接遇レッスン「コミュニケーション取れていますか?~新入職員の早期退職に考える~」

長 幸美

医療介護あれこれ

私も病院職員時代に経験がありますが、「入職から間もない職員が早期退職してしまう問題」・・・ありませんか? 先日報道番組で「退職代行サービス」とやらができていることを知り、少々驚いています。4月に社会人デビューした人が1カ月余りで簡単に退職を決めていることにも驚いたのですが、さらに「退職代行サービス」があることにも驚きました。

しかし今日は「退職代行サービス」のお話がしたいわけではありません。
何故そんな短期間で「退職」を決めてしまわなければならなかったのか、受け入れる側に何かできなかったのか、少しお話しがしたいと思います。それは、無意識のうちに接している先輩の態度により、新入職員が受け止めていること、そしてその中に、共通して見えてきている課題があると感じています。その課題の中に大事な接遇のエッセンスが隠されているように思えるのです。

こんなこと起こっていませんか?

医療機関は、医師や看護師をはじめ、国家資格を持った方の専門家集団です。しかしながら事務職員や看護補助者など、国家資格がない方も一緒に働いておられますよね。
また、仕事は一人きりで行うものではなく、Teamで行うものです。特に医療の場合は専門性が高い職員の集団ですので、このTeamで動くということがとても重要になりますが、これがなかなか難しいのです。

■医療機関は専門職の集団~医療専門職VS事務職員

私が病院に就職し、事務職員として仕事を始めたころ、「国家資格の壁はこんなに高いのか?!」とびっくりしたものです。当時医療機関の常識も知らず、患者の立場に近い私は、何となく国家資格の中に順位があるような・・・そして無資格の事務職員は底辺に考えられているような・・・そんな感じを受けていました。

今でも、医療専門職と事務職員が言葉を交わすこともないような医療機関を見かけます。医師には医師の役割、看護師には看護師の役割があり、同様に事務職員にも事務職員の役割があります。
お互いの役割を理解しあえると、「○○VS○○」なんて言う構図にはなりませんよね。

■仕事は見て覚えるもの?

「仕事を教えているのにできない」「何度も同じことを説明している」という先輩方のぼやきの陰で、実際の教えている様子を見ていると、対応したり作業したりしている横に立たせて、特に説明もせず、教えているつ・も・りになっている方がおられます。

目的(何のために)や作業内容を明確にせず、「新患さんが来たらレセコンを開いてこれをこうして・・・」「次に電カルを開いて同じようにこうして・・・」と作業の順番を教えて、仕事をおしえているつもりなのですが、これでは、少し条件が変わっただけでもう作業が進まなくなります。そして間違いも起こりやすくなるわけですね。
このボタンを押して、そうしたら、この画面に変わるから、今度はこっちのボタンを押して・・・、ああ、また間違えてる、それはこれと違うからそっち・・・こうなってくると、何を言われているのか、何のための作業かもわからないわけなので、同じようにしているつもりであってもうまくいかないこともあるわけです。そのうち、次の指示を出さないと作業ができない状況になったりします。

■言語が通じない

私が二つ目の医療機関に就職した時のことです。「俺の言葉がわからん奴とは話をしない、出直してこい」といわれたことがあります。まわりの方々が話している言葉が前職での使い方と違う意味合いの言葉として使われていたのです。つまり「院内用語」があるわけですね。
・・・同じようなことが事務職員同士、看護職員同士でもある可能性があります。

特に職歴が長い方が多い職場ではその傾向が強いと思います。診療科によっても違いますし、言葉の使い方も作業手順も違うことがあり、新たに入職した方が戸惑う場面が多いのも事実でしょう。新入職員さんの中には「学校で習ってきた言葉の理解と違うという戸惑い」や「わからないことへの不安」を覚える・・・ということは意識しておく必要があるでしょう。

■「報・連・相」がうまくいかない

皆さん社会人1年生になったときのことを思い出してみてください。
分からないことがわからなくて、何を聞いたらいいかわからない・・・ということは、ありませんでしたか? 

始めから「報・連・相」が上手に行える方はごくまれなのではないでしょうか?
「報・連・相」には相手の状況を見計らうタイミングも大事になりますし、その内容も大事です。
しかしながら誰でも、最初はどのタイミングで報告したり、相談したりしたらいいかわからないのが当たり前ではないでしょうか?
やっとの思いで先輩に声をかけたら、横目でちらりと見られたり、「はぁ~」とため息をつかれたりしたら・・・ 皆さんどんな思いになりますか?

