どうする?ベースアップ評価料(番外編)~届出状況を調べてみた!~

長 幸美

医療介護あれこれ

令和6年度診療報酬改定の目玉の一つである「ベースアップ評価料」ですが、皆様の医療機関では届出をされましたでしょうか?
感覚的に、病院はほぼ届出をされているのではないか、それに反してクリニックは半分程度かなぁ~と思っていましたが、ふたを開けてみると、まだ届出をされていない医療機関が多いかもと感じています。

今回は、九州厚生局の公表資料を基に、独自に集計をしてみました。併せて先生方のご意見も記載しています。参考にされてください!

ベースアップ評価料とは~おさらい~

一般企業では「ベア4.5%」を超える賃上げが行われている中、医療機関においても給与のアップを求められてきています。周りの環境はあらゆる日用品や日常のインフラにかかる費用、食品等々が軒並み値上げになる中、医療機関では一般企業並みにベースアップを行う原資が見当たりません。現状で給与の増額ができない中での悩みは人材不足だと聞いています。求人票を出してもなかなか応募がない・・・という声が多いようです。皆様の医療機関では如何でしょうか?
お給料がすべてだとは言いませんが、休みの取りやすさや給料は職探しの中でかなり重要な要素になります。そうした中での今回の改定内容はというと、「物価高騰」や「ベア」への対応が改定の中に出てきたのは初めてのことで、とても驚きました。物価の上昇があったとしても医療機関の収入は「診療報酬点数表」という名の公定価格が決められており、勝手に価格の変更を行うことができません。今回の改定においても、なかなかベースアップまでは十分な対応ができない医療機関が多いのが正直なところではないでしょうか?

そんな中での「ベースアップ評価料」の点数の算定を如何するか・・・
皆さん、他の医療機関がどうされているのか、気になっておられる方も多いのではないでしょうか?
経営者である先生の心の中を覗いてみると・・・

診療報酬は2年に1回変わるし、2年後の改定でもしこの「ベースアップ評価料がなくなったら給料は下げれれるの・・」
今回の改定に付いて私共に寄せられ声の中には、先生方のご心配もさることながら、「そうはいってもベースアップ評価料で一部でも賄えるなら算定してみようと思う」など積極的な意見があり、両者全く正反対の意見に分かれました。ベースアップ評価料については最も相談が多い項目でもありました。

ベースアップ評価料は、簡単に言うと「直接医療にかかわる医療職」の方々へのベースアップを目的に、算定が認められている点数ですが、二段階に点数が設定されています。
「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」を算定し、医療職の方のベースアップが1.2%未満であれば、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)」又は「入院ベースアップ評価料」の算定ができ、その保険診療分を職員の賃金アップの原資にできる・・・このような考え方は今までありませんでした。

「ベースアップ評価料」の施設基準届出状況

今回、医療DXの考え方から、6月1日・・・つまり通常の改定月が2か月後ろ倒しでの施行となりましたが、診療所の届出が思うように進んでおらず、「ベースアップ評価料(Ⅰ)」の届出は、6月21日まで延長されるという異例の措置が取られていました。実際に6月からの算定をしている医療機関はどのくらいあるのでしょうか? ちょっと気になりますよね。九州厚生局管内の届出状況から独自に集計してみました。

もとになるデータは厚生局のホームページから

医療機関の届出状況はそれぞれの医療機関の主管している地方厚生局のホームぺージに公表されています。弊社は福岡県にありますので、九州厚生局のデータをもとに集計してみました。

 ※九州厚生局/コード内容別医療機関一覧表(令和6年7月1日現在)

 ※九州厚生局/届出受理医療機関名簿(令和6年7月1日現在)

ベースアップ評価料届出状況

「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」等について、弊社もお客様向けにセミナーを開催したり、届出の計画書の作成など、多くの相談に対応しております。

しかし・・・届出状況の実際はどうでしょうか?
実は、クリニックも含めて、「外来・在宅ベースアップ評価料」については、4割にも満たない医療機関しか届出をされていない・・・ということがわかり、少々びっくりしています。
病院・有床診療所は約半数の医療機関が届け出をされていることがわかってきました。


九州厚生局の情報を弊社で加工

ベースアップ評価料算定する?しない?

弊社のお客様、また、個人的にお付き合いがある医療機関の先生方に、「ベースアップ評価料」について、お話しを聞いてみました。賛否両論あります。まずは生のお声から・・・。

「届出しない!」という先生のお話し・・・

・届出に際し、手続きが煩雑で事務職員に総額とは言え、お給料を公開することは避けたい。

・令和6年度2.5%、さらに令和7年度に2.0%アップするとなると、とてもベースアップ評価料では足りず、患者数も減少し、診療報酬が減少していく中で、いくら2年間算定できるとは言え、いずれ梯子を外されるのであれば、算定はしない。

・3月に1回の届出し直しや1年後の報告をしないといけないのであれば、算定はしない。ベースアップしたら文句はないだろう!

