医療事務基礎講座~掲示物を見直しましょう!~

長 幸美

医療介護あれこれ

保険医療機関において、必要な掲示物がいくつかあります。法律により掲示しておく必要な項目が多く、そのための要件がありますが、診療所では案外知らずに掲示をしていない事例があり適時調査で指摘を受ける場合が多々あります。

以前、コラムの中で、令和6年度診療報酬改定において、掲示要件のあるものに関しては医療機関のWebサイト若しくは県の情報公開制度の中で公開していくことが義務付けられていることをお話ししましたが、今日は基本的事項の掲示要件について、根拠とともに、ご説明したいと思います。

医療法による掲示事項

医療法第14条の2の規定に基づき、①病院又は診療所の管理者の氏名、②医療に従事する医師の氏名、③診療科目(麻酔科については麻酔科医の氏名)、医師の診療日及び診療時間などを病院又は診療所内の見やすい場所に掲示する、ことが義務付けられています。

病院又は診療所の管理者というのは、いわゆる「院長」のことです。

<掲示例>
これは必要に応じて修正していくことになります。

管理者(院長の氏名)
診療日・診療時間月火水金 午前 9:00~12:00
     午後14:00~18:00
木・土  午前 9:00~12:30
※診療開始15分前から受付します。
 初診の方は診療終了15分前までにお越しください。
休診日木・土  午後
日曜・祝日、年末年始
診療に従事する医師月~土  (院長氏名)
火曜日 午後 〇〇〇〇
金曜日 午前 ▲▲▲▲
 ※診療される先生が複数の場合は表記する

上記の中で右側の部分は、診療所の実態に合わせて、詳細を記載することになります。

個人情報保護に関する掲示について

個人情報保護に関しては、厚生労働省のホームページに「厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等」が公開されています。こちらを参考にして、個人情報の利用目的や、自らの業務に照らし合わせて通常必要とされるものを特定して公表(院内掲示等)することが必要になります。

医療機関の通常の業務で想定される個人情報の利用目的(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」より抜粋)は、以下のとおりです。

<個人情報の利用目的>
個人情報の保護に関する法律第21条に基づき、当院の「個人情報の利用目的」は以下の通りです。
■病院内での利用
 ①患者さんに医療サービスを提供するとき。
 ②入院患者さんの病棟管理、入退院時の手続きを行うとき。
 ③医療保険事務、自由診療の会計事務を行うとき。
 ④経理事務を行うとき。
 ⑤医療事故等に対応するとき。
 ⑥医療の質の向上を目的とした症例研究を行うとき。(個人情報を匿名化して利用します。)
 ⑦医育機関(大学医学部、看護学校等)の学生実習を受け入れたとき。
 ⑧そのほか、患者さんに係る管理運営業務を行うとき。
■ご家族や他の事業者等への情報提供
 ①患者さんの世話をされている方(ご家族、後見人等)へ病状説明や、各種の手続きを行うとき。
 ②他の医療機関(病院、診療所、歯科診療所、助産所、調剤薬局、訪問看護ステーション等)や、介護サービス事業者等と連携するとき。
 ③他の医療機関からの患者さんに関する照会へ回答をするとき。
 ④患者さんの診療等のため、外部の医師等の意見・助言を求めるとき。
 ⑤臨床検査の検体測定を、専門事業者へ委託するとき。
 ⑥医療保険事務を、専門事業者へ委託するとき。
 ⑦患者さんがクレジットカード会社や銀行等の金融機関を通じて、当院へ費用をお支払いいただくとき。
 ⑧診療報酬の審査支払機関へ「診療報酬明細書」(レセプト)を提出するとき。
 ⑨診療報酬の審査支払機関や保険者(健康保険組合、協会けんぽ、国保連合会等)への照会。
 ⑩診療報酬の審査支払機関や保険者(健康保険組合、協会けんぽ、国保連合会等)からの照会へ回答するとき。
 ⑪生命保険会社、損害保険会社、各種共済等の保険事業者からの照会へ回答するとき。
 ⑫企業、団体等の事業者から委託を受け行った健康診断、検診等の結果を、事業者へ通知するとき。
 ⑬地域がん登録を行う都道府県へ情報提供を行うとき。
 ⑭救急搬送支援・情報収集・集計分析システムへ、救急車で搬送された患者さんの情報を入力するとき。
 ⑮関係法令に基づき、行政機関、司法機関から情報提供を求められたとき。
 ⑯医師賠償責任保険などに係る医療に関する専門の団体、保険会社等へ相談や届け出をするとき。