■ハラスメントへの恐怖

最近では、「〇〇ハラスメント」という言葉が必要以上に横行しているように感じるのは、私だけでしょうか? 私たち昭和世代が当たり前だったことが、Z世代やAYA世代の方々にとっては当たり前ではないことも往々にしてあると思います。
また、「セクシャルハラスメント」や「パワーハラスメント」は厳禁であると理解していても、どのような言動がハラスメントに該当するのか、よくわからないという方も多いでしょうし、意図していないことで「〇〇ハラスメント」といわれるのではないか、と不安に感じておられる方も多いように思います。「パワハラだといわれ、泣かれるので、どう注意したらいいかわからない」というご相談も増えてきました。

仕事をするうえで大事にしたいコミュニケーション

私は医療にかかわる仕事を始めて30年になります。
医療や介護は人と人とが支えあうとても大切な、やりがいのある仕事です。情報の共有や連携により効果的に治療を進めることもできます。

以前コラムの中で、「コミュニケーションのお悩み」についてお話をしたことがあります。
コミュニケーションの課題として、相手の立場を理解することやコンフリクトの解決方法などをお話ししたものですが、これは今回の場合で言うと、疎外されていると思いがちな新入職員さんに当てはまるかもしれません。

 ※医療機関のお悩み~コミュニケーション編~ ⇒⇒⇒(こちら)

今回は、先輩職員さんに視点を当てていきたいと思いますので、まずはどのような受け入れをしているか考えてみましょう。

仲間になってくれたことへの感謝

「仲間になってくれた」と書くとなんだか変な感じがしますが、Welcomeな気持ちが伝えられているか?ということです。受け入れ側が否定的な感情を持っていると、必ずといっていいくらい相手には伝わっています。特に「負の感情」は伝わりやすいものです。

ある医療機関は、採用が確定してから入職日までに様々な仕掛けをされています。
仲間になってくれてありがとう、待っていたよ! 一緒に頑張ろう!! よろしくね!!!
・・・という気持ちをいろいろな形であらわすのです。
その形はいろいろです。
院長から朝礼で紹介をされた時に、その気持ちを表す医療機関もあれば、
お昼休みに同じお弁当を準備し一緒に食事をしながらプチ歓迎会をする医療機関もあります。
何もなくても、月1回同じお弁当を一緒に食べて、近況を聞いたり仕事の課題を聞いたりしてミーティングをされる医療機関もあります。
お弁当だけでなくても、夕方、ケーキと珈琲でお茶会をして、自己紹介しあい「一緒に頑張ろう」「よろしくね」という気持ちを伝える医療機関もあります。カタチはどうであれ、お互いの顔を見て人となりを知る第一歩を支援していくというのは大事なことではないかと思います。

コミュニケーションの第一歩は挨拶から

皆さんの医療機関は「挨拶」の習慣はありますか?
・・・と聞くと、ほとんどの医療機関では、「当たり前じゃないですか!」と仰います。
では、元気のよい職員間同士の挨拶の声が聞こえていますか?
・・・と聞くと、挨拶はしているけど、相手からの挨拶は返ってこない・・・と声が小さくなる医療機関も思いのほか多いのです。

また、早期退職を決めてしまった方に話を聴いていると、この「挨拶がない」「コミュニケーションが取れない」という悩みを話される方が圧倒的に多く、驚くことがあります。

先輩方にそれとなく話を聴いてみると、口をそろえて、「挨拶はかえしているつもり・・・」「ちゃんと声をかけています」と仰います。しかし、相手には伝わっていないことが多いのです。
相手に伝わっていなければ、やっていないことと同じです。とてももったいないですね。

こういった場合に、院長先生に少し頑張ってもらって、名前を呼んで率先して声をかけてもらうようにお願いすることがあります。「看護師さーん」「事務員さーん」ではなく、その方の「名前」を呼んでもらうのです。
「○○さん、おはよう」「○○さん、ありがとう」「○○さん、お疲れ様」・・・etc.
はじめは照れ臭い気持ちの方が強いのですが、全職員に対し、「○○さん」と声をかけることにより、顔を見ることに繋がります。相手を認識して、声をかけるわけです。すると、ちょっとした変化も気付くようになるわけです。

