令和6年度診療報酬改定~長期収載品の選定療養②~

長 幸美

医療介護あれこれ

長期収載品については、10月から選定療養費が発生することになっていて、以前コラムでも記載しておりました。簡単に言うと、令和6年10月1日より、長期収載品の処方等又は調剤について選定療養の仕組みを導入することになっています。つまり、患者さんの負担が増えることになっているんです。

 ※以前のコラムはこちら ↓ 
  令和6年度診療報酬改定~先発医薬品をもらうとお薬代が増える?~長期収載品の選定療養について

この中で、明確になっていなかった、「例外要件」・・・つまり、選定療養費を徴収しなくてもよい要件が明確になってきました。今日はその内容を見ていきたいと思います。

保険給付と選定療養の適用場面

長期収載品・・・つまり後発医薬品がある先発医薬品の使用については、患者希望であった場合、選定療養の対象となることが決められています。

つまり・・・
①銘柄名処方の場合であって、患者希望により長期収載品を処方・調剤した場合
②一般名処方の場合であっても、患者希望により長期収載品を処方・調剤した場合は
選定療養の対象となります・・・つまり、自費の負担が増えるということになります。

患者の負担増にならないためには今まで同様「変更不可」にチェックしとけばいいんじゃないの?という言葉が聞こえてきそうですが、そう単純に行かないような気がしています。
今回このチェック欄に「医療上の必要があり」とされたところにポイントがありそうです。

保険給付の対象となる場合はどういう場合?

今回のポイント医療上の必要性があると認められる場合、は保険給付の対象とすることになっている点です。
つまり、医師が医療上の必要があり、後発医薬品への変更不可」とした場合、また薬局に後発医薬品の在庫がない場合など、後発医薬品を提供することが困難な場合については、保険給付の対象となります。

医療上の必要がある場合とは?

長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(令和6年7月12日付け厚生労働省保険局医療課事務連絡)」において、長期収載品を処方等又は調剤する医療上の必要があると認められる場合としては、以下のとおり4つの項目があるとされています。

長期収載品と後発医薬品で薬事上承認された効能・効果に差異がある場合であって、当該患者の疾病
 に対する治療において長期収載品を処方等する医療上の必要があると医師等が判断する場合。
② 当該患者が後発医薬品を使用した際に、副作用や、他の医薬品との飲み合わせによる相互作用、先発
 医薬品との間で治療効果に差異があったと医師等が判断する場合
であって、安全性の観点等から長期
 収載品の処方等をする医療上の必要があると判断する場合。
学会が作成しているガイドラインにおいて、長期収載品を使用している患者について後発医薬品へ
 切り替えないことが推奨されており、それを踏まえ、医師等が長期収載品を処方等する医療上の必要
 があると判断する場合。
④ 後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期
 収載品を処方等をする医療上の必要があると判断する場合。ただし、単に剤形の好みによって長期
 収載品を選択することは含まれない

中医協/総-3「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養について」R6.7.17より

この内容を見ても分かる通り、医師がどう判断しているか、単に患者さんの希望もしくは好みで判断しているかどうかといった基準が示されています。この基準がとても重要になってきます。

医師の記録が大事

患者さんが選定療養で負担が増えないためには「医療上の必要がある」と判断したことを、あとからわかるようにしておかないといけません。カルテに記載がなければ判断されたことがわからないことになる・・・つまりカルテの記載が重要になってくるわけです。上記①~④の例でみていきますと・・・

①の場合ですと、薬事上の効能・効果に差異があり、治療管理に必要だと判断したこと
②の場合は、当該患者が服用した際の副作用や他の薬剤との相互作用、治療効果について、差異が認められ、長期収載品が必要だったと判断すること・・・つまり、この場合は一度、患者さんは別の薬剤(後発品)を使用してみる(飲み比べなどを行った結果)等々が必要でしょうか?
③の場合は、学会のガイドラインにおいて、先発品(長期収載品)の処方が優位であることが確認され、後発医薬品への変更をしない方が良いとされている場合ではないかと読み取れますので、ガイドラインをこまめにチェックする必要があるかもしれません。もちろん、カルテにその記録として(ガイドラインに基づくものであること)と書かれているほうが良いと思います。ガイドラインは研究により変化していきますから・・・判断した時点を記録しておくことは大事ですね。
④の場合は調剤薬局の窓口での話が主になってくるかもしれませんが、単に患者さんの「好み」では必要性の判断にはならないよ・・・といわれているようです。