療養担当者規則による掲示事項

保険医発0304第5号「「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項について」の一部改正について(令和6.3.4発出)の中に、厚生労働大臣が定める掲示事項について、記載があります。その内容を見ていきましょう!

入院基本料に関する事項

保険医療機関は、入院基本料に係る届出内容の概要(看護要員の対患者割合、看護要員の構成)を掲示するものとすること、とされています。

【掲示例】

① 入院患者数 42 人の一般病棟で、一般病棟入院基本料の急性期一般入院料6を算定してい
 る病院の例
 「当病棟では、1日に 13人以上の看護職員(看護師及び准看護師)が勤務しています。
 なお、時間帯毎の配置は次のとおりです。」
  ・ 朝9時~夕方 17 時まで、看護職員1人当たりの受け持ち数は6人以内です。
  ・ 夕方 17 時~深夜1時まで、看護職員1人当たりの受け持ち数は 14 人以内です。
  ・ 深夜1時~朝9時まで、看護職員1人当たりの受け持ち数は 14 人以内です。

② 有床診療所入院基本料1を算定している診療所の例
 「当診療所には、看護職員が7名以上勤務しています。」

食事療養費・生活療養の費用に関する事項

入院時食事療養費に係る食事療養及び入院時生活療養費に係る生活療養の費用の額の算定に関する基準(平成 18 年厚生労働省告示第 99 号)に基づき、保険医療機関が地方厚生(支)局長へ届け出ることとされている事項、について・・・つまり、食事療養の適時・適温について掲示する必要があるということです。

【掲示例/入院時食事療養(Ⅰ)に係る食事療養を実施している病院の例】

「入院時食事療養(Ⅰ)の届出を行っており、管理栄養士又は栄養士によって管理された食事を適時(夕食については午後6時以降)、適温で提供しています。

明細書の発行状況に関する事項(第5条の2第2項及び第5条の2の2第1項に規定)

明細書の発行に関しては、点数表の中に具体的掲示例が出されています。

【掲示例】

当院では、医療の透明化や患者様への情報提供を積極的に推進していく観点から、領収書の発行の際に、個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書を無料で発行しております。また、公費負担医療の受給者で医療費の自己負担のない方についても、明細書を無料で発行しております。
尚、明細書には、使用された薬剤の名称や行われた検査の名称が記載されます。
明細書の発行を希望されない方は、会計窓口にてその旨をお申し出ください。

保険外負担・・・自費請求できる項目の掲示

いわゆる保険外負担については、その適切な運用を期するため、院内掲示の対象とすることとされ、保険外負担の在り方については、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」(平成 17 年9月1日保医発第 0901002 号)等を参考にすることとされています。

「介護料」「衛生材料費」等の、治療(看護)行為及びそれに密接に関連した「サービス」又は「物」については、患者から費用を徴収することは認められていないこと、そして、「施設管理費」「雑費」等曖昧な名目での費用徴収は認められていないことが、明示されています。

【掲示例】

当院では、以下の項目について、その使用量、利用回数に応じた実費の負担をお願いしています。
  紙おむつ代    1 枚につき      〇〇円
  理髪代      1 回につき    〇〇〇〇円
  ―――      ――――      ―――円
なお、衛生材料等の治療(看護)行為及びそれに密接に関連した「サービス」や「物」についての費用の徴収や、「施設管理費」等の曖昧な名目での費用の徴収は、一切認められていません。

ここで注意しなければならないことは、オムツ1枚、文書料1通など、詳細な金額の掲載が必要だということです。また、衛生材料費や針など、手技料に含まれるものもありますので、十分に注意して金額設定する必要があります。