名前を呼ばれることは「個人」として意識してもらっているわけで、本人はうれしいものなのです。「○○さん、さっきの電話対応は大丈夫?わからないことない?」などと声をかけてあげることで、聴きやすい雰囲気や話しやすい雰囲気ができてきます。新入職員さんの疎外感もなくなるものです。

自ら考えて行動できる人づくり

新しい職員を受け入れるということは、ある意味人材教育が必要になってきます。
いろいろな思いを持った方が、就職されて経験がない場合もあると思いますし、その方たちにクリニックのことや仕事のイ・ロ・ハを教えていくことは、負担でもあり大変だと思います。
言われたことしかできない、指示をしたことしかしない、周りを見て動いてくれない・・・とぼやきたくなることもあるでしょう!

では皆さんの仕事を教えるときの様子を思い出してみてください。
仕事の目的や何のためにするのか・・・ということは伝えられていますか?
指示を受けたことさえやっていればいい、と暗に教えていませんか?
作業手順を伝えていても、何をしているか、そのことが診療にどう影響しているかは伝えられていないことが多いのです。これでは自分で考えて行動することはできません。

教育における四段階法

山本五十六の有名な言葉で、
やってみせ、 言って聞かせて、 させてみて、 誉めてやらねば、 人は動かじ。」 という言葉がありますが、 実は、この言葉には続きがあります。
 「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
     やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

なかなか深い言葉ですね。まずは自分自身が手本(良いモデル)となりやって見せることで、どのような状況でどんな行動を起こせばよいか、見通しを立てることができるようになります。初めての作業や不慣れな作業等の場合、「こうやるんだよ」「この仕事の意義や目的はこうなんだ」というコアな作業内容を見せて説明することが大事だと説かれています。そして、次には「本人にやらせてみること」 つまり「成功体験」を積むことが大事で、承認することで、「これでよかったんだ」と、自分の行動にも自信が持てるようになるわけです。
仕事の習得はこの細かい成功体験の積み重ねだと思うのです。

私はさらにその先の言葉がとても大事だと意識をしています。

慣れてくれば、難しいところや、もっとこうしたらいいのでは?という工夫したいことや改善したいことが出てきます。その際には、その話を聴き、「やってみる?」と任せてみることが、仕事を自分のものにし、成長していく過程ではとても大事なのです。これはとても難しいことでもあります。
往々にして、頼りなく感じたり時間がかかってしまいハラハラしたりして、手を出したくなりますが、それをぐっとこらえて任せてみなければ、成長はしないということですね。

そして何よりも、工夫していることや毎日の地道な作業でも、コツコツと実施していることを感謝の気持ちで見守っていくこと、信頼してやらなければ伸びていかないことを短い言葉の中に込められていると思います。

終わりに

今回、新人職員の早期退職の原因について、私なりに考えてみたのですが、コミュニケーションが取れていないことに大きな原因があるように思います。新入職員は、ある程度出来上がった「クリニック」というコミュニティの中に一人で飛び込んでくるわけです。
専門用語もよくわからず、様々なルールや専門職、先輩たちの中に一人で入ってくるわけです。
最初はワクワクしていても、クリニックの忙しさの中で、また言葉がわからない中で、不安が募ってきます。自分自身に自信が持てなくなってきます。忙しそうだな・・・と思うと声がかけられないのは普通のことです。そんなときに、先輩たちから声をかけ、歩み寄っていってほしいなと思います。

また、新入職員が入職された時は、クリニックに外部の風が入る良い機会なのです。
どうしても、クリニックという閉塞的な中で、「井の中の蛙」になりがちです。
2年に1回の改定も自分たちの仕事を見直す良いチャンスですが、新しい仲間が入ってきたときは、自分たちの作業に無理がないか、効率的であるかどうか気付く良いチャンスなのです。新しい方に説明してすぐにできない場合や不思議そうな顔をされた場合は、手順に無理があったり無駄な作業をしていたり、そういう課題に気付く良いチャンスなのです。
「昔からこうしてたのよ」という説明は通用しません。作業する理由にはならないのです。
是非一緒に考え、話を聴いて一緒に考えていくようにしてみてください。
そうすることで、新入職員は疎外感を感じず、仲間としての意識もできてくると思います。
一緒に頑張っていきましょう!

2024年6月21日


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