
「Flow」(2024年:ラトビア・フランス・ベルギー)
森 𠮷隆
その他本年度のアメリカのアカデミー賞で、「野生の島のロズ」「インサイド・ヘッド2」等の強敵を破り、見事長編アニメーション賞を受賞したこの作品。製作国ラトビアではオスカー像が展示され、それを見るための大行列ができたとか。ハリウッド製のアニメーションと比べてかなり低予算で作られたといわれるこの作品ですが、とても個性的で魅力的な映画でした。
主人公は1匹の黒猫。突然の大洪水に巻き込まれますが、ようやく1隻の小さなボートにたどり着きます。そこには既に1匹のカピバラが乗り込んでいて、漂流していくうちにボートには猿や鳥や犬が乗り込んでいき…。
この映画、人間は一切登場しません。全編セリフやナレーションもなく、登場する動物はアニメならではの擬人化を極力避け、自然な動きや表情、鳴き声を実に細かく描き出していて、その動物目線の描写に魅了される一方、物語の背景は一切語られず、なぜ洪水が起こったのか、人間の存在は感じるのに(人間の建造物であろう痕跡はたくさん見られる)、なぜ人がいないのか、もしかして人類滅亡後の世界なのか、ここは地球ではないのかも…と様々な想像をかき立てる余白がある作品といえます。1つの舟に様々な動物が乗り込むというあたりは旧約聖書の「ノアの箱舟」を当然連想させ、そこに宗教的な意味合いを感じ取ることも出来るかと思いますし、そのミステリアスかつ寓話的な世界観が時折ハッとするような美しい映像と音楽と音響で奏でられています。
物語の解釈を自分なりに補完しなければいけないという点では、大人向けの作品ともいえるかも知れませんが、私は逆に子供が観たらどういった印象を持つのか、どう読み取るのか、感想を聞いてみたいなと思いました。
著者紹介
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人事コンサルティング部 労務コンサル課 シニアコンサルタント
(特定社会保険労務士)
「WOWOW映画王選手権」2001年、2002年本戦連続優勝、2011年本選準決勝進出、2013年本戦準々決勝進出。2012年「スカパー!映画クイズ選手権」本選優勝。映画検定1級(2014年は首席合格)。
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