保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める基準等(掲示事項等告示第2、第2の2及び第3並びに医薬品等告示関係)

これは、保険外併用療養費の支給対象となる先進医療は、先進医療ごとに別に厚生労働大臣が定め
る施設基準の設定を求める旨の厚生労働大臣への届出に基づき、施設基準が設定されたものとされています。つまり、先進医療として届出をされている医療機関で、保険外併用療養費の支給対象となる先進医療を行うに当たり、あらかじめ患者に対し、その内容及び費用に関して説明を行い、患者の自由な選択に基づき、文書によりその同意を得たものに対し、その料金をもらうことができること、その内容を掲示する必要があります。

医薬品の治験に係る診療に関する事項・医療機器の治験に係る診療に関する事項

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号。以下「医薬品医療機器等法」という。)第2条第 17 項の規定によるもの(人体に直接使用される薬物に係るものに限る。)とする、また、保険外併用療養費の支給対象となる治験は、医薬品医療機器等法第2条第 17 項の規定によるもの(機械器具等に係るものに限る。)とすることが規定されています。

特別の療養環境の提供に係る基準に関する事項

いわゆる「個室料」「差額ベッド代」のことです。これは、入院環境の向上を図り、患者さんの選択の機会を広げるものとして認められたもので、料金は医療保険で支払われる入院料とは別に患者さんが負担することになります。

算定の要件としては、①病室の病床数は4床以下であること、②病室の面積は一人当たり6.4㎡以上であること、③病床のプライバシーを確保するための設備があること、そして、④特別の療養環境として適切な設備を有すること、という4点を満たして
また、患者さんへ請求するには、差額ベッド室の設備(備品)、構造、料金などについて明確かつ懇切に説明し、患者さん側の同意を得たうえで算定する必要があります。それと同時に院内に掲示しておく必要もあるのです。

また、病院の都合(感染や手術後、ベッドがない、等)で個室をさせた場合、個室料をもらうことは出来ないルールになっています(説明と同意が必要)ので、ご留意くださいませ。

その他

その他の「保険外併用療養費」については、厚生労働省のホームぺージにて確認していただけるといいと思います。

施設基準に関する掲示事項

診療報酬点数表の中に施設基準の通知の中に、院内掲示が必要なものがあります。
改定のたびに「掲示内容の要件」が変更になる場合もありますので、改定の都度、確認する必要があります。今回は、診療所を中心に、令和6年度の診療報酬改定の中から、一部抜粋して見ていきましょう。

情報通信機器を用いた診療

情報通信機器を⽤いた診療の「初診」において向精神薬の処⽅は⾏わないことが追加されました。

機能強化加算

かかりつけ医機能を評価した「機能強化加算」ですが、掲示の中では、具体的なかかりつけ医機能の提供状況を記載することとなっています。

<具体的内容>
・ 他の医療機関の受診歴及び処⽅されている医薬品を把握し、必要な服薬管理を⾏うこと
・ 専門外への対応方法・・・専⾨医師⼜は専⾨医療機関への紹介を⾏うこと
・ 健康管理に係る相談に応じること・・・健康診断の結果等をもとにする
・ 保健・福祉サービスに関する相談に応じること
・ 緊急時の対応⽅法等に係る情報提供を⾏うこと・・・診療時間外を含む
・ 医療機能情報提供制度を利⽤・・・地域の医療機関を検索案内(医療情報ネットに載せている)

地域包括診療加算1・2

今回の改定では、①健康相談や予防接種に係る相談に応じていること、②通院している患者について、ケアマネジャーや相談支援専門員からの相談に適切に応じること、③患者の状態に応じ、長期投与(28日以上)やリフィル処方箋交付について対応が可能であることなど、が、掲示要件としても求められています。

医療情報取得加算

①オンライン資格確認を⾏う体制を有していること、そして、② 当該保険医療機関を受診した患者に対し、受診歴、薬剤情報、特定健診情報その他必要な診療情報を取得・活⽤して診療を⾏うこと、を掲示しておく必要があります。

