対照表や損益計算書から会社名や特定の年を除外し、相対的な年(例:tやt-1)に置き換えました。また、財務諸表の形式を統一することで、モデルが企業や年を特定できないようにしました。次に、財務諸表を分析し、将来の収益の方向を判断するように指示するプロンプトを設計しました。 

結果: 
研究結果によると、GPT-4はプロのアナリストと比較して収益変動の予測精度が高く、特にアナリストがバイアスや意見の不一致を示す状況でより良い成果を上げました。また、GPT-4のパフォーマンスは、特化した機械学習モデルと同じくらいかそれ以上であり、分析から得られる解説に基づいています。GPT-4の予測に基づくトレーディング戦略は市場を上回り、特に小型株のリターン予測で優れた結果を示しました。 

結論: 
本研究は、LLMが財務諸表を分析し、将来の収益変動を予測する能力を持つことを示しました。この能力は、プロのアナリストや特化した機械学習モデルを上回ることもあります。また、GPT-4の予測は、バイアスや情報の非効率性が存在する場合に特に価値があることがわかりました。これにより、LLMが財務情報の処理を改善し、投資家や規制当局にとって有益である可能性が示唆されます。 

大規模言語モデルによる財務諸表分析の将来性 

 あくまでもこれらの翻訳や参照記事からではありますが、どうやら、「企業の業績予測がそれなりの精度で、生成AIにより勝手に行われてしまう時代」も近そうです。各企業の決算短信が出された瞬間に、各生成AIによる将来業績予測がWEB上にすぐ掲載されるイメージでしょうか。 

 もともと財務諸表は数値情報がメインなので、AIとの親和性は高いと考えられていましたが、既に現時点でも、ChatGPTという汎用の生成AIにおいてプロンプト次第ではプロのアナリストと肩を並べるレベルにあるようです。 

 もうひとつ興味深いのは「GPT-4の予測は、バイアスや情報の非効率性が存在する場合に特に価値があることがわかりました」の部分です。人間であるプロのアナリストは、対象企業に対してどうしても先入観(≒バイアス)がありますが、生成AIはそれら先入観を容易に切り離して、ある意味ドライに将来予測をすることができます。「そのほうが精度の高い予測ができる」と言い切られてしまうと、人間としては複雑な気持ちになります。 

まとめ 

 あらゆる業界で、すさまじいスピードで進化するAIをキャッチアップし、「人間がやること」と「AIに任せること」について切り分けながら、仕事を再構築していく時代に突入したのだと感じています。いわゆる会計業界においては「数値情報をメインとした成果物」であるため、AIが介入する余地も大きそうです。 

 わたしは、AIの活躍範囲を考えるうえで重要なキーワードは「責任」だと捉えています。「最終的に責任を取れるのは人間しかいない」というのが私の考えです。既存の概念にとらわれ過ぎずに、便利なものはどんどん活用しながら、より良い仕事をしていきたいものです。 

[参考文献] 

■「Financial Statement Analysis with Large Language Models」 (2024.5.27) 
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4835311

■「GPT-4は財務諸表から将来の収益の伸びを予測する点で人間のアナリストよりも優れていることが研究により明らかに」Gigazine (2024.5.27) 
https://gigazine.net/news/20240527-future-financial-analysis-gpt-4

2024年5月29日

著者紹介

佐々木 大
佐々木総研グループ 代表

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