・日常的な診療で煩雑なのに、とてもそんなこと考える余裕がない。

・一度算定し、ベースアップしたら下げられない。状況がどう変わるかもわからず、2年間だけのことであれば、算定はしない方が良いと考えた。

「届出する!」という先生のお話し・・・

・全体的に診療報酬が下がる中で、算定できるものは算定したい。

・もともとベースアップをしたいと思っていたところだったので、少しでも支援してもらえるのはありがたい。

・人材確保も厳しい状況になってきて、新規採用の方と既存の職員の賃金の逆転が起きてきている。また、介護職員と看護職員の給与差がなくなってきている。そういう中で、給料を上げるということは、経営上もかなり厳しくなってきており、評価料(Ⅰ)については国も「届出してください!」という方針とのことなので、取得することにした。

・もともと届出は考えていなかった・・・というのが、コロナ禍で助成金をもらったが報告書がとても大変で、もうこのような作業は嫌だと思っていたから。しかし、職員から「うちは取らないんですか?」「ベースアップ無いんですか?」と聞かれ、そういうわけにはいかないか・・・と思い直して届出をすることにした。

届出後の患者さんや職員への説明は?

・患者さんへは特に説明はしていない。報道番組でも取り上げられている為か、特に質問はない。

・職員へは「ベースアップ評価料を算定する」という話をしたが、個別に説明をしなかったところ、「私にはついていなかった」といわれた。基本給の中に入れてしまったため、何処にいくらついているのかわからなかったものと思われ、事後で個別に面談をして、説明した。

・職員への説明は、朝礼で全体的に説明した後、個別に面談し「その職員に期待すること」「評価していること」などを説明したところ、少し職員のモチベーションが変わってきたように思う。算定することにしてよかった。

よく聞かれる質問

Q1.賃金の2.5%を達成しないと届出できないのではないか?
  ⇒2.5%は政府目標であり、賃金を2.5%引き上げないとベースアップ評価料を算定できないわけでは
   ありません。

Q2.ベースアップはすべての職員に一律に配布する計画を立てないといけませんか?
  ⇒すべて一律にしないといけないというわけではありません。任意で決めることができます。
   また、自院の初・再診料の算定回数に合わせ、賃上げ計画を作成することができます。
   ベースアップ評価料は手元に残すことなく、職員さんのベースアップに使い切る計画であれば
   問題はないと思われます。

Q3.ベースアップは派遣社員やパートにも配布しないといけませんか?
 特にパートは時間数(扶養の範囲内での勤務希望)の兼ね合いもあり、難しいです。
  ⇒派遣社員の場合は派遣会社と話し合いが必要だと思います。
   パート職員については、扶養の範囲内での勤務時間などその方の事情を考慮し、配布する・しな
   いを検討されてもよいと思います。

Q4.ベースアップ評価料の「事務作業を行うもの」とは受付職員は対象にはなりませんか?
  ⇒看護補助など患者のサポートを通じて医療に従事する業務を行う方は、「その他医療に従事する
   職員」として対象職員に該当します。

Q5.この点数2年後にはなくなるんじゃないの?その時はベースアップで上げたものは減額していいん
 だよね?
  ⇒点数が残るのか、廃止になるのか・・・という問題はとても大きな問題だと思います。
   これに関しては、なんとも言えないというのが現状です。
   5月の終わりに行われたある説明会では、「介護の処遇改善も形を変えながら現在も続いている。このことから絶対とは言えないが・・・無くしにくいのでは」というよう意見を聞きました。絶対とは言えませんが・・・。

まとめ

診療所の先生方からも「近隣の医療機関でみんな算定しているのかな?」ということを聞かれることが多く、今回、九州厚生局の資料から件数を当たってみました。思いのほか届出されている医療機関が少ないな・・・というのが印象です。病院はほぼ取得されているだろうと思っていましたし、診療所についても、この厳しいご時世なので、少なくとも半数以上は取得しているのかなと思っていました。

結果はご覧の通りで、4割に満たない・・・という状況です。
医療機関の採用に関して、お給料だけではないと思いますが、応募が少なく、良い人材を採用するということに対し、かなり難儀されている医療機関の相談も多くなっています。
一昔前とは、採用の要件も変わってきていますので、このような診療報酬を活用してみるというのもよいのではないかと思います。

<参考資料> 令和6年7月25日確認

■九州厚生局/コード内容別医療機関一覧表(令和6年7月1日現在)

 九州厚生局/届出受理医療機関名簿(令和6年7月1日現在)

 ※他県の方は、医療機関がある地域の厚生局のホームぺージでご確認ください!

2024年7月26日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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