接遇レッスン~ユマニチュード導入のSTEP~

長 幸美

医療介護あれこれ

前回、「ユマニチュードと接遇」と題し、ユマニチュードの「ケア技法」を用いて医療接遇の向上にも役立つというお話をしました。今回は「ユマニチュード実践」のための導入STEPについてお話を進めていきたいと思います。

 ※前回のコラムについては (こちら)
   接遇レッスン「接遇レッスン~ユマニチュードと接遇を考える~」

ユマニチュード実践の5つのSTEP

ユマニチュード実践の5つのSTEPを見ていきましょう!
実践には、「出会い」「ケアの準備(合意)」「ケアの実践」「感情の記憶」「再会の約束」という5つのステップがあります。

ステップⅠ:「出会い」・・・自分の来訪を知らせる

認知症の人は、判断や理解に時間がかかることがあるため、「待つ」ということも大事になります。
尊厳を尊重するためにも、いきなりズカズカと入っていくようなことはしません。
先ずは、「私があなたを訪ねてきたよ」ということを伝えることが大事です。

 ・3回ノックする
 ・3秒待つ
 ・返事があれば(もう1回ノックして)入る

ユマニチュードの考え方では、お互いの関係は「対等」であるべき・・・つまり上下の関係ではうまくいかないといわれているのですね。これは、認知症ケアだけでなく、職場内の働きやすさにも関係してくるのではないかと感じてます。
相手を尊重すること、そのためには私達が一方的に相手の領域に入っていくことはあってはならない・・・かかわりを持つ初期段階で、十分に注意しなければならないと思います。

ステップⅡ:ケアの準備・・・ケアの合意を得る

良い関係を築くために、相手が嫌がることは行いません。ケアを受入れ、気持ちの良い時間を過ごす為、「見る」「話す」「触れる」というユマニチュードの基本を組合わせながら、患者さんとの関係をほぐしていきます。ケアの合意を得てケアを開始する・・・ということは、相手を尊重しようとする「こころ」を伝えることが始まりだと考えてられます。つまり、ケアを強制するものではなく、受け入れてもらう準備を待つことも大事だということだと思います

 ・まず「会えてうれしい」気持ちを伝えます。いきなりケアの話はしません
 ・「見る」「話す」「触れる」を使い20秒から3分程度でケアの合意を得ます
 ・合意が得られなければケアは行いません。諦めることも技術です

ここで事例を挙げてみます。ある医療機関で、このような話をしたときに「私たちは相手のことを考えて行動するけれど、私たちの想いは先生たちは考えてくれないじゃないですか!」といわれたことがあります。この医療機関では、患者数が多く毎日遅くまで残業し、不満ばかりでした。対策として院長がしっかりと想いを伝え、看護師も事務職員も自分たちが解決できることを実施することで、効率化を図り、残業をしないで帰る仕組みを作りました。気持ちを共有し合意を得ることに根気強く取り組むことで安定した経営環境を作ることができました。

ステップⅢ:ケアの実践・・・知覚の連結を大切にする

少なくとも、二つ以上の感覚(見る、話す、触る)を意識することにより、調和的でポジティブな情報を伝えることが重要だといわれています。同時に2つ・・・つまり、挨拶の時に握手をする、声をかけながら肩をなでる、などです。優しく触れることで心がほぐれていきます。

 ・ケア中は、常に「見る」「話す」「触れる」のうち2つを行います
 ・五感から得られる情報は常に同じ意味を伝えること
 ・ケア提供者が行っている動作を言葉にしながら行う

実はケアを提供する側も、優しく触ることで、表情が緩み、声が柔らかくなるといわれています。
双方に効果があることなのですね。

ステップⅣ:感情の記憶・・・共に良い時間を過ごしたことを一緒に振り返る

ケアが良い感情の記憶として残るように声をかけ、一緒に振り返ることが大事です。
その際には「気持ちよかった」「楽しかった」「あ~よかった!」というようにポジティブな感覚を残すように声をかけていきます。

 ・「気持ち良かったですね」
 ・「協力してくださいましたね」
 ・「お話しできて楽しかったです」などを伝える

ステップⅤ:再会の約束・・・良い体験を繰り返すことができる!という期待感

良い体験(感覚)を繰り返すことができる!という期待感を持たせて終わるようにします。
認知症の方は覚えておくことができない場合が多いので、カレンダーに書いたりメモに残したり、次回の予定が確認できるようにするとよいでしょう!

 ・「また明日、12時にきますね」など具体的に伝えます

最初はなかなか受け入れてくれない方も、気持ちが良い経験を繰り返すことで、少しずつ心を開いてくれることもあります。私の祖父も病院に入院しているときに、なぜかあるスタッフが夜勤の時には眠前薬を使わずによく寝てくれる、という不思議なことがありました。他の看護師さんが夜勤の時には、ゴソゴソと動き回り「困ったちゃん」だったようなのですが・・・この例も良い体験を繰り返す効果じゃなかったかと今では理解しています。

ユマニチュードと接遇

これまでユマニチュードについて話を進めてきました。冒頭話しましたように、ユマニチュードは「人間らしさを取り戻す」・・・つまり、相手の「ヒトとしての尊厳」を大事にする・・・といういわゆる接遇の原点ともいえるものと思います。

本来のユマニチュードの在り方とは、少し違うかと思うのですが、私は、ユマニチュードこそ「医療接遇の原点」であるように思うのです。何故なら、おもてなしの心をもって応対し、相手を大事に想い、意向を尊重しつつ、思いやりを持った対応をしていく・・・その原点は「挨拶」であり相手を「見て(アイコンタクト)」、説明し意向の確認する(IC:インフォームドコンセント)こと、思いやりのある言葉を使うことなどです。如何でしょうか? よく見ていくと医療接遇とどこか似ていませんか

精神科の病院や認知症病棟や療養病棟を持つ医療機関、そしてグループホーム等の介護事業所もユマニチュードを導入すること接遇向上につながっていることに気づき、興味を持つ病院・施設が増えてきているようです。患者さんや利用者さん、そのご家族さまへの接遇やクレーム等にお悩みの医療機関さまや施設さま・事業所さま、一度ユマニチュードを取り入れてみられては如何でしょうか?

<参考資料> ※確認令和6年10月14日

■日本ユマニチュード学会 ⇒(こちら)

2024年10月14日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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