医療DX推進体制整備加算(⻭科、調剤も同様

今回新たに評価された「医療DX推進体制整備加算」については、医療DX推進の体制に関する事項及び質の⾼い診療を実施するための⼗分な情報を取得し、及び活⽤して診療を⾏う医療機関であることを掲示することとされていますが、こちらは厚労省から要件を満たすとされているポスターが出されていますので、こちらを利用するのも一つの手ではないかと思います。

具体的な内容としては、以下の内容を掲示することとされています。
(ア) 医師等が診療を実施する診察室等において、オンライン資格確認等システムにより取得した診療情報等を活⽤して診療を実施している保険医療機関であること
(イ) マイナ保険証を促進する等、医療DXを通じて質の⾼い医療を提供できるよう取り組んでいる保険医療機関であること
(ウ) 電⼦処⽅箋の発⾏及び電⼦カルテ情報共有サービスなどの医療DXにかかる取組を実施している保険医療機関であること

在宅医療DX情報活用加算

今回の改定で新たに評価されたもので、医療DX推進整備体制加算の在宅バージョンと考えられます。
この為、医療DX推進の体制に関する事項や質の⾼い診療を実施するための⼗分な情報を取得・活⽤して診療を⾏うことなどを記載することとされています。

介護保険施設等連携往診加算

介護保険施設等の協力医療機関として定められていることや入所者の病状の急変等に対応すること、そしてその介護保険施設等の名称を掲示することとされています。

その他、連携に関しては、「在宅医療情報連携加算」や「訪問看護医療DX情報活用加算」「外来腫瘍化学療法診療料1・3、連携充実加算」「ハイリスク妊産婦共同管理料(Ⅰ)・(Ⅱ)」「ハイリスク分娩等管理加算」など、連携先を明示することが要件とされるケースがありますので、基準等をよく確認して対応を検討しましょう!

一般名処方加算

後発医薬品の供給状況や、令和6年 10 ⽉より⻑期収載品を患者の希望を踏まえて処方した場合に選定療養になることを踏まえ(医療上の必要性があると認められる場合はこれまでと同様)つつ、⼀般名処⽅の趣旨を患者に⼗分に説明し、一般名処方することについて説明する掲示が必要になります。

外来後発医薬品使用体制加算

後発医薬品使用体制加算は、①後発医薬品の使用に積極的に取り組んでいること、②医薬品の供給が不足した場合は、医薬品の処方等の変更に対し適切な対応ができる体制であり、③医薬品の供給状況により変更になる場合は十分に説明することなどが、要件となっています。

診療所の入院基本料

看護職員の数(現に看護に従事している)を記載することとされています。

その他の掲示内容について

その他、「小児かかりつけ診療料」「「コンタクトレンズ検査料」「病院の入院基本料」「がん性疼痛緩和指導管理料」「医科点数表第二章第十部手術通則5号及び第6号」に関しても掲示要件がありますので、取得されている施設基準の内容を一度見直し掲示することを忘れていないかどうか再確認されては如何でしょうか?

まとめ

掲示物に関しては、保健所の立入調査(医療監視)や地方厚生局の適時調査でも必ず確認され、指摘が多い項目でもあります。また、今回の改定において、院内に掲示しなければならない事項について、追加やWebサイトへの掲載(令和7年5月31日までの経過措置あり)が要件とされたこともあり、今回のテーマといたしました。

また、今年は保健所も地方厚生局も、コロナ禍で「自主点検」としていたことが終了し、院内ラウンドは行われ、それぞれの確認作業は確実に行われている印象があります。指摘事項や自主返還事例も増えているように思いますので、「これまで何も言われなかったから・・・」という医療機関も、一度自主点検されてみては如何でしょうか?

<参考資料> 令和6年12月24日確認

■厚生労働省/保険診療における指導・監査
  ⇒(保険診療の理解のために医科資料)(医科スライド資料)
   「歯科」及び「調剤」もあります。

■厚生労働省/保険診療確認事項リスト(医科)令和6年度改定版Ver.1
  ⇒114p~「19_掲示・届け出事項」について掲載されています。

2024年12月24日

著者紹介

長 幸美
医業経営コンサルティング部 医業コンサル課 シニアコンサルタント

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