保険薬局や薬剤師がやること

上記①②③については医療上の必要性について、疑問があれば医師等に疑義紹介することが考えられますし、④については薬剤師が判断することも考えられます。

適切に対応した後は、調剤した薬剤の銘柄等については、当該調剤にかかる処方箋を発行した保険医療機関に情報提供を行うことが求められています。

具体的には・・・
医師等が長期収載品を銘柄名処方し、「変更不可(医療上必要)」欄に「✓」又は「×」が記載されていない場合に、薬剤師として長期収載品を調剤する医療上の必要があると考える場合であれば、医療上の必要性の判断の観点から、保険薬局の薬剤師が判断することもありうると思われます。

また、患者が後発医薬品を選択することができない場合・・・つまり、院内処方の場合であれば、院内に採用されている後発医薬品がない場合がその状態であるものとされ、診療報酬請求書等の適応欄に理由を記載すればよいとされています。

選定療養の対象品目

後発医薬品上市後、徐々に後発品に置換えがすすむという実態を踏まえ、以下の2点が決められています。

① 長期収載品の薬価ルールにおいては後発品上市後5年から段階的に薬価を引き下げることとしている。この点を参考に、後発品上市後5年を経過した長期収載品については選定療養の対象とする。
※ ただし、置換率が極めて低い場合(市場に後発医薬品がほぼ存在しない場合)については、対象外とする。
② また、後発品上市後5年を経過していなくても、置換率が50%に達している場合には、後発品の選択が一般的に可能な状態となっていると考えられ、選定療養の対象とする。

中医協/総-3「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養について」R6.7.17より

保険給付と選定療養の負担にかかる範囲

厚生労働省のホームぺージでは、「厚労省マスタ」が公開されています。
その中に、長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1・・・つまり、保険外併用療養費の算出に用いる価格について、特別の料金」の算定については、次のスライドに記載されています。

中医協/総-3「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養について」R6.7.17より

詳細な選定療養費の費用計算方法については、厚生労働省の事務連絡から以下の通り出されていますので、参考にしてください。
いずれにしても、厚生労働省から、出されている長期収載品と後発医薬品の価格差の計算方法について、厚労省の資料を参考に概算の費用計算ができるようですので、ご確認ください。
日常的には、レセコンや調剤薬局で自動計算になるとは思いますが、どのような仕組みか・・・ということは、一度確認しておかれたほうが良いと思います。

厚生労働省/事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について」R6.7.12より

厚労省から出されている長期収載品・・・つまり後発医薬品がある先発医薬品の一覧表がありますが、その中に、上記のスライドのように、1錠(カプセル)当たりの選定療養費の単価(長期収載品と後発医薬品の一番高い単価との4分の1の金額)がかかれていますので、その金額に1日の必要量と処方日数を掛け合わせ、選定療養費を計算すること、選定療養費には消費税(10%)がかかることがポイントになりますね。

まとめ

さて、今回10月改定の個別改定項目(短冊)の諮問・答申の情報と一緒に、表記資料が提出され、議論されていました。具体的な金額については調剤薬局さんがしっかりと計算されると思いますが、ある程度の計算については、クリニックの先生や受付の方も知っておく必要があると思います。
何故なら、調剤薬局で負担が増えたことに対して、先生方に何故?という疑問が投げかけられることになると思うからです。詳細な説明はともかく、「え?そうなの?知らなかった・・・」というようなことにならないように、仕組みは知っておき、説明ができるように理解しておく必要があると思います。

令和6年度の改定は、点数の上がった・下がっただけではなく、保険診療の仕組みが大きく変わってきています。「よくわからないよ!!」ではなくある程度理解して、対処していく必要がありますので、一緒に頑張っていきましょうね!

<参考資料> 令和6年7月22日確認

■中医協/長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養について R6.7.17(中医協_総-3)

■厚生労働省/後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について

■厚生労働省/事務連絡「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について」R6.7.12

2024年7月23日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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